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追いかけても追いつけぬ 幸せは側で待ってるだけ~読書note-17(2023年8月)~

8月12日のNHK「ライブエール」に宇多田ヒカルが出てて、MCのウッチャンと対談していた。そこで、宇多田が「幸せ」についての考えを話していて、それが新曲の「Gold ~また逢う日まで~」に込められていると。追いかける特別なものじゃなくて、何気ない日常の中にあるのだと。

それを聞いて、非常に「相田みつを」的というか、我が街(足利市)が生んだ天才詩人も、日本の音楽史を変えた天才アーティストも、人間の到達点って同じなんだなぁと思った。まぁ、7年前の「道」(アルバム:「Fantôme」)という曲でも「人は皆生きてるんじゃなく生かされてる 目に見えるものだけを 信じてはいけないよ」なんて、仏教的な境地にも達してたようだけど。

不況で会社が潰れそうで過去最長の10連休などもあったので、8月は「幸せって何だろう?」と考えてしまう一ヶ月だったなぁ。まぁ、俺ら世代には、明石家さんまのCM「幸せって何だっけ、何だっけ、ポン酢しょうゆのある家(うち)さ」が頭に流れてくるが。凄い、さんちゃん、宇多田が言う、まさに「幸せは日常にある」を40年近く前に歌ってる!!


1.二十歳の原点 / 高野悦子(著)

小説家・燃え殻さんのJ-WAVEのラジオ『BEFORE DAWN』にライターの古賀史健さんがゲストに来た回で、おすすめの本として古賀さんが紹介していた。二十歳になった数か月後に自ら命を絶った若者の日記が、没後に出版されベストセラーになったと。全く知らなかった。しかも、同じ栃木県出身(那須塩原市)だったとは。

高野悦子さんが立命館大学在学中の二十歳の誕生日(1/2)から、自殺(6/24)する数日前までの約半年間の日記。今から半世紀以上前の学園闘争真っ只中の時代、学生運動にのめり込みながら、恋やバイトもし、音楽や本にも傾倒し、青春を謳歌しながらも、生と死を常に考え続ける。酒やタバコを嗜んで悪ぶってはみるが、良い意味で「田舎者らしい」真面目な人だ。

内省的な若者が左派思想と出会ってしまった悲劇とも言えるか。自分も二十歳の頃は、憲法ゼミでガチガチの左派思想で、内省的な人間だったので共感する部分が多い。田舎から東京に一人で出てきて、自分が物凄くちっぽけに思えて、常に「自分は何のために生きているのか、将来何が出来るのだろう」と考えていた。でも、大学の山岳同好会で登山に明け暮れた生活を送っていたので、それが凄く良いリフレッシュだった。特に、身体を目一杯鍛えていたことも、精神をおかしな方向へ向かわせなかった要因の一つだと思う。

「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である。」との彼女のありのままの思いを綴った文章や詩は、若さゆえの荒々しさと脆さが同居していて、胸に迫るものがある。女性であることの苦しさは、全て理解することは出来ぬが、彼女があと50年遅く生まれてきたならば、もう少し生きやすかったかなぁと思う。


2.私が彼を殺した / 東野圭吾(著)

先月読んだ「どちらかが彼女を殺した」同様、最後まで犯人が誰なのか明かされない、東野圭吾からの読者への挑戦ミステリー。新装版となった文庫本を迷わずに購入。「どちらかが…」は恋人か女友達かの二択だったが、今回は容疑者が三人で少し難しくなっている。

結婚式の最中に毒殺された脚本家の穂高誠、容疑者は婚約者・神林美和子の兄・「神林貴之」、穂高の事務所の運営を任されている「駿河直之」、詩人の美和子の編集者である「雪笹香織」の三人。神林は美和子へ兄妹を超えた愛情(近親相姦も経験済)があり、駿河は思いを寄せていた浪岡準子を穂高に取られたあげく、美和子との結婚を知り服毒自殺した準子の死体隠蔽をさせられ、雪笹は以前密かに穂高と付き合っていて、堕胎の経験もある。皆、穂高を殺す動機があるのだ。

本の構成も見事で、章が神林、駿河、雪笹、それぞれの視点で書かれており、それが7回順に繰り返される。いつもの如く、加賀恭一郎が鋭い人間観察眼で三人に狙いを定め、それぞれ独自の調査と推理で追い詰めて行く。今回はあるアイテムが鍵となるのだが、そのアイテム自体は意識して読んでたつもりだったが、そう来たかという感じ。

ホント、最後の最後まで誰が犯人だか分からない、素晴らしい構成と展開。悔しいが、今回も巻末の袋綴じ解説(ヒントが書かれている)の世話になってしまった。でも、何度も読み返さないと分からない、凄いネタで面白かったなぁ。


3.リボルバー / 原田マハ(著)

6月に読んだ「本日は、お日柄もよく」ですっかり彼女のファンになり、今回は彼女の得意分野(大学で美術史を学び、キュレーターの経歴を持つ)であるアート小説(ミステリー)。アート史上最大の謎である「ゴッホの死」に迫る、ゴッホとゴーギャンという孤高の画家二人にまつわる物語。

パリの小さなオークション会社で働きながら、ゴッホとゴーギャンの研究をしている高遠冴が主人公。ある日、彼女の勤める会社に一丁のリボルバーが持ち込まれた。持ち主のサラ曰く、ゴッホの自殺に使われたものだと。冴と社長ギロー、同僚ジャン=フィリップの三人は、その真相を確かめるべく、ゴッホゆかりの地を奔走する。

恥ずかしながら、ゴッホとゴーギャンの関係を今まで全く知らなかったし、彼らの絵も数点しか知らなかった。作中に出てくる彼らの作品をググって、あぁこんな絵なんだ、と確かめながら読み進めるのが意外と楽しかった。ストーリーも史実の部分にフィクションを加えているので、ひょっとしたらホントにこうだったのかと引き込まれて行った。

特に、ゴッホは「孤高」のイメージはあるが、ゴーギャンは割と世間と上手くやっていて成功したイメージだったが、ゴーギャンも孤独で天才ゴッホに嫉妬していたのだなぁと。何かを生み出す者の孤独さ、空虚さがあって、その作品の凄みが増すということか。10月の新宿のゴッホ展で、それを確かめに「ひまわり」を観てこよう。

それにしても、原田マハさん、まだ2冊しか読んでないけど、めっちゃ好きになってしまった。早く次が読みたい。


4.どうしてあんな女に私が / 花房観音(著)

著者のX(旧Twitter)をフォローしていて、紹介されていた過去の書籍が面白そうだったので購入。2007〜2009年にかけて発生した、首都圏連続不審死事件を題材にした嫉妬と欲望の物語。

醜い容姿がコンプレックスの作家・桜川詩子が主人公(花房さん自身か?)。上記事件の犯人・木嶋佳苗がモデルだと思われる「春海さくら」を題材にノンフィクションを書かないかと、ライターで編集者の木戸アミに誘われ、二人でさくらの友人や母親など4人の女性に取材をする。

デブでブスなオバさんが、なぜ何人もの男どもを虜にするのか?同性(女性)からの嫉妬という観点で、さくらに関わった女性4人と詩子とアミの計6人の女性の語りで綴られる。第1章の詩子の自虐的なクドい文章にウンザリするが、第2章以降は徐々にさくらの本性が明かされてくるので、何とか読み進められる。ただ、その嫉妬の仕組みは本を通じて何度も書かれ、この物語のテーマとは言え、少し辟易する。

もし、逆の場合、デブでゲスなオジさんが何人もの女性を虜にしたら、俺でも多少は嫉妬するだろう。ただ、そこまで悔しさや羨ましさは感じないし、世間も執拗に話題にするほど関心を向けないだろう。その嫉妬は女性特有の醜さなのか。

それと「世の男性は、ぽっちゃりした女性が好き」という言説の信憑性を、一度全国民男性にアンケートを取って確かめてみては。俺はもちろん、〇だけど。


5.灯台からの響き / 宮本輝(著)

宮本輝さんの本読んだの、27,8年ぶりだろうか。本屋の文庫本新刊コーナーでこの本を見た時、物凄く既視感があって。確か、灯台が表紙の宮本輝さんの本を読んだことある気がして、それを確かめたいのと、「亡き妻の知られざる過去を追い、男は初めての一人旅へ」との未練たらしい帯の言葉にそそられて購入。

蔵書の宮本輝さんの「ここに地終わり 海始まる」上下巻。1994年頃購入。
現在の新装文庫本には灯台の挿絵はない。

家の蔵書を見たら、やはり灯台が表紙に描かれた本があった。うーん、中身は全然覚えてない。90年代半ば、とにかく宮本輝さんを読みまくったんだよなぁ。

この本は、妻を急病で亡くした中華そば屋店主、牧野康平が主人公。夫婦で切り盛りしていたので、ショックで休業し引きこもり状態が2年続く。ある日、自分の蔵書の本に挟んであった、妻宛ての古い葉書を見つけ、その謎を解く旅に出る。葉書には灯台とその周辺の地図らしい絵が描かれていたので、灯台巡りの旅だ。あっ、上述の「ここに地終わり 海始まる」も間違って届いた絵葉書がきっかけだった。

それまで意思の疎通が上手く出来ていなかった一女二男の子ども達と、自分が旅に出かけることで会話をするようになって、彼らの思いを知る。子ども達だけでなく、同じ商店街の総菜屋の同級生のトシオ、同級生のカンちゃんが愛人との間に作った息子の新之助等、周りに背中を押され、次男の大学院進学の学費を稼ぐためにも、店の再開を決意する。

未練たらしい男の物語が好きだ。自分がそうだから。でも、読み進めて行くうちに、そんな未練や妻宛ての葉書の謎解きよりも、灯台の方が凄く魅力的に感じてきてしまった。本文では灯台を人間そのものに例えてた。

 動かず、語らず、感情を表さず、海を行く人々の生死を見つめてきた灯台が、そのとき康平には、何物にも動じない、ひとりの人間そのものに見えていた。
 空の色と海の色と霧の色によって、灯台はみずからの色を消してしまったかに見えるが、びくともせずに、日が落ちると点灯して航路を照らしつづける。
 多くの労苦に耐えて生きる無名の人間そのものではないか。

「灯台からの響き」(宮本輝) 集英社文庫 第六章 335ページより

先週、北茨城の大津港に行った際、灯台が近くにあったなぁ。別に我が妻は生きてるし、謎の葉書は送られてきてないが、残りの人生で灯台巡りしてみようかな。早速、本文中でガイドブックとなってた「ニッポン灯台紀行」をポチろうと思ったが、高額だったため、「愛しの灯台100」をポチった。


先日、同級生の美容室で髪をカットしてもらっている時、お互いの子ども達の就職の話から、「人生って辛いことの方が多いけど、僅かな楽しいことのために生きてるんだよね。」みたいな話になった。妻や息子達(いつかは孫!?)と灯台巡りが出来たら、どんな辛いことも乗り越えられる気がする。

そんな夢みたいな幸せ追いかけても...だよな。

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