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寄稿詩人の紹介⑩ ~紫衣~

週に二度、詩誌ラ・ヴァーグに詩を寄稿している詩人を、一人ずつ、一問一答形式(10の質問)で紹介しています。

今回は、紫衣さんです。紫衣さんは「詩」だけでなく、詩誌La Vagueの「写真」も担当しておられます。

それでは、紫衣さんへの10の質問をどうぞ。

             * * *   

1)あなたはどうして「詩」を書いているのですか?

幼い頃から、万華鏡のように目の奥でめくりめく鮮やかな光景を、白紙に書き留めるのがすきでした。それは現実とも非現実ともつかない断片であったり、誰かの話し声であったり、物語のかけらのようなものであったりしてすぐに消えてしまうものでしたが、それらを“詩”のかたちに表現して残すことが、自分にとって一番自然に感じられたからかもしれません。

2)「詩」とあなたに関する印象的なエピソードを1つ、教えてください。

小学校一、二年生の頃の担任・桑野洋子先生が、毎日のように詩や散文を自由に書かせてくださった下敷きがあるのですが、印象に残っているのは14歳の頃のことです。

三好達治の「乳母車」を目にしたとき、“母よ──”の呼びかけから始まるその響き(淡くかなしきもののふるなり/紫陽花いろのもののふるなり)、鮮やかに浮かぶ夕陽の色、覚悟のような意志が、当時苦しみとかなしみに打ちひしがれていた心に刺さり、揺さぶられて何度も読み返したのを憶えています。

4)詩集以外でのあなたの愛読書は? 好きな理由も教えてください。

◆天野可淡 : 人形・吉田良一 : 写真『KATAN DOLL RETROSPECTIVE―天野可淡作品集』
◆小川未明 : 文・酒井駒子 : 絵『赤い蝋燭と人魚』
◆伽羅 : 人形・たかはしじゅんいち : 写真『人形見(ヒトガタミ)』
◆フーケー『水妖記―ウンディーネ』 
◆柳田邦夫『遠野物語』
◆その他 泉鏡花、内田百閒、川端康成、幸田露伴、田中貢太郎、夏目漱石、渡辺温の短編集…… など

生きた人間よりも、血の透けるような球体関節人形(ヒトガタ)に心惹かれます。現代に書かれる純文学なども大好きですが、怖い話や哀しいお話、耽美な読み物、夢と現のあわいを行き来するような“幻想世界”に、幼少期からつよい憧れがあるからでしょうか。

6)子どもの頃、何になりたかったですか?

ピアノ奏者、絵本作家です。一方で何者にもならず、のんびり静かにたのしく暮らすことも、夢みておりました。

7)最近のマイブームは?

《写真・映像》と《詩》を組み合わせた作品づくり。セルフポートレート。国内外の方々にたのしんで観てもらえるような作品や、ご依頼者様一人ひとりのご要望を具現化した作品も、今後はもっと多く承ることができるようになりたいです。

8)ご自身の代表作・自信作の詩を1つ読ませてください!(リンクも可)

代表でも.. 自信作でもありませんが、大学の講義に呼んでいただいた際に朗読した詩の一つ、拙詩集『旋律になる前 の』(思潮社)所収・「灯籠流し」を添えてみます(※文字数の関係により一部抜粋)。
怪談調の読み物がお好きな方、この詩の続きに興味を持ってくださる方がいらっしゃいましたら、どうぞ拙詩集をめくってみてください。

「灯籠流し」

あえるんだろうか さきに
いってしまったひとは

足もとがゆらぐ
(どうしたって だめだったって
(うえに あがれなかったって
一本の白蠟に
焔を燈し
底のみえない波打際へ手放した

水溶性の薄紙に浮かびあがる〝ひらがな〟が
あかい影絵のようにふるえ
呼気さえも眠りにつく
この丑三つ時に

  *
あかるさが呼びかけてくる。
めざめる瞬間、すこしだけこわかった。カーテンの透き間のほころび。天井に反射するみずのたゆたい。頬骨にあたる陽のひかりにも感触があることをしった、あさ。はみ出たゆめの残滓を五本の指に垂らしたまま、立ち昇ってゆく気配。水に潜ったあとのように、ゆるくかぶりをふる。
毎年おとずれる祖母の家。
──いってこや 連れてったりゃあ
きょうは此処いらきっての灯籠流しやで、えか
縁側に射す陽の光。落ちた椿のしろさがまぶしくて、ぎゅっと片目をつむった。

(匣、なんやね ひとの身体みたい)
均等にきりそろえた木枠を組みたてながら、口にした。年のはなれた姉の隣で。嫁ぎの日が近かった。似てるよね、スカイランタン。しってる? すきな絵をかいて──ちゃんも、どんな願い事でもええんよ。くっついた和紙をほぐしてひろげて、そうっと息でふくらませて。点火させ熱を帯びたら、真っ暗闇のなかをまあるく照らして飛んでゆくの。ひとつ、ふたつ。夢想する。よわい光よ。かぞえるの。ふたりの空を囲むように、たくさんのあかりが集まれば、きっと 迷わないでしょう、これからゆくみちを。

手をつなぎ。
みずぎわをあゆみながら思いめぐらす。わたしはあの日、見たのだろうかと。かの女の花嫁衣裳を。語って聞かせたランタンで彩られる闇夜に祝福されたはずの、宴の列を。ふしぎやね。すれ違うひとが皆、傘をひろげてゆく。ここにだけあめがふっている。わたしは姉に呼びかけた。金襴緞子の写真がみたいと──。
口を噤む。どうして泣き腫らした目をしているの。

黒い漣。
しろい息を吐き、物憂げに目を彷徨わせていた姉の表情が、死人のように凍りつく。

(※以下、略)

9)本誌でどんな詩を書きたいですか?
また、これから本詩誌をどんな詩誌にしていきたいですか?

そのとき聴こえてくる“声”に耳を傾けて、一つひとつに寄り添うような詩を書きたいです。

またわたしは、後からお誘いいただいた身ではありますが、創刊前の今、既に多くの方々から《La Vague》を話題に挙げてもらっていることが嬉しいので、これから先も待ち望まれる詩誌にしてゆけたらと想います。

10)そのほか、ご自由にどうぞ!

このたび《La Vague》にお声がけいただいたきっかけが、“写真の提供”でありましたことを、畏れ多くも光栄に想います。

一覧を見返していると、光やしずく、みずの揺らめきを求めて、通い慣れた道端や白昼の川辺、冬の波打ち際、ときには東北、北海道の最南端をひとり旅した記憶の断片が蘇ります。

詩がうまれるときと似て、シャッターを切る瞬間はいつもひとり。独りきりだった“被写界”に思いがけず時を経て、違う角度から光をあてられ皆さんの眼差しを添えられて、誌面を彩ることができるなら、これほど嬉しいことはありません。純粋に“共有できること”の喜び、“独りきりでないこと”の心づよさを感じます。

  *

さいごに... あらためまして。現在、お仕事・自己紹介を含む《オフィシャルサイト》準備中のため、かわりに“詩と写真”に関する記事・SNSギャラリーを一部お載せしたいと思います。

ひっそりと、片隅で見守っていただけましたら幸いです。

◆実践女子大学からのインタビュー記事

◆実践女子大学文学部国文学科《近現代文学史b》ゲスト講義の様子

◆Instagram① Poem・Photo

◆Instagram② Portraitmodel

                * * *

以上、いかがでしたでしょうか。
本誌の発刊もまもなくです。次回の更新もお楽しみに。


 


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