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#tolstoytogether(#共にトルストイを)でつながる世界/作家イーユン・リーによるトルストイ『戦争と平和』のSNS読書会

Tolstoy Together:
85 Days of War and Peace with Yiyun Li

「トルストイの『戦争と平和』をイーユン・リーと共に読む85日」
by Yiyun Li
September 2021 (A Public Space)

「『罪と罰』を読まない」

言い切っている。潔い。

これは本のタイトル。ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことのない4人が、読まずにどういう話かを想像して話しあう読書会(?)を開き、実際に読み、読んだ後に感想を述べあう読書会を開いた。その記録である。

4人とは、岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美。

岸本さんは翻訳家でエッセーも書く。三浦さんは言わずと知れた作家。吉田篤弘さんと吉田浩美さんは「クラフト・エヴィング商會」名義でいろいろやってる人たち。いやしくも、4人とも本に関する仕事をしている人たちである。そんな4人が、だれも、あのドストエフスキーの『罪と罰』を読んでいなかった。

その恥ずかしさを逆手にとってというか、だったら読んだことないヤツにしかできない楽しみかたをしよう、ということで、前代未聞の読まない読書会というのが開かれることになったらしい。

楽しそうだなぁ~

こういうこと思いつく人、好きだなぁ。おもしろがってノってくる人たちもいい。そしてそれを本にしようという奇特な出版社も、すごくいい。

私はかろうじて『罪と罰』は若いころに読んでいるが、読んでいない名作なんて腐るほどある。

『戦争と平和』もそうだ。新潮文庫で全4巻、光文社古典新訳文庫で全3巻もある、文豪トルストイの名作。

作家のイーユン・リーがコロナ禍の2020年3月に、SNSでトルストイの『戦争と平和』を読み進める読書会を呼びかけ、1日30分、だいたい12~15ページを目安に毎日読み続け、3か月で読了するというプロジェクトをたちあげた。今回紹介する本は、その記録である。

イーユン・リーが毎日、読んだ部分についてTwitterとInstagramで文章を引用し、コメントをつづる。#tolstoytogetherというハッシュタグをつけて。いっしょに読んでいるフォロワーもそれぞれにコメントをアップする。

「人生が不透明になればなるほど、『戦争と平和』はより確かな枠組みを与えてくれる」とイーユン・リーは述べている。

学校にも仕事にも買い物にも行けず、毎日家にいるしかなかったあの春。イーユン・リーと共に、毎日少しずつ『戦争を平和』を読んでいく。そして今日読んだ十数ページのなかで、印象に残った部分をつぶやく。世界中で、知らない誰かが同じ本を読んで、その感想を言い合う。それは、不安に押しつぶされそうな時だったからこそ、よりいっそう心に刻まれる体験だっだことだろう。

じつは私も、オンラインの読書会に参加している。去年の秋からだ。こちらは普通に、課題図書があって、オンライン読書会の日までに読了しておくことになっている。同じ本を読んで、それについて語りあうのはもちろん楽しい。しかし、何回か参加してみてわかったが、ひととおりざっと読んだだけでは、なかなかその本について語るのはむずかしい。私の記憶力の問題かもしれないが、読み終わったとき、ふわっとした印象しか残ってなかったりする。というわけで、今は読みながら短いコメントを書いたふせんをつけたり、時間があるときは再読したりしている。ひとりで黙々と読書しているときには、そんなことしなかった。でも、こうでもしないと頭に残らない。

その点、イーユン・リーの読書会は、1日30分と決まっている。その日の分量である12~15ページをじっくり読んで、それについて気になったことや、印象に残ったことをつぶやいていけば、そしてそれが毎日積み重なっていけば、結果として『戦争と平和』について、かなり長い感想文になるはずだ。

そして、毎日リアルタイムで同じ部分を読んでいる世界中の見知らぬ人たちの感想が読めるのも、SNS読書会のだいご味だろう。

じつは、このイーユン・リーによる『戦争と平和』のSNS読書会は、今年もやっている。Tolstoy Together 2021と銘打ったその企画は、先月9月15日にはじまったところだ。

今からだったら、まだ間に合うかもしれない。

本は、もちろん一人で読んでも楽しい。

でも、同じ本について話せる相手がいるというのは、また別の楽しさだ。

イーユン・リーみたいな読書会にも参加してみたいが、いつかは「『罪と罰』を読まない」みたいな読書会に参加してみたい。読んでない名作について、さいしょにこんな話なんじゃないか、と勝手に想像してみんなで話し合うのは、読みたいという気持ちを盛りあげてくれそう。本当はどんな話なんだろう、と答え合わせのようにグイグイ読める気がする。そして「ぜんぜんちがうじゃん!」とか「意外に合ってたー。スゴイ!」といって笑いあいたい。

どーでもいいけど、「『罪と罰』を読まない」文庫版の帯に、「読まずに読む!」と書いてあるのは、「戦わずして勝つ!」みたいで、なんかカッコイイぞ。

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