Trip|私のフィンランド探訪記 〈05.ドッグフレンドリーに触れる〉
フィンランドの美しい自然とデザイン、そこに暮らす人々に魅了され、その魅力を発信する活動を行うイラストレーター・フォトグラファーの入海ヒロさんがお届けする、“読む”フィンランド旅。
25年前に1匹の犬を家族に迎えてから、ずっと家に犬がいる暮らしをしています。日常でも旅先でも、そこに犬がいれば自然と笑顔に導かれます。街角で、カフェで、トラムで、森で。フィンランドのいろいろな場所で犬に出会いました。今回は、私が見てきたドッグフレンドリーなフィンランドをお届けします。
フィンランドで出会った犬とその暮らし
●柴犬はフィンランドでも大人気
こちらは、エスプラナーディ公園で出会った柴犬のTaito(タイト)くん。フィンランドでは驚いたことに柴犬によく出会いました。人気の犬種のようで、フィンランドに約1,500匹いるとも言われています。
フィンランドでなぜ柴犬が人気なのでしょう。先日あらためて、Taitoくんの飼い主の女性に聞いてみると、「フィンランド人と日本人に似ているところがあると言われるように、柴犬にも通じるところがあります。柴犬は独立心が強く、知らない人には遠慮がち。でも、好きな人には忠実で愛情深い。そんなところはフィンランド人とも通じています。お互い似ているから、惹かれるのかもしれませんね!」とのこと。
冬には雪の中をまるで狐のようにジャンプしてネズミを捕まえていたというTaitoくん。「犬は喜び庭駆け回り」をフィンランドでも体現したようですね。
カフェレガッタの近くでも、散歩中の柴犬に出会いました。その名もNeko(ネコ)ちゃん。名前を聞いて思わず笑ってしまいました。飼い主さんが、「日本語の名前をつけたくてね。ネコという単語が動物の猫だと知っているのだけど、響きが気に入ったの。」と照れながら笑って話してくれました。
●北欧、ラップランド生まれの犬
母とタンペレに行った時のこと。公園で今まで見たことがない犬種に出会いました。体と尻尾はふわふわの長くて黒い毛におおわれていて、おでこには黒柴のような白い丸があります。体格は大きめの柴犬くらい。私たちが近寄っても吠えることはなく、忠誠心の強そうな雰囲気も柴犬とよく似ているように感じました。
「柴犬によく似ていますね!」と声を掛けると、女性は親切に教えてくれました。「この子はフィニッシュラップフンドという犬種で、その名の通り、ラップランドの人たちと古くから暮らしていた犬なの。」北欧固有の犬種がいるなんて、今まで知らなかった!出会えたことに感激しました。
「柴犬とよく似ているとしたら、フィニッシュラップフンドと柴犬には、もしかしたら同じ血が流れているのかもしれませんね」と女性は言いました。私は、どこかで聞いた「フィンランドと日本はロシアをはさんでお隣さん」という言葉を思い出しました。
フィンランドに住む友人もフィニッシュラップフンドを飼っているとのこと。こちらはJustus(ユストゥス)くん、6歳です。「フィニッシュラップフンドは寒さに強く、暑いのが苦手なんだ。ここ数年のフィンランドの夏は気温が25度~30度近くまで上がるから、Justusにとっては厳しい夏なのかな。冬は大好きで、雪の中で元気に遊び回っているよ!」
シャイで穏やかな性格のJustusくん。なぜかお年寄りと一緒にいるのが好きで、近所のお年寄りには毎日あいさつを欠かさないのだそう。
ヘルシンキから少し離れた郊外に住む彼らは、海が見える森を毎日散歩しています。「犬と一緒に行ける自然が近くにたくさんあることが幸せ。疲れやストレスを感じていても、Justusがいると外に出ようという気持ちになる。僕にとって、忠実で大切な友人なんだ。」と彼は言います。
フィンランドの、あのふかふかの地面の森を、愛犬と一緒に歩いたらどんなに気持ちいいだろう。一緒にきのこを探したり、ベリーを摘んだりする相棒になってくれそうです。
ドッグフレンドリーな国、フィンランド
ヘルシンキ大聖堂で出会ったキリっと凛々しい犬。階段の段差を上手に使って腰掛けていました。私たちの憧れのスポットも、この子にとっては日常の散歩コースなんだなぁと、密かに羨ましく思ったものです。艶やかな黒い毛にオレンジのハーネスが映えていました。秋冬の夜長に、人間も必須のリフレクターを装着しているところがフィンランドらしいと思いました。
ホームステイ中に、ホストマザーと一緒に船でタリン旅行をした時のこと。甲板に四角く囲まれた小さな砂場を見つけました。子どもが遊ぶための砂場かと思い、ホストマザーにたずねると、「ペットと一緒に旅行をする人のためのペット用トイレとして砂場が用意されているのよ。」とのこと。よく見ると柱に「Cats and Dogs」と彫ってあります。
実際に、犬と船旅をしている人に出会いました。甲板で海風を浴びながら、広がる海を彼らはどんなふうに感じているのでしょう。さまざまな場所で同じ景色を一緒に眺めることができるのは、思い出を共有するようで羨ましいですね。
フィンランドでは、トラムや地下鉄、VRなどでも、犬をケージに入れることなく一緒に乗車している光景をよく見かけます。ペットは家族。その言葉がよりなじみ深く感じます。そして、犬たちはとても訓練され、公共の場をよく理解しているようで、おとなしく座っていました。
カフェやショッピングセンター、図書館も、犬を連れて入れるところがあります。許可されているかどうかはドアに表示されています。そして、公園のあちこちで無料のドッグランを見かけました。
ホストマザーは「フィンランドはドッグフレンドリーな場所が多いのよ」と言っていました。“ドッグフレンドリー”、とても印象に残っています。窮屈な思いをさせることなく、公共の場でも変わらずにそばにいることができる。お互いにとって自然で幸せなことですね。
お互いの国に興味を持ったり、繋がりを発見したり、犬は私たちにコミュニケーションのきっかけを与えてくれます。実際に、今回インタビューした2人は、愛犬の話を喜んで聞かせてくれました。どこにいてもそこに犬がいれば、「愛しい存在である」という共通の感情を共有させてくれます。国境や言葉の垣根をするりと越えて。
ドッグフレンドリーな一面にフォーカスしてみると、今まで気付かなかったフィンランドを知ることができるかもしれません。街で、森で、カフェで。フィンランドの犬たちの様子に、ぜひ注目してみてくださいね。
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