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水木洋子さんの企画に際して

こんにちは、あらきです。上映会の当日まで、あと3週間となりました!!
今週末くらいから上映会の宣伝もzineの宣伝もどんどんしていきますが、その前にらんたん・そさえての企画第1弾をなぜ水木洋子さんにしたのか、そして企画準備を進めるにあたりどんなことを考えたのかを書きました。
よろしければ読んでいただければ幸いです。


この企画の出発点は「わたしが水木洋子さんのシナリオが好きですごく尊敬しているから」というきわめて単純なものです。全部の作品を手放しで賞賛するわけではありませんが、水木洋子さんが書く脚本は全体的に構成のテンポがすごくよくて、原作の解釈とその活かし方もとても自然。水木洋子さんが書くものを読んでわたしなりの水木論を培っていたころ幹事長をつとめていた大学のサークルで上映のプロデュースもつとめていたため、上映会ハイとでもいうのでしょうか、水木洋子さんに関する企画に関する構想がどんどん膨らんでいきました。だからこの企画は5年以上前から温めていたことになります。

残念ながら、まもなく始まったシャカイジン生活とコロナ禍で、企画運営を考える余裕と元気を失いました。そして昨年、原因は特定できていないものの、おそらく怪我がきっかけで結構面倒な病気になり、シャカイジン生活から弾き出されました。ままならない我が身を抱えてそれどころじゃないはずなのに、そんなときに「どんなにカツカツになっても自分であの企画をやらなかったらきっと後悔する」と思ったのです。(その後、体の具合が少し改善したのは幸いでした)
どうせやるなら上映や映画を観る行為をとりまくマッチョさや露悪的なノリをなるべく排して映画をもっと身近に楽しく、それでいて学ぶこともできる活動をある程度長期にわたってやってみようかと思い、〈らんたん・そさえて〉を立ち上げるに至ります。note第1回の記事でもその経緯は書いたので、詳しくはこちらをお読みください。

さて、その〈らんたん・そさえて〉第1回企画として取り上げるのが水木洋子さん。
男性優位な映画業界のなかで実力をもって堂々とわたり歩いた脚本家・水木洋子さんのこと、わたしは本当にかっこいいと思っているし尊敬もしています。
そんな贔屓目のせいでしょうか。水木さんに関する記事や評を読んでいるとすごく気になったのが、水木さんのシナリオを「女性ならでは」「女性らしい観点」あるいは「女性らしからぬ」などとジェンダーと絡めて評する男性の声の多さ。時代背景を抜きにしても、水木さんのシナリオの良さは女性性やジェンダーとは関係ないところにあるはずなのに!とモヤモヤしました。
水木さんは水木さんでやはり世間の取り扱われ方に、「ものを書く女」という短いエッセイを雑誌『映画芸術』に寄せています。

私は、ものを書くという仕事に、女性としてのコンプレックスを常に感じながら、世間を歩く。

(中略)

これは私の育った境遇、時代、そして、女の生き方としてうけた風あたりの強さが、知らず知らずのうちに、女のくせに何か、いけないことをしているような肩身のせまさを持つようになったのだと思う。

「映画芸術」1956年2月号

(本当は全て引用したいくらい複雑なニュアンスのこもったエッセイなので、気になる方は図書館等で読んでいただければ!)

そんな気はもともとありませんでしたが、「世間の決めつけやジェンダーに基づいた考えで水木さんを取り上げるのはやめよう」と、このエッセイを読んだ時に固く決意しました。そして、水木さんというひとりの人間を、ひとりの脚本家を、敬意やフェミニズムの視点からフィーチャーしたいと思いました。そのためには具体的にどんな要素を取り上げるべきか?
現在のところは「情念と交差する、社会への眼差し」という上映企画の副題が、らんたん・そさえてとしての答えです。

わたしのディレクションや考え方には未熟なところもあるし、たとえ今は良くてもひと時代過ぎればズレてるんだろうなという諦めもあります。でも企画者としては、次の時代に水木さんという脚本家の存在を伝える中継地点になれたら、それで十分なんだろうと思います。毎回満点を取りたい欲はちょっとありますが、古臭くて間違ったことも記録の一つです。資料を残す意義はそこにあります。わたしたちは知らない未来に向かって見栄を張る前に、今やれることをやるしかありません。

ともかく水木さんの作品に関する研究や特集が今後も継続的になされていってほしいという願いも込めて書いたこの記事を、ここで締めくくりたいと思います。
今日も蒸し暑いので、無理なく過ごしましょうね!
それではごきげんよう!


*上映企画*『今ひとたびの水木洋子 情念と交差する、社会への眼差し』

2024年8月10日(土) 13:00開場/13:30開演
場所:アテネフランセ文化センター(東京都千代田区)
💐当日は映画系zine「りんどう」も発売します!会場価格1200円で、お求めやすい機会となっていますのでどうぞお見逃しなく。内容については改めてnoteでも告知します。💐

【上映作品】
『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』1962(昭和37)年
製作会社:松竹、M.I.Iプロダクション 配給:松竹 シネマスコープ 白黒 上映尺:1時間34分 35mm
監督;今井正 原作・脚本:水木洋子 撮影:中尾駿一郎 音楽:渡辺宙明 美術:江口準次
出演:ミヤコ蝶々、北林谷栄、飯田蝶子、岸輝子、村瀬幸子、浦辺粂子、東山千栄子、三木のり平、殿山泰司、
原泉、左卜全、十朱幸代、斎藤達雄、伴淳三郎、田村高廣、小沢昭一、織田政雄、市原悦子

東京は浅草、1964年の東京五輪前夜。
レコード屋の軒先で意気投合した72歳のくみ(北林谷栄)と65歳のサト(ミヤコ蝶々)。街を彷徨いながらウィンドウショッピングや若者たちとの交流を楽しむくみとサトだが、実はふたりとも生きることに疲れ果てていて…。
笑いのなかに老後の幸せを問う鋭い水木洋子の視点が光る、傑作社会派喜劇。老け役の名手・北林谷栄と浪花随一のコメディエンヌことミヤコ蝶々をはじめ、豪華キャストによる競演も見どころ。

『夜間中学』1956(昭和31)年
製作:日大芸術学部・同校友会 シネマスコープ 白黒 上映尺:44分 DVD
監督:本多猪四郎 原作:余寧金之助(=瀬田貞二)『郵便机』 脚色:水木洋子 撮影:前田実 音楽:加藤光男 美術:加藤雅俊
出演:吉岡興成、安藤武志、木暮実千代、宇野重吉、小林桂樹、高橋貞二、坊屋三郎、増田順二、沼田曜一、三木のり平

夜間中学に通う少年・鮮太(吉岡興成)は昼間同じ机を使う少年・良平(安藤武志)から置き手紙を受け取る。手紙のやりとりを重ねるうちに鮮太と良平の間に友情がうまれ、周囲の大人たちはふたりの心の通い合いを温かく見守る。異なる境遇に育つ少年たちが互いに対するわだかまりや偏見を乗り越え成長する姿を、爽やかに描き出した名作。原作は『ナルニア国物語』などの翻訳でも知られ、自身も優れた児童文学者である瀬田貞二。
日本大学芸術学部の実習作品として企画・製作された作品で、木暮実千代、小林桂樹、宇野重吉を筆頭に、日本大学芸術学部(美学科)出身の出演者が勢揃いした。

【タイムテーブル】

13:00 開場
13:25 ご挨拶
13:30 『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん』(94分)
〈休憩〉
15:15 『夜間中学』(44分)
16:00 終映予定
★zine販売時間:開場時~上映終了30分後

【会場】

アテネ・フランセ文化センター(東京都千代田区神田駿河台2-11 アテネ・フランセ4階)

【料金】

一律1800円(当日券のみ)

●二本立て、入れ替えなし
●途中入場不可
●上映30分前(開場時)よりチケット販売開始
●作品により、映像、音声が良好でない場合がございます。何卒ご了承ください。

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