Trip|私のフィンランド探訪記 〈07.草花のある景色〉
フィンランドの美しい自然とデザイン、そこに暮らす人々に魅了され、その魅力を発信する活動を行うイラストレーター・フォトグラファーの入海ヒロさんがお届けする、“読む”フィンランド旅。
白樺、ベリー、きのこ。フィンランドで連想するこれらの他にも、旅行中に散歩をしていると、たくさんの植物に出会います。今回は、街や森歩きで惹かれた植物やホストマザーが教えてくれた野草など、フィンランド旅でみつけた草花をご紹介します。
Pihlaja(ピフラヤ)/ ナナカマド
ホームステイ先の近所の庭先や、路地でよく見かけたのがナナカマド。
キツネのパッケージがかわいい、あのお菓子と同じ名前です。ホストマザーによると、昔はナナカマドが材料に使われていたそう。言われてみると、パッケージのオレンジと黄色のカラーリングは、ナナカマドの葉が紅葉した時の色と似ていますね。ホストマザーと植物の話をしていると、フィンランドに関する小さな記憶の点と点がつながっていくことが多くあって、あらためて自然が暮らしの身近なところにある国だと感じたものです。
Idänsinililja(イダンシニリリヤ)/ シラー・シベリカ
私が初めてフィンランドひとり旅をしたのは5月上旬、ゴールデンウィークの時でした。そして、まず足を運んだのがテンペリアウキオ教会です。岩をくりぬいて作られたというその内観にひとしきり圧倒された後、せっかくなので教会の裏側にまわってみることに。
裏側には、そこに教会があるとは思えないほどに大きな岩山が広がっていました。
なんとか岩山の頂上付近まで登ると…そこには、雲ひとつない青空に草花が広がる、夢のような景色がありました。そして、その一角をその日の空と同じ色の青い花が覆いつくしていました。背丈は15センチほどで、ムスカリやヒヤシンスに似た球根を持つ星型の花、シラー・シベリカです。私にとっては、ひとり旅の心細さを晴らしてくれた思い出の花。日本に帰ってから、球根を探して母にプレゼントしました。今も毎年春に咲いてくれています。
Rosa Canina(ローサ カニナ)/ イヌバラ
公園や道端のあちこちで、生垣のように植えられている白やピンクの小ぶりな花を見かけました。ホストマザーにたずねると、バラの花なのだそう。普段見るものと印象が違うので、バラとは気づきませんでした。
「赤い実をつけるのよ。」とホストマザーが教えてくれて、探してみるとタコや宇宙人を連想させるようなコミカルな実がついています。フィンランド語で「Ruusunmarja(ルースンマルヤ)」、私たちが聞き慣れている名前で言うとバラの実、ローズヒップです。その生きた姿にフィンランドで初めて出会いました。この実をジャムにしているそうで、家にあるものを食べさせてもらうと、程良く甘酸っぱくて食べやすい味のジャムでした。
Sarviketapani(サルヴィケタパニ)/ ブシダ
オーディ図書館では素敵なグリーンに出会いました。ブシダという名前の観葉植物で、トンボの羽のような丸みのある葉っぱにひとめぼれ。
背が高い観葉植物と低めの本棚とのコントラストが、まるで屋外にいるような開放的な印象を受けました。このブシダが部屋にあれば、大好きなオーディ図書館のことを身近に感じられるような気がして、今も探しているところです。
Pajunkissa(パユンキッサ)/ ネコヤナギ
日本でもおなじみの植物にも出会いました。ヌークシオ国立公園で見つけた、ネコヤナギです。パユ=柳、キッサ=猫。まさにネコヤナギで驚きました。連想させるものが偶然同じだったのか、名前を直訳して同じになったのかは分かりませんが、遠い国で、同じ植物を見て同じように猫を思い浮かべていると思うと不思議ですね。
Kuunliljat(クウンリリヤ)/ ギボウシ
ホストファミリー宅の庭の隅ではギボウシを見つけました。こちらも日本でよく見かけますよね。驚いていると、ホストマザーが「アジア原産の植物だと聞いたことがあるわ。庭の隅の日陰にピッタリなのよ。」と話してくれました。日本でもおなじみの植物がここフィンランドに根付いている。なんだか異国に行った幼なじみと再会を果たしたような気持ちになりました。
Ketunleipä(ケトゥンレイパ)/ コミヤマカタバミ
森の木陰に生えていたのは、クローバーのような草。ホストマザーが「この草は食べることができるのよ。」と教えてくれました。パンを作る時によく使い、風味付けのハーブのような役割があるそうです。次はこのケトゥンレイパのパンを食べてみたい。またひとつ、フィンランドでしてみたいことが増えました。
Kissankello(キッサンケッロ)/ イトシャジン
こちらは、友達とセウラサーリ公園に遊びに行った時に出会った花。あちこちで見かける一般的な花で、日本だとフウリンソウやツリガネソウの名前で知られているものと同種類のようです。フィンランド人の友達にとっては、おそらく私たちにとってのタンポポのように、見慣れた花だったのでしょう。この花を撮影する姿を不思議そうに見ていました。私はこの可憐な姿に惹かれたのでした。
草花とフィンランドの街を歩いてみては
イースター前後のフィンランドでは、黄色の花が街を彩ります。こちらはトゥルクの街の橋の上。この日、街の花壇は黄色一色でした。
色を限定したもの、まとまりのあるものが、フィンランドの色使いの特徴なのでしょうか。花屋さんに並ぶ花束は、花の色も種類も最小限に絞られていました。どこか懐かしい感じのする花束に、ときめきを覚えます。
窓辺のプランターもこんな風に赤一色。私はつい、花の種類を増やしたり、カラフルにしてしまいがちで、こういう種類や色をまとめた使い方が新鮮に映りました。
何気なく歩いているだけでも、いろいろな草花に出会うことができるフィンランドの街。次の旅行では、足元の草花に視線を落としてみたり、花屋さんをのぞいてみたりして、草花のある景色を楽しんでみてくださいね。
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