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人間が幸せだけの世界に行きたくない理由「人間に必要なものは『幸せ』では無い?」【We Happy Few 解説&考察】

有名なアメリカの哲学者ロバート・ノージックの『エクスペリエンス・マシン』という実験を知ってますか?

この『エクスペリエンス・マシン』にあなたが接続すると、あなたは『夢がすべて叶う』『幸せしかない』世界に入ることができます
しかし、一度接続してしまうと、あなたはそれを現実世界だと認識してしまいます。ということは、あなたはこの仮想世界から一生脱出できないということです。


あなたは、このマシンに接続しますか?


もし我々が本当に幸せだけを追求するのであれば、このマシンに接続するでしょう。しかし、実際には、ほとんどの人が『そのマシンには接続したくない』と答えるのです。
我々は『嘘に包まれた幸せな仮想世界』よりも『残酷な真実が待ち受ける現実世界』を優先するのです。
いったい何故でしょうか?

《ゲーム『We Happy Few』とは?》

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今回は、数年前に発売されたゲーム『We Happy Few』のテーマを紐解いていきましょう!
今作は、名作RPGバイオショック風のヴィジュアルと、『薬』を飲んで現実逃避というオルダス・ハクスリーすばらしい新世界(Brave New World)を思わせる世界が舞台のゲームです。
ゲームとしては賛否両論という何とも言えない作品だったのですが、テーマがまさに『真実と嘘』、そして『幸せと不幸』なんですよね。

《『We Happy Few』の世界》

We Happy Few』では、ゲーム開始時にジョイピルという薬を飲むか飲まないかの選択をします。映画『マトリックス』みたいでワクワクしますよね。
もしこのジョイピルを飲めば、エンディングまでずっとハッピーなわけです。しかし、もしジョイピルを飲まなければ、世界が歪んで見え始めるのです。もちろん実際は、その薬が現実の世界を歪ませ『明るく幸せな世界』に見えるようにしているわけですが......。そして、主人公もまた、人々に『不幸』を感じさせる記事を『幸せ』だけを感じられるように歪ませる『検閲』を仕事としています。
そして、この世界では、街中を歩くときには、すれ違う人々には笑顔を向け、手を振らなければいけません。そうしなければ、ジョイピルを服用していないと思われ、攻撃されたり、警察を呼ばれたりされてしまうのです。
この世界の住人は『幸せ』でいるために、『真実』を知ることから逃げているのです
そして『真実』を追求し、それを暴こうとする他者に対して彼らは攻撃的になるのです。


《『知らぬが仏』とは本当か?》

知らぬが仏』よく聞く言葉ですよね。
『知ると不愉快になるようなことでも、知らなければ仏のようでいられる』という意味。
時には、その後ろに『知るが煩悩』と続いたりします。『知るが煩悩』とは、『知ってしまうと、悩みが増えるだけ』という意味ですね。

実は、英語でもよく似た言葉があります。
Where ignorance is bliss, ‘tis folly to be wise.
無知は至福であり、知ることは愚か』という意味です。

この2つの言葉の意味は、本当にそっくりですよね。
世界中で同じような考え方が存在するということですね。
ちなみに、『知らぬが仏』という言葉は、江戸時代中期(1700~1750年)に出版された江戸いろはカルタに由来しているのですが。英語の”Ignorance is bliss”という言葉は、イギリスの詩人トマス・グレイ1742年に記した詩に由来しているようです。
年代的にも重なるのは、どこかで繋がりがあるかもしれませんね。

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しかし、これらの言葉は哲学者ソクラテスの『吟味されざる生に、生きる価値無し』という言葉と真っ向から対立します。
ソクラテスは、『苦しい過去をしっかり考えて苦しむことで、この先の苦痛にも耐えられるようになる』と説き、彼は『真実を追求する事こそが本当に大事である』という精神を貫き続けました。
この『吟味されざる生に、生きる価値無し』という言葉も、ソクラテスが『自身の思う真実を、自説をねじ曲げるぐらいなら死ぬ!』と自身の死刑を受け入れた時の台詞です。
彼は、『無知の中での幸せ』ようは『快楽』だけを追求するような者は『獣』と変わらない、と残していきました。

《人間にとって一番必要なものって?》

日常生活において、みなさんは『この真実を話すと、他人が傷つく』という場合には、嘘をつくこともありますよね?ただし逆に『この真実は話さないと、他人が傷つく』という場合には、真実を伝えますよね?
そこにはすごく曖昧な境界線があるわけですが、その真実を言うか言わないかを選択しているのは我々自身です。そこには自由が存在します。そして、それを言うか言わないかを決定するのは、『その真実が他人(相手)を傷つけてしまうかどうか』ということですよね。

この『We Happy Few』世界の住人は『全ての真実から逃げる』という事を選んだために、真実を追求し、酷い真実を暴いてしまいそうな『他人』に攻撃的になり、『他人を傷つける』のです。
人間社会では『嘘で造られる幸せ』もあれば、『真実が造りだす幸せ』もあるわけです。そこの境界線、というかバランスというのがとても大事で、そのバランスを取ることが出来るのが人間であり、そうあるべきなのです。
そして、なによりも人間は『独り』ではない、ということが大事な要素なのです。
そもそも、人間がもし『独り』であれば、その世界には『嘘』も『真実』も存在せず、そこには『幸せ』や『不幸せ』などの概念すらも存在しないはずなのです。

結局のところ、ノージックの『エクスペリエンス・マシン』に接続することを拒否するというのも、『独りでマシンに接続する』というのがポイントだと思うんですよね。
人間にとって、『嬉しさ』や『幸せ』はもちろん大切です。
しかし、それよりも何よりも人間にとって大事なものは『他人の存在』なのです。

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A guy needs somebody―to be near him. A guy goes nuts if he ain't got nobody. Don't make no difference who the guy is, long's he's with you. I tell ya, I tell ya a guy gets too lonely an' he gets sick.” 
John Steinbeck, Of Mice and Men

人は誰かそばに居てくれる人が必要だ。誰も居ないと人は狂ってしまう。そいつがどんな誰であっても、彼が君と一緒に居てくれるなら、それだけでかまわない。言っておこう、人は孤独になり過ぎると病気になるんだ。』 ― ジョン・スタインベック『二十日鼠と人間』

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※本記事は上記動画内容の書き起こし+加筆修正版となっています。

※ユル解説とは?
LamNotが、プレイしたゲームの感想、考察や解説、考えさせられたことなどを好き勝手『ユル~く話す動画シリーズ』です。今後は文学や映画作品も追加予定?基本的には哲学的な問題や心理学的な側面から作品を分析する。不定期更新。

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