Trip|フィンランドの風景と音 〈02.秋麗のタンペレを歩く〉
刻々と移り変わるフィンランドの季節と自然、街並み。このコラムでは、ヘルシンキ在住の音楽家・サウンドアーティストのSeiji Kokeguchiさんが、独自の感性で切り取った「風景と音」を通して、フィンランドの今をお届けします。
こんにちは。先日私は、毎年4月頃に開催されるフィンランドの現代音楽フェスティバル「タンペレ・ビエンナーレ」に出展する作品のインスピレーションを得るために、開催地であるタンペレへ向かいました。フィンランド第2の都市でありながら、豊かな森と湖を楽しめるタンペレ。ヘルシンキから日帰りでも十分に満喫できる手軽さもあり、観光地としても人気のスポットです。
今回は、深まる秋が美しく映るその街並みやノスタルジックな雰囲気をイメージした音楽とともに、タンペレを歩きましょう。
ヘルシンキから北に約160キロ、電車で約1時間半〜2時間で訪れることが出来るタンペレは、フィンランドの重要な産業都市として知られ、「フィンランドのマンチェスター」「マンセ」とも呼ばれています。まずはその街並みを見るべく、街をちょうど東西に分けるように流れる川・タンメルコスキの畔へ。
想像以上に大きな存在感のあるタンメルコスキ。ただ、その流れはとても穏やかで、川沿いには散歩をする人やベンチに座ってリラックスをする人を多く見掛けます。私もしばらくの間、ゆっくりと様々な角度からの景色を楽しみながら、聞こえてくる音に耳を傾けました。
●Finlaysonin alue(フィンレイソン・エリア)
タンメルコスキは、それぞれ北と南に位置するネシ湖とピュハ湖の間を結ぶように流れています。ふたつの湖には約18メートルもの高低差があり、途中には3箇所のダムと、4箇所の発電施設があります。この水力エネルギーを利用して発展した、タンペレの重要な産業のひとつが紡績業。そして、それに大きく貢献したのが、1820年創業の北欧最古のテキスタイルブランドと言われている「Finlayson(フィンレイソン)」です。
タンメルコスキの西側に位置する旧フィンレイソン工場の跡地一帯は、現在ではフィンレイソン・エリアと呼ばれ、レストランや映画館、美術館などが集まった商業施設として残されています。フィンランドの産業都市として、とても大きな意味を持つタンペレ。そしてその発展の中心となったフィンレイソン・エリア。そこに並ぶ重厚感のある赤レンガの建物は、その偉大な歴史を表しているかのように感じられます。
フィンレイソン・エリアの近くには、1838年頃に建てられた当時のフィンレイソン工場のオーナーである、ウィルヘルム・フォン・ノットベックの馬と使用人のための厩舎をそのまま利用した、タッリピハがあります。
建物は当時の姿のままで残されていて、全体的にレトロな雰囲気があり、さらに秋の風景と相まって、少しノスタルジックな気分に。
美しい庭園を囲むように並んだロシア風の建物には、さまざまなクラフトショップやカフェが入っていて、温もりのあるハンドメイドの作品など、他ではなかなか手に入らないフィンランド製品と出会うことができます。小さなエリアですが、じっくりと見て回っていたら長い時間が過ぎていました。
ちなみに、タッリピハでは現在も、茶色いティウフティ(10歳)と黒いヴィウフティ(16歳)と言う2匹のポニーが暮らしていて、今回も2匹の元気な姿を見ることが出来ましたよ。
Pyynikin Näkötorni(ピューニッキ展望台)へ
タンメルコスキ周辺を3時間ほど歩いた後は、タンペレの街並みを一望出来るピューニッキ展望台へ。タンペレ市街地からは、バスと徒歩で約20分。森を抜けた先にある石造りの建物はとても風格があり、まるでアニメの世界のようにいる様な感覚になります。
展望台は、趣のあるエレベーターと階段を使って最上部まで登ることが出来ます。高さは約26メートルとそれほど高くはありませんが、建物自体が丘の上に立っていることもあり、タンペレの街の様子はもちろん、ネシ湖とピュハ湖、そしてどこまでも広がる森を、しっかりと見渡すことが出来ます。こうして眺望してみると、街自体はさほど大きくはなく、自然を享受しながら発展してきた場所なのだとあらためて感じます。
●Pyynikin Munkkikahvila(ピューニキン・ムンッキカハヴィラ)
展望台の1階には、フィンランドで1番美味しいムンッキ(ドーナツ)で知られる、ピューニキン・ムンッキカハヴィラというカフェテリアがあります。砂糖がたっぷりまぶされた、焼きたての温かいドーナツ。絶妙な甘さ加減とカリカリの食感は、きっと変わる事なく守られてきた伝統の味なのですね。
日が暮れてきたので、タンメルコスキに戻りましょう。2022年のビエンナーレで作品を出展する場所、川の西側にあるキルヤストンプイストというエリアへ向かいます。
夜になると人通りが少なく、ダムの音がより鮮明に聞こえ、川の流れや存在がさらに大きく感じられます。このあたりは、たくさんの木や花が植えられた庭のようなつくりになっていて、今も昔も人々の憩いの場だったのではないでしょうか。
このエリアで目を引く、大きな煙突がついた建物は、1870年から残るタンペレを象徴する建物の1つで、元々はフレンケルという製紙工場。現在は、G Livelabというライブハウスとして利用されています。私が訪れた時には、華やかなダンス音楽が流れていて、そのレトロな外観とのギャップにとても不思議な感覚になりました。
そして、写真に見える趣のある橋は、16世紀頃から存在するハメーンシルタ橋。街の成長に合わせて何度か改修され、1929年に現在の姿になったそうです。夜になると、ライティングがタンメルコスキの水面に反射して、とても綺麗ですよね。
今回初めてゆっくりと歩いた、タンペレの街。ヘルシンキではなかなか見ることのできないレトロな建造物や光景、独特な空気感から感じられたタンペレの歴史に思いを馳せ、帰路に着きました。
…もう少し足を延ばすなら、Café Pispala(カフェ・ピスパラ)へ
最後に、もし時間があったらぜひ訪れてほしい!とっておきのカフェをご紹介しておきます。バスでタンペレ中心部から西へ約10分、少し郊外にあるピスパラというエリアにある、カフェ・ピスパラです。
こちらの焼きたてパンケーキは、卵の味がしっかりと感じられて、ふわふわで、、本当に感動してしまうくらい美味しい!
さらに、このカフェから徒歩5分ほどのPyykkimettä(ピューキメッタ)という小さな公園は、広大なピュハ湖を眺める事が出来る絶景スポットとなっています。もし時間に余裕があったら、ぜひこちらも訪れてみてくださいね。
https://www.seijikokeguchi.com/
Youtube:Seiji Kokeguchi
Instagram:@seeeeeiji