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ロング・キャトル・ドライヴ  第三部 連載2/4 「憑依」

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これまでのあらすじ

カンバーランド川を渡れば
ナッシュビルのダウンタウンに着くはずが
その目前で事件は起こる。

橋の上では、
ある牛追い業者の事故により
牛の大群を置いたまゝにしていた。
橋上は大渋滞で渡れなくなっていた。

様子を見に行った先で目撃した
双子の少女たちの幻影__

フェルディナンドとユーレクは
不思議な出来事に遭遇する。

後ろ姿で橋の上に立っている
双子の少女たち__

馭者とユーレクが見た双子の少女

若い馭者とユーレクの目撃した内容は
ことごとく一致していた。

しかしながら、
俺には全く見えていなかった。

ユーレクの妄想かと思いきや、
目撃者がもう一人現れたことで真実味を帯びる。

そして、もう一人
中年男性の馭者の様子が気になった。 

「叔父さん!起きるんだ。」
若い馭者が大声で呼びかけても、
身体を揺すっても気を失ったまゝだった。

ユーレクは
「相当強く頭を打ったんじゃないのかい?」
と中年馭者の頭をさすりながら、
打撲した部分を探していた。

しばらくすると、
「うぅぅ. . . 。」と呻き声を発して、
ゆっくりと瞼を開けたのだった。

「あゝ!良かった。叔父さん!」
若い馭者は安堵したのか、ヘナヘナと座り込み
どっと疲れが出た様子だった。

ユーレクは
「意識が回復しても油断は出来ないんだ。
しばらく横になって休んでおくんだね。」
と青年に声を掛けると、

「さあて!その間は俺たちがこの牛たちの渋滞を何とかしなきゃな。」
とユーレクは俺に向かってウインクする。

「あゝ合点だ。ユーレク。」
と相槌を打った。

「馭者さん。
ここは俺たちに牛たちの誘導を任せて、
アンタは叔父さんのことを看てやってくれ。」

と言う訳で
俺たちは事故の始末を請け負った。




俺たちは、橋の上に群がる牛達を
どうにかして誘導しなければならなかった。

牛を驚かせてはいけない。
暴れ出したら、もう手に負えやしない。

ユーレクが云ふには
「牛は目が離れているから正面はほとんど
見えやしない。」らしい。

「繊細な生き物だから正面から近づくと
怖がって敵と見做される。」
とのことだった。

俺はそろりと牛の背後から側面へと近づく。

ユーレクが
「止まれ!」と俺を制する。

すると、俺の眼前に
牛の後肢がブンっと目にも止まらぬ速さで
駆け抜けていった。

「ヒエッ!あぶねー。」
俺はすんでのところで、強烈なフックを
見舞われる羽目になるところだった。

ユーレクは
「云い忘れてたけど、牛は臆病だから
腹回りより後ろに立つと回し蹴りする習性がある。」
とのことだった。

「こうするんだよ。」
ユーレクは干草を手に取り
牛に良く見える位置から近づいて
干草を食むように促す。

牛が干草を食むと、
優しく撫でるようにスキンシップを取り、
牛を誘導するのだった。

(へぇ〜 . . . 上手いもんだな。)
とユーレクの手際の良さに感心していた。

俺たちはあっと言う間に牛の誘導を終えて
橋の渋滞を解消することが出来た。

怒鳴り散らしていた馭者も、
「坊主たち!ありがとうな。」
と礼を言って、1ペニーづつチップを呉れた。

「わぁーお!いいのかい?ヒャッホー!」
と俺は生まれてはじめてチップもらうことに
人のために役立つことに__
喜びを感じたのだった。




俺たちも橋を渡らなければならない。

(俺たちの馬も暴れ出すのだろうか?)

俺は馭者台から慎重に馬車を進める。
ユーレクは馬上から見守っていた。

橋の真ん中あたりに来ても、俺には少女の姿は
見えやしない。

カンバーランド川の雄大な流れが美しく、
何事もなく渡ることが出来た。

橋を渡り切り
先ほどの馭者たちのところへと歩み寄ると、
中年馭者の意識も戻っているようだった。

「やぁ!牛たちも無事だし、叔父さんも
無事だったか?」
と訊いてみると、

若い馭者は
「あゝ、元気になってくれたのは良かったが
少し問題があってね . . . 。」

「いったい、どうしたって云ふのだい?」
とさらに訊ねる。

すると
中年の馭者が
「あなたたちは誰?
ワタシをどうするつもり?」
と云ふ。

若い馭者は
「俺だよ!カルロスだよ!
忘れちまったのかい?パコ叔父さん!」

「はじめまして!俺はフェルディナンド・ランスキーと云います。」

「俺はユーレク・ボリセヴィチです。」

俺たちは中年馭者のパコ叔父さんに挨拶した。

すると__
「あなたたち誰?ワタシはソフィア . . .
ソフィア・エイプリルレインよ。」
と女性のような美しい気品のある言葉遣いで
話し出すのだった。

若い馭者__カルロス・エンリケは
「冗談はよせよ!叔父さん?」
とお手上げといった様子で天を仰いだ。

「さっきから、ずっとこんな調子なのさ。
よほど打ちどころが悪かったに違いねえ。」
カルロスはすっかり参った様子で
ため息をついた。

俺とユーレクは目を合わせながら
奇妙な出来事を飲み込めないでいた。

中年男性はフランシスコ・ディアスという
牛追い業者で甥のカルロスと共に
ナッシュビルの街へ牛を売り捌く予定だった。

頭を強打したのが原因なのか、
今は全く別の人格のソフィアという女性に
なっているのだろうか?

ユーレクはふと何かを閃いたらしく
優しく声を掛けた。
「ソフィア?俺たちは怪しい者じゃない。
ところで君ともう一人誰か居なかったかい?」

すると、中年男性の姿をしたソフィアが
話し出す。
「アレクサンドラを知らない?」

「ひょっとして双子の姉妹のもう一人かい?」
とユーレクは優しく訊ねる。
その様子はまるで女の子に
話しかけている様子に見えた。

ソフィアと名乗る中年男性は
少し震えながらであったが、ユーレクには
心を開いたらしく

「アレクサンドラ . . . 許して . . . 。」
と息を詰まらせながら、
しくしくと泣きだすのであった。



         《つづく》
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