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エッセイ「ゲルマン仕込み」

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第二次世界大戦のジョーク

最強の軍隊とは?

アメリカ人の将軍
ドイツ人の将校
日本人の兵隊
各国の長所を組み合わせた
理想的な軍隊と聴いたことがあります。

ネット検索をしてみると、以下のような
記載がありました。

米国人の将軍

「決断力があり、リーダーシップ・
カリスマ性に優れている。」
といわれます。

人命を尊重し部下を思いやり
士気を上げるのが上手いとされ
兵士からも尊敬されます。


日本人の兵隊

日本軍の兵士は上官に忠実であり、
不平不満を言わず、ひとたび戦場に出れば
死を恐れず、引くことも知らず、
勇猛果敢に戦います。
全体主義的な負の一面もありますが、
指揮する将軍、将校からみれば
これほどよい兵士はいません。
優れた指揮官のもとであれば
最強の兵士になります。

   引用元:milirepo.sabatech.jp


それでは
小生が体験したエピソードを織り交ぜて
ドイツ人将校について
語ってみたいと思います。






もう20年以上前の話です。

当時、会社行事の一環で
社員への福利厚生として
割安のバス旅行の行事がありました。

小生は当時、幼稚園児であった
娘と息子を連れて参加しました。

向かう先は「○ルーメの丘」です。

馬・牛・羊などの動物を飼育し
ヨーロッパテイストの片田舎の街並みを再現し
小洒落た酪農製品のお土産屋さんが建ち並ぶ
農業テーマパークです。

テーマパーク内には石窯パン工房があり
小生は子供たちと一緒に
手作りパン教室に参加しました。

パン工房に入ると
パンの焼き方を説明する案内役が
ドイツ人のイケメンスタッフでした。

(おお!本格的だな。)
期待は膨らんでいきます。
子供たちもワクワクしている様子です。

ドイツから来た彼は
背がスラリと高く逞しい青年で
年齢は20代後半〜30歳くらい
ダビデ像のように均整のとれた御仁でした。
(名前を失念したので、ドイツ人の彼を
以下、ダビデと呼ぶことにします。)


パン工房での体験教室は開始時間があり
早めに着いた小生たちは
イベントを開催してくれた同僚のM君と一緒に
参加者が揃うのを待っていました。

しかし、定員になるまで集まりが悪く
ダビデは少しイライラしていた様子でした。

テーマパークは見通しが良い丘になっており
パン工房に向かってくる人たちが
遠まきに見えてはいるのですが
時間が押していることもあり、
M君はイベントを開催している立場上と
ダビデのイラつきが伝播したのでしょうか。

M君は元々は体育会系の出身なので殊更ことさらに気合いをつけるノリで

「お前ら!チンタラすんな!
走って来い!」

と注意を促したのです。

すると、ノソノソと歩いていた人たちは
慌てて足早に駆けつけてくる。

ダビデはその様子を見て喜んでいた。
「おぉ、イイぞ〜。
そうだ、気合い入れるんだ。」
とご満悦でした。




パン作り教室は
総勢24名の予定で始まります。

ダビデは名簿に目を通して
参加者の一人ひとりを名前で呼び
じっくりと人物を吟味するように
確認していきました。

全員集まったところで
ダビデによる石窯での
パン作り工程の説明が始まります。

ダビデは意外にも
流暢な日本語で説明を始めました。

凛とした大きな声は日本人離れしており
時に怒っているようにも聞こえます。

そのみなぎる覇気に気圧けおされて
小生の子供たちは少し怯えるようにし、
思わず居住まいを正すほどでした。

まず愛想笑いなどは一切見せません。
端正で彫りの深い顔立ちで説明する様は
戦闘を前に軍令を下す指揮官さながらに
終始ピリついた空気感で
群衆の耳目を掌握しておりました。

「まずは種を仕込む。
小麦粉と水の分量を正確に量るんだ。
よく捏ねて__
そうだ。耳たぶくらいの柔らかさにだ。
適当な固さになったか?
よし!このイースト菌を混ぜ込むんだ . . . 。
パンの形は好きにしていい。」

幼き息子は
「ドラえもんのパンにしたーい。」
とねだっていた。
娘は「わたしは違う形にしたいなー。」
とパン生地を半分に分けようとした時でした。

ダビデはすかさず
「ダメだっ!」と険しい顔で言い放ち
息子と娘は震えるように手を止め
小生の後ろで怯えてしまいました。

ダビデは
「石窯の熱と焼き上がりの時間を逆算すると
生地を半分にすると焦げてしまうからだ。」
幼き子供にも
媚びへつらう態度は一切見せないのでした。


やがて、参加者みんなの
パンの種が出来上がったことを確認すると、

ダビデは
「石窯の中で生地を発酵させるため
20分ほど寝かせるから
その間にバターを作ろう!」
と云って
牧場で取れた生クリームを各自に手渡す。

ダビデは用心深く強い口調で注意を促す。

「このクリームをシェイカーに入れたら
素早く振って下さい!
今から見本を見せるから、良く見るんだ!」

するとダビデは
慣れた手つきでシェイカーを振る。

「いいか?この間は素早く振って!
決して休んじゃダメなんだ。」

振ること20秒ほど経つと
シェイカーからゴロゴロとした音が聞こえる。

「よし!いいだろう。」
ダビデは振ったシェイカーを空けると
満足そうな表情で出来上がったバターを
参加者に見せていた。

「いいか?素早く強く振るのが大切だ!
そうしなかったら大変なことになる。」

ダビデは念のため
小生を名指しして実演を要求してきた。

「えーと . . . Seijiさん?やってみて下さい。」

手渡された広口ビン(シェイカー)に
生クリームを入れて
目一杯に撹拌してみる。

しばらくすると
シャバシャバしていた液体が急に固形物に
変わる手応えがあった。

「よし!完璧だ!」
ダビデがお墨付きを与えてくれた。

「それでは皆さん!バターを作ってみて!」

参加者はようやく和気あいあいとした雰囲気で
めいめいにバター作りを楽しんでいた。

参加者の女の子が
「や〜ん♡出来な〜い!」
と笑いながら言った時である。

ダビデは物凄い剣幕で
「おい!何やってんだ!
だからあれほど注意しろと言っただろう?
あぁ台無しになったじゃないか!」
と厳しい口調で叱りつけました。

公衆の面前で叱られた女の子は
顔を赤らめうつむき加減で
今にも泣き出してしまいそうでした。

「いいか?みんな!
材料は与えられた分しか無いんだ!
真剣に取り組まないと、生地もクリームも
大切な糧なんだから遊び半分でするなよ!」

思いがけない厳しい怒号に
教室の空気は凍りつくのでした。

(アーリア人特有と言うべきなのか?
支配力のえげつないドイツ人将校が
パン工房を仕切っているみたいだ。)

日本に住み、日頃から日本のサービス業の
恩恵を当たり前に受けている感覚からすれば
ドイツ人、または世界標準の顧客対応は
対等の関係であると聞いたことがあります。

果たして__
パンは焼き上がりました。
ダビデの的確な指示の下、
教室には胸のすくようなパンの香りが広がり
焼きたてのパンを頬張ってみると__

(う、ウマい!何だこの美味しさは?)
それは市販品では味わったことのない
別格の美味しさでした。

これがパンの本来の味なのか?
今までのパンと比べると目からウロコとは
このことです。

手作りバターのフレッシュで軽い味わいが
あったかいパンの上で程よく溶けて
絶妙の旨さです。

子供たちも目を丸くして
「おいちーい!」と連呼していました。






ドイツ人の将校

将校とは軍の上層部の命令に従って兵を管理、指導しなければなりません。
その点、規律を重んじ、効率を考えるドイツ人の将校は、現場で隊をしっかり管理し、隊を正しい方向に導きました。

悩める中間管理職として、
ドイツ人将校のエピソードは
おそらく小生の経験した
このパン工房の顛末が物語っています。

常に背筋を伸ばし
注意深く兵の動向を注視し
正しい方向に導き
自らは蛇蝎だかつの如き人から厭われても
黄金の精神で最高の成果を得られるよう
結果にコミットする。

これぞゲルマン魂

人が人を育てる__
その気魄のこもった矜持に敬意を表します。

これが本当のパンの味わいなんだ . . . 。
そう言い残して彼は立ち去っていった。

長文お読み頂きありがとうございました。


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