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最高の遊び「ソロ活」。

今更ながら、Netflixで「ソロ活女子のススメ」をシーズン1から見始めている。既にご覧になった方も多いと思うが、江口のりこさん演じるインターネット系出版社の契約社員、五月女恵が定時退社後に一人であちこち遊びに行く話だ。

このドラマの第一話目を見て、私はこの主人公恵にそっくりだなと思った。自慢ではないが、私のソロ活は既にベテランの域に達している。記憶する限り、私のソロ活デビューは大学2年生。鮨の名店「銀座久兵衛」での一人ランチだ。

おまかせコースで、当時はまだ1万円でお釣りが来たと思う。いかにもお金持ちそうは紳士淑女に、若造が何しに来た?的な視線をチラチラと向けられたが、この世にこんなに美味しいお鮨があるのかと、終始感動しっぱなしだったのを覚えている。

久兵衛さんでは、お客さん一人(一組)に対し、ちゃんと職人さんを付けてくれる。私は本当にラッキーで、まだ二代目が大将をされていた頃、若かりし現三代目に握って頂いたのだ。その方が後継ぎの方だとは知らず、隣のマダムが仕切りに「若旦那」とか「後継ぎ」とかそんなワードで話しかけられているのを見て気付いた。

その後も社会人になって何度か久兵衛さんを再訪したが、私にとっては、あの時若旦那に握って頂いたお寿司が今でも一番美味しい。

友達と行動することも定期的にあるが、基本、私は一人だ。映画鑑賞にコンサート、旅行、寿司屋にフレンチ。一人で行って一人で酔っ払って帰ってくる。デヴィ夫人のパーティーだって、単独で3回程参加した。

私は何かを食べたい、これを経験してみたいと思ったら即座に行動しないと気が済まない。一緒に行く人を探していると、日程が先延ばしになることも多く「今この瞬間」に決行する事が難しいのだ。また、色々と妥協しなければならない点も出てくるため、MAXの状態で楽しむことが難しくなってくる。

行きたくもない誘いを受けた場合もそうだ。申し訳なさそうな振りなど1ミリもせず、行きたくないとストレートに断る。私は一度これで、会社の同僚を数人救った事がある。

随分前だが、やたら同僚全員で仲良くしたがる雰囲気の会社にいた事がある。しかもその会社、繁忙期になると月曜から土曜の朝7時半から夜の11時まで、小さなオフィスに缶詰状態だった。勿論お昼ご飯も皆んなで一緒だし、悪い意味で家族のような会社だった。

残業と休日出勤が続いたある日、社員全員、土日連続で休みをもらえる事になった週末があった。私は舞い上がって、暫く会っていなかった友達に会ったり、久しぶりに映画を観に行こうと、朝礼で連休のアナウンスがあった瞬間から頭の中で計画を立て始めていた。

そして昼休み。ある男性が「ねえ、折角の連休だからさ、みんなで長野に行かない?家の両親長野に別荘持ってるからおいでよ」。女の子たちはキャーキャー騒ぎ出し、「え〜、別荘?長野良いね〜!みんなで行こう行こう!」

私は楽しげな雰囲気をぶち壊すのを百も承知で、「悪いけど私は行きたくない。だって折角の連休だよ?私たち月曜から土曜、朝から晩までいつも一緒にいるんだよ?皆んなだって他の友達に会ったりしたくないの?私はみんなの事が嫌いとかじゃないけど、残業のせいでもう長いこと親友にも会えてない。連休はその子に絶対に会って色んな話をしたいの。だから悪いけど、長野には行けない。みんなで楽しんできて」。

するとどうだろう。先ほどまであんなにキャピキャピ喜んでいた女子たちがポツリポツリと「実は私も行きたくないんだ」。「私も、、、」と白状し始めた。

提案して来た男性はとてもさっぱりした性格の人だったので、「そっか。じゃまた今度にしよう!」と気にする様子もなく(本当は気にしていたかもしれないが)長野行きはあっさり無くなった。

だが、仲良しごっこ好きな女性社員がいきなり私に噛みついてきた。「あなたがあんなこと言わなかったら皆んなで長野に行けたのに!余計なこと言って!」

私も負けずに言い返す。「そんなに行きたいなら行けば良いじゃないですか?大切なのは皆んなで一緒にいる事じゃなくてその時間を楽しむ事ですよ」。

するとその女性、「私だって本当は行きたくないわよ!」と捨て台詞を吐いた。思わず吹き出してしまったが、皆何故自分の本心に従わない?

このように、私は同調圧力に屈する事ができないタイプなので、この会社の上司の方と折りが合わず、この半年後に退社した。

ソロ活に話を戻すが、自分が行きたい店や場所に行くからと言って、それが毎回「成功」するとは限らない。店選びを間違ってしまうこともしばしばある。

折角料理が美味しい、雰囲気が素敵だと思って通いたくなる店が出来ても、お店のスタッフが、私が一人だからと変に気を遣って、徐々に馴れ馴れしく話かけて来ることがある。そうすると、一人好きな私はもうその店に行きたくなくなる。

店と私の間に「壁」があるというのがそもそも良いのだ。私が一人でお店へ行くのは、単にお腹を満たす為だけではなく、何かしら考え事をしたり、ふとした閃きを得るためだ。話し相手を求めて訪れるのではない。

こうした失敗は良くあるのだが、一度だけ、かなり予想外の失敗をした事がある。

私が映画会社で働いていた頃の話だ。銀座の近くに合ったその会社は、社員がローテーションで毎週土曜日は半日出勤することになっていた。

その日当番だった私は、時計が13時を指した瞬間、デスク周りを片付け、施錠して会社を出た。平日はスーツ出勤と決まっていたが、土曜日だけは平服でも良かった。夏だったその日、私はノースリーブシャツにサンダル、バッグもお財布一つしか入らないような小さな物を持っていた。出勤前に購入した1リットルの伊右衛門(今は販売されていないと思う)は大きすぎてバッグに入らず、手にブラブラ持っていた。

とてもお腹が空いていたので、近くでお昼ご飯を食べることにした。私は銀座方面へ歩いたが、1階の店はどこも満席で入れない。

空いてる店はないかと、大通りを懸命に探し回る。すると、あるブラックボードの看板を見つけた。マーカーで、「ランチやってます」とだけ書かれていた。その店は1階ではなかったので、流石に入れるかもと思い、エレベーターに乗り込んだ。

ボタンを押し、エレベーターが動き出す。7階で止まると、扉が開いた。途端、私はひっくり返りそうになった。扉の先で私を出迎えてくれたのは、ドーム型の廊下を、右左の壁一面高級ワインが埋め尽くすワインセラーと、黒服を着て慇懃に私にお辞儀をしてくる男性陣の姿。

一瞬引き返そうかと思ったのだが、あの深々としたお辞儀をあの人数でされると、気後れして帰るなんて礼儀に反すると直感的に思い、常連ですよ風の表情で、私も会釈しながら廊下を歩き、受付に辿り着いた。

スタッフに、「ご予約のお客様ですか?」と聞かれる。「いいえ」と答える私。スタッフは受付を離れて、別のスタッフに何やら相談に行く。私は心の中で、お願いだから「本日は予約のお客様で満席です」と言って!と強く願った。

スタッフが戻って来た。「こちらへどうぞ」。あぁ、恥ずかしい〜。周りを見る限り、皆さんちゃんとした服装で来られていて、この店はどう見ても記念日など特別な日にわざわざ訪れる店だ。手に1リットルの伊右衛門を持った女がチョロッと居酒屋感覚で来る店ではない。

でも仕方がない。入ったからには今日はある意味私の記念日だ。お店の雰囲気に圧倒され、空腹はエレベーターを降りた瞬間からもうどこかへ吹き飛んでいた。

ウェイターがドリンクメニューを持ってくる。頼まない訳にはいかないので、一応メニューを開く。そしてまたひっくり返りそうになる。ワインのスタート価格が、グラス¥2500!そこから、¥3000、¥3500、、、。上の方になると、グラスなのに高級ボトル並みの値段が記されている。

本当は¥2500でも十分過ぎる。だけど、¥2500を注文すれば、「はは〜ん、こいつ一番安いやつを注文したな」と思われる。変なプライドが私の中で発動する。じゃあ、¥3000にすべきか?でもそうすると、「一番安いやつだと思われるのが嫌で下から2番目に安いやつにしたんだ」と思われそうだ。

大分予算オーバーだが、そもそもこの店に足を踏み入れた時点で予算オーバーなので、下から3番目に高い¥3500のグラスを注文した。

次に料理のメニューが運ばれてきた。正直単品1皿の注文で良かった。だがそういう訳には行かない。適当にアラカルトで何か頼もう。上からメニューを見ていく。が、どう見ても、単品2〜3皿注文するより、コース料理を注文した方が安い。こんな店に来て、2皿だけ注文というのも変だ。

仕方がないのでコースを注文した。とんでもないランチだ。

ワインと料理が運ばれて来て、色々と料理の説明を受けたが、何も頭に入って来ない。正直味もしない。ワインのお代わりを聞かれる。もうヤケなので、同じものを再度注文する。その後、結局トータルで、3〜4杯は注文した。

コースも終わり、お会計をお願いする。4万弱、、、。

何だか狐につままれたような気分で家に帰り、パソコンで先ほどの店について調べる。検索の結果、「エノテーカ・ピンキオーリ東京店」という店だった。本店はフィレンツェにあり、メディチ家が食べていた料理を出す世界的に有名な店だと買いてあった。

あ〜、私がさっき食べたのはメディチ家の人たちが食べていた料理だったんだ、、、。何だか色々と予想外過ぎて、本当に夢のようだった。

現在、エノテーカ・ピンキオーリ東京店さんは、残念ながら閉店されている。しかし、名古屋にお店があるようだ。いつか、フィレンツェの本店に行って、今度はきちんとした格好で、ちゃんと料理を味わって食べたい。

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