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「AI×BI×ヒューマノイド 30年後のリアル」第21話 スペンドスリフト

突然目の前で起きた衝撃的な光景に、ぼくは目を奪われた。青いボディをした人間型ロボットが、三人の男性を無言で連行している。彼らは周囲を怒りの顔で睨みつけながら連れられていった。テーブルから約30メートルほど離れたその光景は、ぼくにとって見慣れない異質なものだった。

「一体何が起きてるんだ?」思わず口を開くと、VRゴーグルに《Spendthrift:浪費家》という文字が浮かび上がった。

「彼らはスペンドスリフトと呼ばれている、問題のある人たちです」とアーティが冷静な声で説明を始める。

スペンドスリフト――この時代特有の社会問題らしい。アーティの解説によれば、ベーシックインカムで支給される月々の生活費を、贅沢品や不必要なものに瞬時に使い切ってしまう人たちのことだそうだ。支給額を使い果たしてしまうだけでなく、翌月分を借り入れてさらに使い切る。その結果、無一文になると他人にたかったり、商店から盗んだりするという。

「奪ったのがデジタル通過であれば彼らの国民番号に紐づけられ、システムが即座に没収されますが、食品や生活品の略奪は防げない状況です」とアーティが続ける。

どうやら今回の逮捕劇もその略奪行為の現行犯らしい。連行される男性たちも反省しているようには見えなかった。

「彼らは拘置所で一定期間過ごした後、カウンセリングを経て再び社会に戻ることになりますが、多くの場合、彼らの行動パターンは変わりません」とアーティが言う。その淡々としたトーンが、問題の根深さを物語っている。

突然、文字チャットが通知音とともに表示された。「ニワトリと小鳥とワニ」さんからだ。

「要するに社会のクズってことさ。他にもいろんなクズがいるから気をつけたほうがいい。おっと、これ以上の発言はキャンセルピープルの称号をもらいそうだからやめとく」と書かれていた。

「キャンセルピープル?」これもまた初めて聞く言葉だ。

「簡単に言いますと、正義の名のもとに他者を批判することを目的とする人々のことです」とアーティが解説する。「SNSが普及した時代から存在していました。正論や正義を掲げ、批判対象を見つけては徹底的に攻撃し、社会的に抹殺するまでやめない人たちです。それをキャンセル行為と呼ぶようになったことが語源です。言論の自由の観点から規制は緩いですが、攻撃的な発言は監視されているためキャンセルの手法は陰湿かつ巧妙なものになっています。」

「なるほど。それ、ぼくも覚えがあるかも。」

SNSで批判の嵐が巻き起こり、一人の人間の生活が崩壊したり企業が倒産したりした事件の記憶がよみがえった。

「30年前も現在も、彼らの心理構造は変わりません。根源は優越感にあると分析されています。」とアーティが補足する。「優越感は社会的成功、支配、あるいは他者を見下すことでしか得られません。キャンセルピープルはその優越感の奴隷ともいえます。」

ぼくは深いため息をついた。この未来の社会には、テクノロジーによって解決されたことも多いが、新たに生み出された問題もたくさんあるんだろう。

会場の奥でまた別のざわめきが起きた。今度は何だ?

(続く)

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