見出し画像

Design&Art|フィンランドと日本を繋ぐアート体験

前職で、香りを使ったマーケティングを行っていたまりこさんは、五感による創造性・柔軟性の育成を研究するために、フィンランドでアート教育を学んでいます。ニューノーマルな暮らしを求められる今、「国を超えて創造性を豊かにする機会を作ることができないか」と思い立ったまりこさんは、あるワークショップを企画することに。今回は、その新しい試みをレポートしていただきました。

現代は、先の読めない「VUCA(ブーカ)」の時代と言われています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとって作られた言葉です。VUCAの時代を生き抜くためには、Creativity(創造性)をつけることが大切であると言われています。


アートを通じてフィンランドと日本を繋ぎたい

1. 日本会場-メッツァパビリオン

国を超えたリアルなコミュニケーションが難しくなった今、“ニューノーマルな日常の中でも、フィンランドと日本を繋いでアートに触れる機会を作ることができないか”。知人であるアーティストの田中紗樹さんとそんな話をしていました。

紗樹さんは、旅先の日常に入り込み、土地や人の持つエネルギーを感じながら、そこでしか生み出せない作品を制作しているアーティスト。アートワークショップ経験が豊かな紗樹さんと様々なアイディアを出し合う中で「人は移動できないけれど、アートは移動できるよね!」という話に。

その後、様々な知人や友人にアドバイスをもらいながら構想を固め、「Sensory Art Journey Finland × Japan」というフィンランドと日本同時開催のアートワークショップを実施することになりました。内容はというと、1日目はそれぞれの国の自然の中で普段閉じている感性をオープンにし、そこから生まれたインスピレーションをもとに絵を描き、郵便で送り合い、2日目に互いの絵を融合させてひとつのアート作品を創るという、インタラクティブなもの。

日本側は田中紗樹さん、フィンランド側は自然と人間の関係性をテーマにした作品を発信する友人のアーティスト、Sanna Kananoya(サンナ・カナノヤ)さんをゲストに迎えることに。日本会場は、東京にあるフィンランド大使館のメッツァパビリオン、フィンランド会場は、先日こちらのコラムで紹介したディドリクセン美術館(ヘルシンキ)です。


森の散歩、絵を描く

2. フィンランド 森 1日目

3. 日本 森 1日目

1回目のワークショップ。東京とヘルシンキをオンラインで繋ぎながら、紗樹さんとサンナさんに普段どのように自然からインスピレーションを受けているのかを話してもらいました。

紗樹さんからは、インド、インドネシア、イギリスでの現地の方との交流から生まれた作品についてや、岐阜山麓でのアースバックドーム(*土を主体とした素材で作るドーム型の建造物)ペイントのエピソードを。山間の風景を背景に、作品を溶け込ませるための色使いや素材についてのお話はとても印象的でした。サンナさんからは、フィンランドの中でも、自然破壊された場所が力を取り戻していく様子を描いた作品についてのお話を。いずれもとても興味深く、参加者のみなさんも大いに刺激を受けているようでした。

お話の後は、それをヒントにアーティストと参加者で、それぞれ会場近くの自然の中を歩きます。この日の東京の天気は雨、ヘルシンキは晴れです。


6. フィンランド会場 1日目

4. 日本の参加者の手

思い思いのインスピレーションを胸に会場に戻り、作品作りに入ります。みなさん集中して取り組まれていて、予定していた3時間はあっという間に過ぎていきました。完成した絵の半分を手元に残し、半分は相手の国に送ります。作品に込めた想いや発想を得たものをメッセージにして絵の裏に添えました。


ここフィンランドに日本の作品が到着!

スクリーンショット 2021-06-13 13.02.41

日本からフィンランドの私達のもとに、1日目の絵が届きました。パソコンの画面越しに見ていた作品が実際に手元に届き、筆の跡からはみなさんの体験や想いが伝わってきます。雨の中行われたせいか、雫や池の水面を映し出したものなど、水をモチーフにした作品が多いことが印象的でした。

5. フィンランド 作品 1日目

一方、晴れのフィンランドでは、太陽に照らされる木々や葉をモチーフにした作品が中心です。

それぞれの国で生まれた素敵な絵が、どのようにひとつの作品になるのかとてもワクワクします!


それぞれの想いをひとつに

そして迎えた2回目のワークショップ。最終作品の仕上げ方は紗樹さん、サンナさんのもと、それぞれの国の特色が出るように、1回目のワークショップでの体験について話し合い、届いた絵を見ながら参加者みんなで構想を膨らませます。

8. 日本の制作の様子 2日目

9. 日本の作品 2日目

10. 日本の作品 2日目

日本では、お寺の丸窓から見える庭をモチーフに選び、「円が縁を結ぶ」をコンセプトに、ひとりひとりが丸窓の中にフィンランドと日本の絵を収めることに。2枚の絵を並べては、絵の中に色での繋がりや共通のテーマを見つけたり、ひとつの森を表現するなど、思い思いに作品を仕上げる様子は、なんだか感動的でもありました。

11. フィンランドの制作の様子 2日目

一方フィンランドでは、 Ryijy(リュイユ)をモチーフにすることに。リュイユは伝統的なフィンランドの織物で、サンナさんのおじいちゃんは、自分の結婚式の際に自分が編んだリュイユの上で誓いを立てたとか。リュイユに見立てて、それぞれの絵が糸のように編み合わせるようにして、みんなでひとつの作品を仕上げていくことにしました。まずは、すべての作品を色ごとに分け、小さくちぎっていきます。これはなかなか勇気のいる作業でしたが、ちぎることで絵の細かい部分に目を配れるようになります。そうしてそれらを土、森、空とパーツごとの色分けをして行き、最後に根の部分を加え、私たちが1日目に体感したイメージをひとつの作品へと落とし込みました。


最終作品の展示

13. 展示会 1 2

14. 展示会 2

日本からの最終作品が届き、ディドリクセン美術館に共に展示されました。右が日本、左がフィンランドです。それぞれの国、それぞれの人の想いが詰まった作品を同じ場所に展示することができた時、国を超えた「感性」のコミュニケーションをアートを通して見ることができました。日本のみなさんには、展示のバーチャルツアーを行い、同じ空間にいる雰囲気を味わっていただきました。ディドリクセン美術館の館長からは、「日本とフィンランドを繋ぐとても面白い試みで、それに協力できることを嬉しく思います」と感想をいただきました。

ワークショップを終えて

15. 集合写真 2日目

さまざまな困難は多くありましたが、何よりも参加者の方に喜んでいただき、フィンランドと日本でアート・感性を通して時間を共有できたことが嬉しかったです。フィンランドで何かを自力でするのが初めてだったのですが、フィンランド・日本の方の優しさに触れることができた体験でした。多くの人に支えられて、実現することができたワークショップでした。これからもワークショップを企画し、ニューノーマルな時代に、アートと感性を通じて豊かな時間を持つきっかけをどう作れるのかを模索していきたいと思います。

スクリーンショット 2021-04-05 18.12.41のコピー

Instagram: ma10ri12co