見出し画像

二番手じゃ生きていけないの?

響子は仕事の打ち合わせに参加するために住んでいる島を出発した。
船で45分。週1のペースで本島へ帰る。船を降りたら車で2時間。本島で過ごす間は実家に泊まるのだ。

このところ、家にこもりっきりだった。在宅ワークの響子は、意識的に外出しなければ1日のほとんどを家の中で過ごすことになる。だから日の光を浴びるために朝の散歩を週間にしている。この3日はサボってしまったが。

響子は、実家へ帰る車の中で考えを巡らせていた。
最近のトピックは、自分の人生の軸を探ることだ。
今のままでいいのか、これからどうしたいのか、ずっと考え続けている。

29という歳は若いのか若くないのか。同い年には有村架純や本田翼、指原莉乃などがいる。

いけない。またやってしまった。芸能人と比べても仕方がないんだった。と思いつつも、彼女らの存在や活躍はどうしても気になってしまう。同じ年月を過ごしても、すごくしっかり賢明に生きてるよな。

人と比べないようにしましょう、と心理学の先生がYoutubeで言っていた。うん、そうなんだろう。しかし小学生の頃から成績の良し悪しで褒められ、順位をつけられてきた私にとってはかなり困難なことではないか、と響子は思う。

響子はこれまでに3回転職した。1度目の転職は、もう職場で学ぶことがないと思ったから。2度目は職場の人間関係に疲れてしまったから。3度目はこのままのんびりしてはいけないと思ったから(正確には、思い込んだから、である)

現状に満足しきれないのが自分の悪い癖、だと響子は思っている。
現在の仕事も悪くはない。ただやりがいを感じられない。
仕事を始めるのは大抵午後3時あたりからだ。
仕事やりたくないなーから始まり、「働かなくて良い国」「働きたくないとき」など自分を肯定してくれる記事や動画をあさる。
朝からエンジンをかけられないのだ。

やりがいをもたなくたって働けている人はいる。
私の悩みはずいぶん贅沢なんだろうな。そう思いながらもやっぱり自分の向いていることに時間を使いたい。でもやりたいことは特にない。そんなことをここ2年ほど考えている。

今の仕事へ転職を決めたとき、このままのんびりしてはいけないという危機感は確かにあった。でも正直、自分で決めたことではなかった。

「一緒に働いてみない?いつまでもアシスタントという立場でいいの?」
そう声をかけられたからだ。

確かに。響子は、○○のアシスタントという仕事をいくつか経験してきた。主導でプロジェクトを動かせる人にならなればいけないんじゃないか。そう思ったのだ。
でもこれがまずかったと今では少し後悔している。

誰かに触発されて○○しなければならない、と言って始めたことは大抵身にならない。自分の内側から○○したい、○○ができるようになりたい。と思わなければいつまでたってもやる気がおきないのだ。さらに、スキルを身につけることは、そもそも自分のテンションを上げる動機にはならない、ということにも最近気づいた。

だから響子は今も、少し憂鬱な気分で仕事をしている。
「これはあなたのプロジェクトだからね。」と言われても、響子の心は少しもわくわくしない。
だから何?そう思ってしまうのだ。

そういえば、昔から2番手が好きだった。

モーニング娘。だってゴマキよりなっち派だった。
NEWSは、山Pより錦戸派だった。
欅坂46は平手より鈴本派だった。
センターの隣にいる、頼りになる実力派が好きだったのだ。

自身もそうだ。
主役より脇役だった。合唱コンクールは伴奏者を務めた。
真ん中にいる指揮者ではなく、端っこで当たり前のように完璧に弾く伴奏者。黒子に徹したからか、そんなにスキルはないのに伴奏者賞を3年間で2度受賞した。

私は2番手の方が実力を発揮するのではないか?
そう思ってGoogle検索してみる。
「二番手の仕事」

やるんじゃなかった。
そんな仕事は検索結果に出てこないし、「二番手でいたい」と同じような意見を持った相談者に対して、「それは甘えだ、中途半端なやつだ、会社にそんなやつはいらない」というコメントを見つけてしまった。

ずっとアシスタントじゃだめなのか?
必ず一番を目指して成果を出さないといけないのか?
他人と比べるなと言うのに、一番じゃないと生きる価値が低いのか?

どんな人間でも生きてもいいじゃないか。

そんなことを考えているうちに、実家に到着しそうだ。
でも携帯から流している音楽が良いところだったので10分ほど回り道をした。

シャッフル再生で星野源の「不思議」と緑黄色社会の「Mela!」が流れてきた。

人が一生懸命作った音楽は素晴らしい。
少しだけ元気になって、父が待つ家にやっと帰った。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?