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紫式部の経済効果

生年月日も実名も定かではない一人の女性、女房名紫式部。
彼女に関する研究書や一般向けの本は満天の星のように世にあふれている。その数は多分、他の歴史上の人物を圧倒している。
豊臣秀吉も徳川家康も、いや、他のどんな英雄も紫式部の足元にも及ばないだろう。

なぜ、こんなに日本人は紫式部と源氏物語が好きなのだろう。ほとんどの人が『源氏物語』を一行も読んでいないのに。(と、私は思う)

一つ、確実なことは、紫式部は多くの研究者や学生に生きるための仕事を与え続けたことではないか。

国文学者、言語学者、歴史学者、風俗資料研究者、布の織手、染色家、
画家、古代気象研究者、『源氏絵巻』復元事業に携ったレントゲン技師、建築家、古代食研究者 、琴・笛の演奏者、歌人、俳人、 などなど、数えきれないほどの分野の研究者とその助手たちが紫式部に多少でも関わり、収入を得、税金を払う……。

研究が細部に分かれるにつれ、研究テーマは増え続ける。そのどこかにぶらさがっていれば、何か仕事がある! 
「実利を伴わない」「現実社会に役に立たない」と「大学の国文科不用論」を言い出した政治家がいたようだが、紫式部がどれほどの経済効果を打ち出しているかを知らないだけなのだ。

大学院国文科で多くの若者や中高齢者と一緒に勉強したことがある。紫式部は私たちに「テーマ」を与え、「論文」を書き上げさせ、憧れと目標の大学院修了の資格を与えてくれた。

私は紫式部に関する多くの仕事に携わった。社会奉仕のようなもので、収入はささやかなものだったが。

だが「継続は力なり」というのは本当だ。人生は継続と努力の積み重ねでしかない。それは大きな果実となった。

30年近く、カルチャースクールで、もう一度学びたいという中高年の受講生に紫式部や源氏物語を教えた。教室は私の世界となり、生徒さんは私の大切な友人となった。
それが私の得た果実だ。

収入の中から天引きで税金を払ってきた。30年も継続すると払った税金はかなりになると思う。
これは大きな経済効果だ。私は国に貢献したと思う。

紫式部は静かに働き続ける。今までもこれからも。
源氏研究で名を上げる人を生み出し、塾で働くアルバイト学生を支え、ある人にはサークルの指導者になるチャンㇲを与え、その人たちが収入を得て税金を払う。それは積もり積もって大きな経済効果を生み出す。

紫式部関連本は、ゆっくり長く売れ続けることで、多くの出版社を支えてきた。出版社には多くの人が働いている。彼らの給与の一部を紫式部は生み出しているのだ。今までもこれからも。

紫式部が日本に与えてきた経済効果はものすごいとしか表現できない。でも彼女は何も語らない。要求しない。時の彼方の人である。

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