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ただいまParis

 2009年11月にパリのどこかでリサイタルに出演して以来のフランスに、ようやく戻って来られた。空港から市内にアクセスするロワシーバスに乗った瞬間、その掃除の行き届いていない埃っぽさに「ああ、お家に戻ってきたな」を実感。この夏はヨーロッパ各地が猛暑に見舞われ、私が着いた日はパリの最高気温が37度にもなっていた。ロワシーバスは一応エアコンが入るのだけれど、空調の微妙な風が流れてくると数人がくしゃみをし始める。もちろんみんなマスクなどしていない。もしこれが日本だったら、怒られたり叩かれたりするに違いない。まったくこんな衛生観念の国で、どうやってコロナ対策をしろと言うのかと途方にくれながら、まずはしっかりマスクをして人との距離を取って座席に座った。何しろ、旅行者の私にとっては日本政府から義務付けられている、帰国72時間前のPCR検査が恐ろしくて仕方がないのだ。なんとしてでも無事に旅を終えなければならない。
ロワシーバスはオペラ座の横に終着地点のバス停がある。この日はオペラ座からそれほど遠くない、マドレーヌ広場近くのホテルを予約してあった。20キロスーツケースを転がしながらタクシーを求めて歩き始めると、あっという間の数分でマドレーヌ広場に着いてしまった。もはやタクシーに乗せてもらえる距離ではないので、なんとなく頭に入れてきたホテル周辺の地図を思い出しながらそのまま徒歩で向かった。そう言えば、パリは世田谷区の2倍の面積と言われていて、その気になればどこにだって歩いて行けることを思い出した。

 ロシアによるウクライナ侵攻の影響が続くため、今回、日本からパリへの直行便のフライトは、北極圏周りで15時間近くかかった。乗客率は50%程度で機内は見るからにガラガラ、隣は空席だったため長時間とは言え比較的楽なフライトだった。ホテルに着くと疲れが一気に吹き飛び、カラッとした空気のお陰で体も軽く感じる。この季節は夜9時をすぎてもまだ明るいし、せっかくパリに来たのだからワインを飲まずにはいられない。ということで、昔よく行った覚えのあるオペラ座近くのカフェまで散歩して、白ワインを飲みながら、夜の温かくて心地よい空気に包まれた。ついでに揚げたてのフリットを注文したら飲み足りなくなり、さらにロゼを頼んですっかりほろ酔いで良い気分に浸った。夏の夜の空気はたまらなく好き。

 今回パリで是非訪れたいと思っていた場所は、2021年にオープンしたばかりのbourse de commerce Pinault collection ピノーコレクション 。安藤忠雄が手がけた文化遺産と現代美術が融合する空間で、現代アートコレクターのフランソワ・ピノーが世界から集めた多様な作品に出会える新しい美術館である。この日は外気温39度にまでなっていたので、干上がるような暑さから逃れるために入館すると、そこは冷房の効いた気持ち良い空間が広がっていた。あまり難しいことは考えずに、新鮮な好奇心を持って感覚的にアート作品に触れ楽しむことができた。

 住んでいた頃に好きだったのはサン=ジェルマンデプレ界隈。ここからセーヌ川に抜けるコースをよく歩いたのが懐かしい。パリは昔とそれほど変わらず、私が知っている姿でいてくれたのが嬉しかった。しかし街中の、メトロ付近や広場に寝泊まりするSDFは、以前よりかなり増えているように見受けられる。covid19の影響で失業した人たちなのか、ここ最近のインフレの影響なのか…

 ところで、以前はどこででも手に入ったパリ市内の詳しい地図。区ごとにページが分かれいるのが見易く、これ一冊あればどんな住所にでも辿り着ける必需品。私が家に保管しているものは流石に情報が古いので、新しい物を買い直そうと思っていたらどこにも売っていない!!いまやスマホでGoogle mapの時代、こんな化石みたいな地図を持って出歩く人はいないらしい。あちこちのキオスクやお土産物屋さんで探したけれど置いていないと言われ、シャルル・ミッシェル駅近くの少し大きめのキオスクでようやく見つけた。せっかく貴重な一冊を出してくれたおじさんに、「もっと綺麗な在庫が欲しい」と、わがままを言って探してもらったけれど、本当にこの一冊しかない様子。裏に手書きの値段がボールペンで書き込まれているのが気に入らなかったけれど、有り難く購入してきた。私にとってはgoogle mapよりもずっと使いやすいし、スマホを当てにして出歩いて、バッテリーが切れた途端に迷子になるのが恐ろしい。この地図だけは化石になっても残して欲しい。続く・・・












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