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私の内なるナウシカは日和ったのか?

土曜日の朝という至福。
いつものことではあるが、休日の朝は大抵息子の方が先に目を覚ます。
寝ぼけたままむくりと起き上がり、ぼぉっとした様子で静かに私の近くに座って動かない幼い息子。
しばらくするともう一度ゆっくりと横たわる。
無意識に母の腕を探し、頬をこすりつけ枕にする。

一晩中の冷房によって冷たくなった自分の二の腕に、温かく柔らかな重みを感じてうっすら目を覚すこの上ない贅沢。
上質な羽二重のように心地よい息子の頬の感触。
片目を薄く開けると息子の小さな頭が目に入る。
細い髪の毛一本一本に静かな生命力が宿っていることを感じる。

もう片方の手で息子の頭をなでると息子はくるりと振り返り、満ち足りた笑顔を向けてくる。
欠けたところのない完全なる信頼と幸福。

こんな顔を、誰かが一度でも自分に向けてくれたならば。
それだけで私の人生悪くなかったと信じられる気がする。

息子の顔には点々と赤い発疹が出来ている。
先日寝ている間に蚊に刺されてしまったのだ。
何かの病気か感染症かと家族総出で心配したが、赤い発疹は顔と手足、つまり服で隠れている場所以外にしかなく、息子もいたって元気な様子から、ただの虫刺されだろうと結論付けた。

さて金曜日の午後、私は会社を早退した。
先週から計画していたことである。
長く続いた仕事の山場を木曜日にようやく超え、私はもう心身ともに疲れ果てていた。
ここらで一発休まなきゃ倒れる。

持病となった良性発作性頭位めまい症(私の場合、睡眠不足や過労、ストレスなどが引き金で強烈なめまいが起きる)が再発してしまう。

金曜の午後、早退しよう。このタイミングなら仕事仲間に迷惑もかけまい。
先週の時点でそう心に決めていた。

計画通り、金曜日AM11時過ぎに上司に報告を入れた。

「申し訳ありません。息子の保育園から電話があり、息子の身体に赤い発疹が出ているとのこと。現状熱はないものの、午後病院へ連れていくため早退させていただいてよろしいでしょうか」
迫真である。

あれ、お前の中のナウシカどこいった!?
そんな声が聞こえてきた気がする。

息子の身体に赤い発疹が出ていること、熱はないことは本当だ。
発疹は虫刺されであるため当然熱も出ないのだが、嘘は言っていない。

私の中のナウシカはこう言っている。
「嘘は出来るだけ少ない方がいい」


お前のナウシカ、日和ってんじゃねーの!?
そんな声が聞こえてきた気がするが、違うのだ。これは方便である。

誰にも迷惑をかけないように万事とり計らったうえで、私は知恵を絞り自分の肉体と精神を守るために必要なことをしたのだ。

私は恥じない。
一歩も引かない。
一片の悔いも無し!

無事お休みをいただき、その日14時から18時までぶっ通しで泥のように眠った。一度たまらずお手洗いに起きた時に夫とすれ違った。
ゾンビのようによろめき歩く私をみて夫が「たいたいばあちゃん」と呼んで笑っていたのをうっすら覚えている。

休息と睡眠をチャージして、私は蘇った。
グッバイ、良性発作性頭位めまい症。


みなさま、残暑厳しい日が続きますが何卒お体お大事に。

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