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「居場所」は家や学校だけじゃなくていい。僕は「あなたがただ居るだけでいい場所」を創る #羅針盤のつくりかた

「自分には居場所がない」
そう感じる子どもや若者は、世の中に年々増えています。

内閣府が年度ごとに公開している「令和3年版子供・若者白書」によると、6割以上の若者が「職場は居場所になっていない」と感じ、半分以上の子どもが「学校が安心できる場所ではない」と感じています

そして、「どこにも居場所がない」と感じる若者の割合は、平成16年度の3.8%から平成19年度には5.4%と増加しています。

地域や学校など、自分が生まれたときから決められている居場所、コミュニティに属して生きていく中で、「私の居場所は、ここではないのかもしれない」と感じる人もいます。

最近ではオンラインコミュニティや、SNSコミュニティが多く形成されていくうちに、自分で「居場所」を創ったり、選択することもできるようになってきました。

家でも学校でもないところにも、「居場所」はある。
ただ、なにもしなくてもいい。あなたがいるだけでいい。

そんな想いを、「フリースクール」というかたちにし、手を差し伸べたいと考えている人がいます。

<Profile>
ひーくん / 中藤寛人(なかとう・ひろと)
岡山県倉敷市出身。2021年9月「フリースクール無花果もえぎ」を設立、代表。 高校時代に不登校を経験。乗り越えた後、同じように不登校となった妹と、母親の関係性をつないだ経験をもとに、2018年に「不登校」で悩む家族の方々に寄り添う活動を始める。2019年の秋には、親子のコミュニケーションをサポートする民間資格「親業訓練インストラクター」の取得を目指したクラウドファンディングを達成。 「家族の中で助けての声が届き合う世界」を目指し、現在はフリースクールの代表として活動。

なぜ、24歳という若さで「フリースクール」という居場所を創ることになったのか。ひーくんのこれまでと、これからを伺いました。

聞き手は、私、ラブソル大学生メンバーのほのか。ラブソルで働きながら、地元岡山で、ひーくんのフリースクール運営をサポートさせていただいています。

家や学校ではないところにも「安心できる場所」を創りたい。

ーーどうして、「フリースクールもえぎ」を創ろうと思ったのですか?

自分と妹の不登校の経験からかな。僕の祖父は会社を経営していたのですが、僕が高校1年生のときに潰れてしまいました。父もそこで働いていたので、当然職を失ってしまって。

すると、従業員から「職を失ったのは、お前ら家族のせいだ」と言われ、嫌がらせを受けるようになりました。脅迫電話やメールは当たり前のこと。悪口が書かれたビラが自宅周辺に配られていたり、僕が高校から帰宅すると、従業員が駐車場で大音量の音楽を流しながらお酒を飲んで寝転がっていたり…。

友人と一緒に下校するのも怖くなってしまったので、違う道から帰ってほしいとお願いすることもありました。

ーーひどい…、そんなことが。

うん。当時は親にも余裕がなかったので、僕が何かことばを発すると険悪な雰囲気になってしまうこともあって。

そうしていくうちに、だんだん家族の中に僕の居場所がなくなっていくのを感じました。大好きな家族の中に、自分が考えていることや、感じていることを話す場所がない。

ーー家族が大好きだからこそ、壊れていってしまうのが感じとれてしまう。

すごく悲しかった。ある日、妹がインフルエンザになって学校を欠席しました。両親や祖父母には仕事や通院があり、また嫌がらせのこともあったので、僕も欠席をして看病をすることに。

実は、皆勤賞が取れるくらい小中高と無遅刻無欠席を続けていたのです。だから、このとき欠席をしたことで、だんだん学校に通う意味も分からなくなってしまって。そこから自室にこもるようになっていきました。

ーー私も不登校の経験があるので、すごく気持ちがわかります。一度休んだのをきっかけに、学校に通うことの意味が分からなくなってしまう感覚…。

そうだよね。でも大学入試もあったので、塾にだけは通って勉強は続けていました。つらいときに寄り添ってくれたおかげで、塾の先生や塾が自分にとって唯一安心、信頼できる存在になりました。そのとき、将来自分もこういう人になりたい、安心できる場所を創りたいと強く思いました。

ーーつらく、苦しい経験があると、そのまま自分の中に閉じこもってしまう人も多いと思います。でもひーくんはそうじゃなくて。自分に居場所を創ってくれた人がいたように、今度は自分がそういう場所を創っていきたいと思えるのって、すごいですよね。フリースクールを創ることになったのは、具体的にはどんな経緯だったんですか?

最初は、個人で活動をしていました。不登校のことで困っている親御さんの会に参加して、相談を受けて。そのうちに頼ってもらえるようになって、「レンタルひーくん」と呼ばれることも(笑)。

ーーレンタルひーくん! いいなあ。

自分の経験から、家族関係に関心をもつようになりました。大学2年生の頃から、親としての在り方や、親子のコミュニケーションのとり方について勉強をしました。

「親業(おやぎょう)」というのですが、そのインストラクターになりたいと思って、勉強や発信をしていたら、周りの人からはひーくん=家族関係の人っていうイメージがついて。

ーー自分がやってきたことが、ちゃんと自分とイコールで結ばれていく。何をしている人なのか知ってもらうって、大切なことですよね。

特に僕みたいな大学生だと、何をしているか分からないと怪しいだろうなと。活動を続けていくうちに、フリースクールを創ってみない? と声をかけてくれる大人に出会いました。

でも、僕は大学で教育を専攻していたわけではないし、当時は、そんな大きなことはできないと思っていました。「一緒にやってみよう」と声をかけてもらっていくうちに、もしかしたら僕にもできるのかなと思うようになって、覚悟を決めることができました。

ーーひーくんの経験や学びがつながった瞬間ですね。

実際にフリースクールを始めてみると、もちろん足りていないこともありました。だけど、自分の目の前にいる生徒さんと触れ合い、つながっていくうちに「僕はこの子にとって、いい存在であればいいんだ」と思うようになりました。

「フリースクールを立ち上げる」ことは、すごく大きなことだと捉えていた。でも、そうではなくて、まずは目の前の生徒さんと向き合い、寄り添う。心を回復し、その子がその子らしくいられる時間を一緒に創っていく。

そう思えたら、今の自分でもできるかもしれない。フリースクールを創る準備は、もうできていたのだと感じられて。その瞬間がスタートだったと思います。

想いに共感してもらうことで、仲間を創りたい

ーーフリースクールをスタートさせると、一緒に働く人が必要になると思います。今は、どのような方が働かれていますか?

今、一緒に働いているスタッフは僕以外に11人。不登校を経験したことのある20歳前後の人たちがほとんどですね。初めのころは、僕と生徒さんの二人きり。その後も生徒さん一人に対してスタッフが二人、みたいな環境でした(笑)。

ーー手厚い環境! スタッフはどうやって集めたのですか? 

一般的な求人みたいなものは出していなくて。知り合いや、イベントでの出会いからスタッフを見つけていきました。

僕の経験や、フリースクールを創りたい想いを話すことで共感してもらい、一緒に働き始めたという感じかな。想いをベースにつながっていくような。だから、実際に働き始めてからも、想いや感情は大切にしています。

ーー想いや感情。具体的にはどんなことをしているんですか?

生徒が帰宅したあと、スタッフ同士で振り返りをしているのですが、このときにも事実だけではなくて、そのときに感じたことや、考えたことも共有してもらうようにしています。時間がないときにはテキストで共有してもらうことも。

ーーなんだか、ラブソルのミーティングとも似ている気がします! 私たちも、起きている事実や進捗だけでなく、そこで何を考えたかとか、どう感じたかを言語化する文化があるので。
ひーくんが感情を大切にしているのはどうしてですか?

今は特に、仲間の存在を大切にしたくて。一番は、仲間を失うことが怖いのかな。これまでにもチームのリーダーというのは3回ほど経験してきました。でも、どれもうまくいかなくて、何度も崩壊してしまった…。

これまでに僕が描いてきたリーダー像は、今と全く違っていて。仲間がしんどいとき、とりあえずここを乗り切ったら楽しいよとか、今頑張ったらいけるよ、みたいな「頑張る」ことでしか引っ張ることができないリーダーでした。

だから、仲間が本当にしんどいときに気づくことができなかった…。急に仕事にこれなくなってしまったり、泣きながら電話で相談をしてくれたり。「仲間のことを考えたい」と思いながらも、結局一番に考えられていなかったなと。

その経験から、感情を大切にしたい。普段の会話やコミュニケーションでも、仲間が考えていること、感じていることを大切にしたいと思うようになりました。

ーー今のひーくんをみていると、最初からリーダー気質の人だと思っていたので、そんな過去があったなんて知らなかったです…。
ひーくんは、お仕事の依頼の仕方がうまいなあと、いつも思っていて。何か意識していることはありますか?

お仕事の依頼をするときも、感情面は意識しているかな。まず感情と欲求を伝えて、そこから理由、要求を話すという話し方は、ずっと大切にしています。

さまざまなコミュニケーションの中で、仕事になると「これをしておいてほしい」や「これを制作して」と業務連絡ばかりになってしまうこともある。だけど、その前にワンクッションとして感情や欲求の部分、「こういう想いがあって、これが必要になるんだ」と話をしておくことを大切にしています。

仕事だからこそ、感情と欲求を話すことで、気持ちや心がつながった上でお仕事をしていきたいと思っています。

ーーなるほど。ちなみに私はひーくんにお願いをされると、断れません!

え、うそ! 

ーー僕はこれを創っていきたい、だからこれが必要なんだ。あなたはその力を持っているからお願いできないかなと言ってくれる。目的と必要なことが明確だから依頼されても納得するし、力になりたいとついつい思ってしまうんですよね(笑)。

あ、よかった(笑)。

フリースクールのその先も、責任を持っていきたい。だから僕は「学園を創る」。

ーーひーくんはこの先、どうしていきたいと考えていますか?

フリースクールを始めてから少し経って、高校生の生徒さんも増えてきました。通信制の高校に通いながら、フリースクールで学習支援だけ受ける生徒さんもいます。彼らと接していくうちに、うちで高校卒業資格まで取得することができたら、完結して支えていけるなと考えていて。

ーー確かに! 小中学生の生徒さんでも、最終的にひーくんのところで高校卒業資格まで取れたらお互いに安心しますね。

そうですよね。だから、島根県にある高校と提携をすることにしました。 4月から、無花果(いちじく)学園を創ります! 

ーーひーくん学園長に! 「無花果」という名前なんですね。その由来は?

無花果という漢字は、無い、花の、果実と書いて無花果。でも、実は無花果は、普段僕たちが食べている実の部分に花が咲いている果物なんです。それを子どもたちとなぞらえていて。

学校に行くことができないとか、勉強ができないとか、生きているときっといろんなことがあると思う。実際、子どもの今だけを見て、「これがない」「あれができない」と言ったり、逆に「未来には可能性があるね」と、今にはなんの可能性もないように言ったりする人が多いと感じています。

でも、そうではなくて、この瞬間も子どもたちはその子らしく咲き誇っている。その子の中で咲いている花を大切にしたい、そういう想いをこめて「無花果学園」という名前にしました。

ーーすごくあたたかくて素敵な由来ですね。そう思ってもらえたらきっと、子どもたちも嬉しいと思います。学園設立に向けて、具体的に動いていることはありますか?

一番は生徒さんを集めています。それから、オンラインでも通えたらいいなと思っているので、その整備も。現実的に考えて、一年後には正式にオンラインでも通うことができて、卒業資格が取得できるようにしたいですね。

そこも踏まえて、勉強だけでなくeスポーツや、ゲームについても勉強しています。学園の中に、eスポーツ部門も事業として創っていますね。

ーーなんだか今の時代と合った、新しい学園ができる気がします!

創っていきたいなあ。自分たちの活動を広く届けて、引き続き子どもたちと関わっていきたい。子どもを変えようとするのではなく、ときには親が変わらないといけないと気づくこともあると思う。そのきっかけになれたらいいなあ。

学園を創り、大きくしていくためにも、心の支えになっている仲間を大切にしていきたい。そして素直に、まっすぐに、目の前の生徒さんに責任をもって接していきたいですね。

誰にでも「大切だと思える居場所」が一つでもあれば。そして居場所の数が多いほど、精神が安定し、自己肯定感が向上したり、生きやすいと感じられたりすると思います。

もしかしたら、地域や学校、職場には安心できる場所がないと感じてしまうかもしれない。

しかし、自分の居場所や安心できるコミュニティを自分で創り、選択することができる時代はもう、来ています。

ひーくんのように、居場所を自らの手で創る人が増えれば、この世界はもっと生きやすくなるはず。

誰かの居場所を創れたら。その思いで、私たちラブソルも自社コミュニティ #喫茶ラブソル を創り、育てていきます。

こちらの記事は、Twitterスペースで週一回配信している「ラブラジ」の内容をもとに再構成しました。

◇フリースクールもえぎはこちら

◇無花果学園はこちら

取材・執筆・挿絵イラスト:野元 萌乃佳
編集:柴山 由香
バナー制作:小野寺 美穂

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