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『やさしい猫』と 気づかなかった人権問題

ちらりと見たタイトルの印象と、読後感が全く違った本。

『やさしい猫』 中島京子


タイトルに合わせた、ほんわかした表紙の絵。のんびり、まったりした誰かの日常生活をゆる~く描いている小説だろう・・・と思って読み始めたら、あっという間にその思いは崩れた。

日本の入国管理制度を描いた社会派小説だったのだ!

母子家庭で育つ主人公の女子高生マヤの語りで、物語は進む。保育士をしている母ミユキと二人暮らしだった小学生のとき。まじめに働くスリランカ青年クマラ(クマさん)が、ミユキと出会う。そうこうするうちに、3人で暮らすことになるのだが、失業という事態がクマさんに降りかかる。ミユキとクマさんは結婚したものの、クマさんは「不法残留」に。不運にも入国管理局に出頭途中で、逮捕されてしまう。とてもこの世のものとは思えない、収容施設に入れられ、病気になってしまったクマさん。そんなクマさんを助け出すために、マヤ、ミユキは多くの人の力を借りながら裁判を通じて、理不尽さに立ち向かう・・・

今の日本では、在留期限を過ぎた外国人はオーバーステイとなり、退去強制処分(帰国させられる)+5年間日本に再入国できない。帰国しなければ、収容施設に入れられる。一時帰宅を求める仮放免申請をしても、いつ出られるかわからない・・・・

収容施設の生活実態に、読んでいてつらいを通り越し、あまりに収容者の人権を軽く考えていると思わずにはいられない。おりしも、今年3月、入管施設に収容中、命を落としたスリランカ人女性ウィシュマさんのことが思い出された。この事件と、小説の内容がリアルな現実として、私に迫ってきた。

一方で、一般の人々には入国管理制度がわかりにくい。自分には関係ないと思い、そこに収容されている外国人たちの実態も身近に感じにくいところもある。

でもこの『やさしい猫』は、このわかりにくい、身近に感じにくい部分をわかりやすく、重くならない筆致でえがかれている。だから、ちょっと心にそよ風が吹くようにも思えるのだ。私自身知らなかったことも多く、マヤたちと共に学び、一緒に裁判で闘った気さえする。とにかく、インパクトがドン!とある本だった。

国・入国管理局・収容施設・国際結婚・外国人問題など多くの考えるべき問題を提起した『やさしい猫』。今後ますます、多文化共生の一環として外国にルーツがある方々と生活をしていく私たち。そんな私たちに、新しい気づきと、視野を広げるきっかけになる力強い一冊だと思う。











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