小説『あの川を一緒に』Ⅱ(蒲田篇)
あの川を一緒に
「…まあ、これで一応、新刊の印刷はできそうだ」
東京 蒲田
イベント当日、呑川(とある映画で怪獣が上陸した河川)の流域を南東に進み、私達は蒲田へと向かった。会場である蒲田産業会館に到着した私達は、友人の幹雄と合流し、望月まぅゆ様のアイドルグループと共に、出展ブースの設営を進めた。
「そうだね。新刊も多めに印刷できたし、
きっと沢山の人に見てもらえるよ」
一応の自信に満ち溢れながら、私達は即売会の開始を待つ。小規模なイベントではあるが、会場には人々が集まりつつある。
七海と笹木さんが「大森清陵会」の販売スタッフを担当し、サークルの作品を宣伝してくれる事になった。七海はメイドの姿に着替え、笹木さんはいつも通りの格好で現れ、私達のブースで待機している。
「ななみん、そのコスプレ可愛いね!」
「ななみんと笹木さんが宣伝してくれれば、
きっと沢山の人に注目してもらえるよ!」
そう話しているうちに、イベントが始まった。笹木さんは普段通りの態度で作品を宣伝し、七海は可愛らしい声でお客さんに声を掛ける。
笹木さんと七海、二人の熱意に応えて、お客さん達が作品を手に取り、ブースを賑わしてくれている。
「うわ~、凄い宣伝効果だね! 笹木さん・ななみん、ありがとう!」
私達は手を取り合い、笑顔で喜びを分かち合った。
笹木さん達が店番を務めてくれている間、私達は他サークルのブースも見に行く事にした。
「そうか。なら、顯の好きな作品が見付かるかも知れないね」
私達は一緒に、そのブースに向かった。特に顯は、実に分かり易く興味津々な様子で、アイドルの同人誌に飛び付いた。
「顯は、いつもそうだね。まあ、趣味を楽しむのも大切だよ」
そう笑いながら私達は、気に入ったグッズを手に取り、お会計を頼んだ。今回のイベントは、ただ作品を販売するだけでなく、新たな出逢いや刺激を得る場でもあった。これからも私達は一緒に成長し、新たな作品を生み出し、仲間との絆を大切にしながら、未来に向けて歩みを進め続ける。
こうして即売会が無事に終わった後、私達は蒲田の中華料理屋に寄り、ほかのスタッフ達とも楽しく飲食しながら、今日という一日を総括した。
「…ああ、本当に楽しかったね! ここの料理も、最高だよ!」
私達は食事をしながら、今日の同人誌即売会を振り返ると共に、大切な仲間達についても話し合った。
「七海の可愛さには、やっぱり癒されるよね。
彼女の笑顔を見るだけで、こちらまで元気になれるんだ」
七海や笹木さんだけでなく、望月まぅゆ様への感謝も話題になった。
「望月さんは、本当に素晴らしいアイドルだよね。
私達の応援が、少しでも彼女の活躍に繋がればと思うよ」
お互いの思う所を分かち合いながら、私達は打ち上げ会を楽しんだ。同じ趣味を持つ仲間との時間は本当に大切で、心が暖かくなる。この日の出来事を振り返りながら、私達は更なる成長と新たな出逢いを期待して、笑顔で帰路に就いた。次回のイベントも、きっと素敵な感動が待っているという事を、今から楽しみに感じている。そして…。
こうして、会食を含む全てのプログラムが終わり、私達は解散した。しかし、先に帰宅したはずの七海から連絡が来たので、蒲田駅前で再び合流する事になった。どうやら終電車に乗り遅れ、翌朝まで帰宅困難者になってしまったらしい。
申し訳無さそうな表情で謝る七海に、私は笑みを浮かべながら頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ななみん。それなら、
一緒に泊まって明日までゆっくりしよう」
そこで私達は、蒲田駅前にあるカラオケ屋へと向かった。夜の街を一緒に歩く七海は、私と手を繋ぎながら嬉しそうに寄り添ってくる。
カラオケルームに入り、私達は好きな曲を選んで歌い始めた。七海の歌声はとても可愛らしく、私は彼女の歌声に魅了された。
「私も、七海の事が大好きだよ。これからも、ずっと一緒に居るからね」
七海の笑顔と言葉に心を満たされながら、二人で一緒に歌い、兄妹としての特別な時間を過ごした。
翌朝、私達はカラオケ屋を出て、蒲田の朝市で美味しい朝食を楽しんだ。七海は目を輝かせながら、美味しそうな食べ物を口に運んでいる。
「そうだね。七海と一緒に食べる御飯は、いつもより特別な味がするよ」
この特別な時間が終わる事を惜しむように、私達はゆっくりと歩いて家に向かった。七海の笑顔や優しさに触れながら、これからも兄妹としての絆を大切に深めたいと感じた。
後日、私は笹木さんと一緒に横浜の街を歩きながら、同人誌即売会を手伝ってくれた事への感謝を、改めて伝えた。
「笹木さん、先日は本当にありがとう。
新刊を書いてくれたお蔭で、即売会が成功したんだよ。
それに当日も手伝ってくれて、本当に助かったよ」
そう言いながら、笹木さんと横に並んで歩いていると、今度は笹木さんが、微笑みながら私のほうに顔を向けた。
「い…いや、別に…ただ、こうしてあなたと一緒に居る事は楽しいし、
感謝している気持ちを伝えたかったんだよ」
そう言って笹木さんは、戸惑っていた私の手を握り締めた。そして、朱夏の風が近付きつつある横浜の景色を背に、優しく語りかけた。
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2024(令和六)年6月29日(土曜)
大森清陵会