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BtoB企業向け『強いブランドのつくり方』 ③競合分析、ベンチマークを設定する


■デザインは経営の武器になる。


社内に「自信」を与え、社外に「共感」を生む、デザイン経営。

あらゆる業界で技術の標準化が進み、機能面での差別化が難しくなる中、BtoB企業においても「ブランド」が重要ファクターとなりました。

当シリーズでは、どのようにして「強いブランド」を作り上げていくか、主に視覚的デザインの側面から解説していきます。経営者やマネージャーの方にとって「デザイン」の視点が広がり、ビジネス成功に向けた気づきをご提供できれば幸いです。

以下の関連コラムもご参照ください
「デザイン経営」と「デザイン思考」との違い

(note内、筆者記事)

■自社のポジショニングを視覚化する


前回、BtoB企業のブランディングにおいて、見た目の一貫性が重要であるといういう話をしました。それでは、どのような「見た目」を目指していけば良いのでしょうか。その手がかりとなるのが競合分析になります。手始めに競合企業のウェブサイトを見ていくだけでも進むべき方向性が見えてくるでしょう。

例えば、以下に「繊維業界」の大手4社を見てみました。各社、企業のロゴとメッセージがセットになったロゴもあります。これらの要素からも色々な状況が確認できます。




東レ社、帝人社では長らく上記の企業ロゴが使われてきましたので見慣れた印象があります。東洋紡社は今年2022年に140周年を迎え、企業ロゴが刷新されました。線で囲まれたデザインに見慣れているので、新しいデザインが浸透するまで多少の時間が掛かりそうです。
また、ユニチカ社についてはカタカナのタイプの方が馴染みが強く、ローマ字との印象に乖離を感じます。ブランド認知、浸透、蓄積の面で課題がありそうです。

それでは、ロゴデザインから受ける印象をマトリックスにまとめてみましょう。


縦軸、横軸はブランドが大切にしたい評価軸に合わせて設定すると良いでしょう。今回は、縦軸に勢い/安定感、横軸に伝統的/挑戦的としてみました。ロゴから受ける印象は、いくつもの要素が組み合わさって生まれます。

・色
寒色系は落ち着きを、暖色系はアグレッシブさを感じさせやすくなります。

・書体
ユニチカ社のようにセリフの付いた書体は伝統的な印象を、セリフのない書体(サンセリフ)は、近代的な印象を与えます。

・ウェイト(書体の太さ)
上記はいずれも太めの書体で安定感を感じさせます。特に製造業は太い書体を使う傾向にあります。

・正体/斜体/長体/平体
帝人社のように斜体の掛かったロゴタイプの他、長体や平体などスタイルも様々です。斜体は勢いを感じさせます。
ちなみに、TOWER RECORDSは左に傾いた斜体で一般的ではないスタイルですが、そこにサブカルチャー的な“らしさ”を感じさせます。

・テクスチャ―
東洋紡社のように一色ではなく複数色で構成する。またはグラデーションや立体感を付けるなど、色の調子による表現も可能です。昨今はあまり調子をつけず、プレーンなデザインが主流ですが、オリジナリティを出す場合に有効な手段です。

いかがでしょう。ロゴ一つをとっても様々な要素の組み合わせで印象が生み出されます。もし、勢いや挑戦的なイメージを持たせたいブランドなのに、前出のマトリックスの左下に位置する企業ロゴタイプだと、印象に一貫性を持たせることが難しくなります。

企業ロゴタイプ、シンボルマークはブランドの顔でもあり、ブランディングのスタート地点でもあります。改めて自社の目指す方向がブランドロゴにしっかり表現されているか確認してみましょう。


■ブランドのもう一つの顔、「ウェブサイト」

いわずもがな、今やウェブサイトは顧客との最重要接点と言えるでしょう。何かしらのきっかけでその企業を知り、まず確認するのがウェブサイトです。「どういった会社なのか」「どういった特徴があるのか」「他社とどのように違うのか」、顧客はウェブサイトから様々な情報を得ようとします。


特にBtoBビジネスにおいては、その製品やサービスの購入・導入を検討するユーザー(担当者)と最終決裁を下すユーザー(責任者)が異なることがよくあります。例えば、現場担当者が新製品にユニチカ社の素材を使いたいとしても、その妥当性を様々な観点で検討し、事業部長や購買担当、場合によっては役員決裁が必要になります。

そうした場面で「ブランド」力が発揮され、ウェブサイトはそれを補強する重要ツールになります。上記の4社であればベースとなる認知がありますが、自社ブランドの認知が得られていない場合は尚の事、こうした企業ロゴやウェブサイトの重要度が高まります。

各社、トップページでどのような訴求をしているか見てみましょう。



1.企業姿勢をしっかり伝える

東レ社のトップページでは、「素材には、社会を変える力がある。」というメッセージとともに、素材(商材)の写真、エンドユーザーの生活シーン、自然環境のイメージなどを展開し、「Toray at a glance」というブランディング・コンテンツへと導いています。

ブランディング・コンテンツでは、事業概要、R&D、ソリューション、国内外ネットワーク、サスティナビリティ・ビジョン、最後に環境に対する「グリーン・イノベーション事業」と健康、医療に関わる「ライフ・イノベーション事業」の紹介で締めくくられています。

企業の強みから、社会課題に対する企業姿勢まで、企業ブランドをエッセンシャルにまとめた構成で、内容的にも非常に現代的な要素でまとめられています。


2.ブランドコンセプトを情緒的に伝える

帝人社のトップページでは、まず企業スローガンである「Human Chemistry, Human Solutions」のメッセージとビジュアルが表示されます。

ブランドステートメントである”Human Chemistry, Human Solutions”には、以下の内容が込められています。

人と地球環境のために化学の可能性を追求し、社会の進化を加速させるソリューションを提供することで、クォリティ・オブ・ライフ向上の実現に挑戦し続けること
https://www.teijin.co.jp/about/philosophy/


3.機能的価値(具体的な製品やサービス)を伝える

上記二社と比べ、東洋紡社ユニチカ社では製品寄りの訴求が目立ちます。明らかに機能的な価値があり、キャッチアップされにくい技術であれば、機能性に寄った表現で強い差別化になりえます。

ロゴやビジュアル一つひとつの表現が、ブランド戦略に則りデザインされる必要があります。そこに一貫性があれば各々の表現がしっかりと企業ブランドに蓄積されていきます

これらの視点で一度、自社の企業ロゴやウェブサイト、名刺や会社案内などを含めてチェックしてみると、今後取り組むべき「デザイン経営」の課題が見えてくるかもしれません。



BtoB企業向け『強いブランドのつくり方』 ③
〜競合分析、ベンチマークを設定する

(TCD Corporationサイト)


ブランディングとは何か?
(TCD Corporationサイト)


[筆者プロフィール]
川内 祥克
株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブ・ディレクター
企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、ブランドマネジメント業務に従事。『デザイン経営』など公開セミナー、組織内ワークショップも開催。


日々の業務の中から、ちょっとした気づきをお届けしていければと思います。