来戸 廉

主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。好…

来戸 廉

主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。好きな作家は、星新一、阿刀田高、サキ、池波正太郎、柴田錬三郎、葉室麟 他。

マガジン

  • ショート・ショート

    今まで投稿したショート・ショートを纏めました。2,000文字以下の短い話ですが、「落ち(下げ)」に拘って書いてます。

  • 短編

    今まで投稿した短編を纏めました。

  • 短編 ちょびっとブラック編

    少しブラックめいたものを纏めました。

  • 【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記

    私の息子、ターちゃん(当時5歳)とアーちゃん(同じく3歳)の一年間を、絵本風に綴ってみました。 睦月《むつき》   (1月)   初詣、お正月 如月《きさらぎ》  (2月)   雪、お遊戯会 弥生《やよい》   (3月)   卒園式 卯月《うづき》   (4月)   入学式 皐月《さつき》   (5月)   目覚まし時計、アーちゃんの変化 水無月《みなづき》 (6月)   潮干狩り、プール 文月《ふみづき》  (7月)   カマキリ、ターちゃん警察 葉月《はづき》   (8月)   セミ取り、お願い 長月《ながつき》  (9月)   自転車、写真 神無月《かんなづき》(10月)  かけっこ、えのぐ 霜月《しもつき》  (11月)  ミカン狩り 七五三 師走《しわす》   (12月)  クリスマス、大掃除

  • ショート・ショート ちょびっとブラック編

    今まで投稿したショート・ショートを纏めました。少しブラックめいたもので、2,000文字以下の短い話です。「落ち(下げ)」に拘って書いてます。

記事一覧

【ショート・ショート】何のために

「これは、なーに?」  健太が黄ばんだ一枚の紙切れを差し出す。 「ん?」  手渡された四つ折りを開くと、鉛筆書きの拙い文字で『人は、なぜ生きているのか』と走り書き…

来戸 廉
2日前
4

【ショート・ショート】空からの贈り物

 ある日の午後。僕が塾に行こうと外に出たら、空からいっぱい雲が降ってきた。それは、音もなく道に落ちた。僕は、最初その白いふわふわとした塊を綿菓子だと思って拾い上…

来戸 廉
8日前
15

創作大賞2024 恋愛小説部門の中間選考を拙作
【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】リスト (1)
https://note.com/kuruto_ren2024/n/n64f02fbc843f
が通過しました。
読んで下さった方々、スキを付けて下さった方々、ありがとうございます。

来戸 廉
8日前
5

お詫び:
【連載】あおかな は都合により中断します。

来戸 廉
8日前
3

【連載小説】あおかな (3)

4.プロポーズ  金曜日の夕方。  山脇孝幸は緊張した面持ちで河村家を訪れた。 「ここで、少し待っていて」  香奈子は玄関脇の客間に案内した。 「お母さん、お父さ…

来戸 廉
2週間前
6

【連載小説】あおかな (2)

3.再会  月曜日の昼下がり。十月になって大分秋めいてきた。  山脇孝幸は川沿いの道を歩いていた。  孝幸はアイディアに詰まるといつもここに来る。人は歩くためには…

来戸 廉
2週間前
14

【連載小説】あおかな (1)

1.祭り  うおっー。  観客がどよめいた。祭りの見せ場、川渡りの場面で、行人包姿の僧兵の格好をした若者が馬から振り落とされて川に落ちたのだった。春先とはいえ水…

来戸 廉
3週間前
7

【ショート・ショート】ある秋の日の公園

 昨夜の雨が嘘のように、空は晴れ渡っている。雨に洗われた空気が一層透明感を増したようだ。  早秋の公園は昼下がりでも少し肌寒い。  久しぶりに訪れた公園の芝は、汚…

来戸 廉
1か月前
14

【ショート・ショート】ある朝の情景

「もう、パパ。早く出てよね。急いでいるんだから」  ドアのノブが、ガチャガチャ鳴る。 「せかすな、今出る」 「早くしてよ、もう」  二階のトイレ。ドアの外では、まだ…

来戸 廉
1か月前
6

【短編】鉛筆

 私が小学五年のことだ。  コトン。授業中に舟を漕いでいたらしい。隣席の櫻井大介が僕の左肘を小突いた。その反動でぴくんと指が動いた拍子に鉛筆が転がって、机の上か…

来戸 廉
1か月前
13

【ショート・ショート】夏みかん

 バス停では既に三人が待っていた。風が冷たい。  私はコートの襟を立て、ポケットに手を突っ込み、少し背中を丸めながら列の最後尾に付いた。綾子は寒さに強いのか、私…

来戸 廉
1か月前
16

【ショート・ショート】衣替え

「もう大分暖かくなってきたから、そろそろ衣替えしなくちゃね」  縁側の日差しに包まれるとリンネルのシャツでは、ややもすればうっすら汗ばむほどだ。妻は、箪笥から冬…

来戸 廉
1か月前
14

【ショート・ショート】三叉路

 去年の正月に行われた中学の同窓会で、美鈴に会った。  カッちゃんと呼ばれたのは久しぶりだった。昔から明るい子だったが、二十年の月日がそれに輪を掛けていた。私が…

来戸 廉
1か月前
9

【短編】終の棲家(ついのすみか)

「どうしたんだい、ぼんやりして」  憮然とした顔で縁側にしゃがみ庭を眺めている妻の背中に、私は声を掛けた。 「うん。先頃ちょっと気が滅入るようなことがあってね」 …

来戸 廉
2か月前
10

【短編】二人 (後編)

■ 「ところで、今までどこに行っていたの」 「アメリカだ。上司が心配してくれてね。いい機会だからって、気分転換も兼ねて三年間の海外赴任さ。君は、あの店をずっと……

来戸 廉
2か月前
10

【短編】二人 (前編)

 小料理屋に着いたのは午後九時を少し回った頃だった。  紺地に『田上』と白く染め抜かれただけの質素な暖簾が懐かしい。  何年ぶりだろう。  引き戸を開けて、暖簾を…

来戸 廉
2か月前
6

【ショート・ショート】何のために

「これは、なーに?」  健太が黄ばんだ一枚の紙切れを差し出す。 「ん?」  手渡された四つ折りを開くと、鉛筆書きの拙い文字で『人は、なぜ生きているのか』と走り書きがある。多分、私の子供の頃の筆跡だ。 「どこで見つけたんだ?」 「この本に、挟んであった」  それは小学校低学年向けの昆虫の図鑑だった。教科書は疾うの昔に処分したのに、何故かこれだけは捨てられずに残していた。  私はしばし記憶の森を彷徨う。 「ああ、思い出した」 「なーに?」 「丁度お前ぐらいの年頃かな、理科の先生

【ショート・ショート】空からの贈り物

 ある日の午後。僕が塾に行こうと外に出たら、空からいっぱい雲が降ってきた。それは、音もなく道に落ちた。僕は、最初その白いふわふわとした塊を綿菓子だと思って拾い上げたが、一口囓って違うことに気づいて捨てた。よく見ると、歯形が付いたのが、道のあちこちに幾つも転がっている。  ――なーんだ。僕だけじゃなかったんだ。  僕はコンビニの前で信号を待ちながら、道路に転がった雲を器用に避けて走る車と、その度に風圧で舞い上がり、しばらく漂ってからゆっくり落ちてくるそれを、ぼんやり見ていた。

創作大賞2024 恋愛小説部門の中間選考を拙作 【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】リスト (1) https://note.com/kuruto_ren2024/n/n64f02fbc843f が通過しました。 読んで下さった方々、スキを付けて下さった方々、ありがとうございます。

お詫び: 【連載】あおかな は都合により中断します。

【連載小説】あおかな (3)

4.プロポーズ  金曜日の夕方。  山脇孝幸は緊張した面持ちで河村家を訪れた。 「ここで、少し待っていて」  香奈子は玄関脇の客間に案内した。 「お母さん、お父さんは?」  香奈子は晴子を台所で捕まえた。 「帰ってるわよ」 「機嫌はいい?」 「多分。何か、お願いごと?」 「うん、ちょっとね。会ってほしい人がいて……」 「そう」  母親の晴子の顔に僅かに陰りが差した。 「それならそれで、私だけには事前に話しておいてよ。私はいつでも香奈子の味方よ」 「ごめんなさい」 「で、い

【連載小説】あおかな (2)

3.再会  月曜日の昼下がり。十月になって大分秋めいてきた。  山脇孝幸は川沿いの道を歩いていた。  孝幸はアイディアに詰まるといつもここに来る。人は歩くためには、文章を考える時の脳の部位とは違う部位を使う。その部分が活性化することによって文章を考える脳の部位も刺激されると言う訳だ。実に理に適った解決法だ。  京都には『哲学の道』という歩道がある。銀閣寺から若王子神社までの疏水沿いに続く1.5kmほどの小径で、京都大学教授であり哲学者であった西田幾多郎がこの道を歩きながら思

【連載小説】あおかな (1)

1.祭り  うおっー。  観客がどよめいた。祭りの見せ場、川渡りの場面で、行人包姿の僧兵の格好をした若者が馬から振り落とされて川に落ちたのだった。春先とはいえ水は未だ冷い。  若者の怪我を気遣う声。不測の事態に祭りの行く末を憂うため息。おもしろ半分の無責任な野次。そんな悲喜こもごもが混ざりあった、「うおっー」だった。  このT市K町には、源義経にまつわる伝承がある。それは、義経一行六騎が頼朝が放った追っ手から逃れる道すがらこの町に差し掛かり、日が落ちてK山の中腹にある洞窟

【ショート・ショート】ある秋の日の公園

 昨夜の雨が嘘のように、空は晴れ渡っている。雨に洗われた空気が一層透明感を増したようだ。  早秋の公園は昼下がりでも少し肌寒い。  久しぶりに訪れた公園の芝は、汚れを流して輝いている。山側に樹々が繁り、海側に芝生が養生されていて、その中を小径が通る。他には余計なものは何もない。そこが私が気に入ってる理由でもある。  葉を落として軽くなった樹の枝々の間から日が射して、芝の上に日溜まりを作っている。その中にベンチが一つ。確か二ヶ月ほど前には、まだ樹の下に日差しを避けるように置いて

【ショート・ショート】ある朝の情景

「もう、パパ。早く出てよね。急いでいるんだから」  ドアのノブが、ガチャガチャ鳴る。 「せかすな、今出る」 「早くしてよ、もう」  二階のトイレ。ドアの外では、まだ不満が足踏みしている。 「また本でも読んでるんでしょう。もう。持ち込まないでって、言ってるのに」  この騒ぎに、幸子を呼びに来た妻まで加わった。 「ここが一番落ちつくんだよな」 「朝は忙しいのよ。少しは、みんなの迷惑、考えてよ」  二対一では、私に分がない。しかも口数では十対一以上だろう。五月蠅さも相乗される。

【短編】鉛筆

 私が小学五年のことだ。  コトン。授業中に舟を漕いでいたらしい。隣席の櫻井大介が僕の左肘を小突いた。その反動でぴくんと指が動いた拍子に鉛筆が転がって、机の上から床に落ちた。  ちっ。取ろうと伸ばした僕の指先が、通路を挟んだ隣席の川島泰代の指に触れた。拾ってくれる所だったようだ。  あっ。慌ててお互いに手を引っ込めて、鉛筆だけが置き去りになる。僕は再び手を伸ばして鉛筆を拾った後、「ごめん」と小さな声で言った。泰代はうつむいたまま微かに首を振った。  鉛筆の芯は折れていた。予備

【ショート・ショート】夏みかん

 バス停では既に三人が待っていた。風が冷たい。  私はコートの襟を立て、ポケットに手を突っ込み、少し背中を丸めながら列の最後尾に付いた。綾子は寒さに強いのか、私が驚くほどの薄着だ。  暫くして、老夫婦が我々の後に並んだ。 「ほら、ご覧。夏みかんの皮が剥けているよ」  声の方を向くと、老人が、家の庭先から道路に張り出した、枝もたわわに実る夏みかんの一つを指さしている。両の手で包んでも余りそうな大きさだ。  二人の会話は、聞くとはなしに私の耳に入ってくる。 「あら、そうですね」

【ショート・ショート】衣替え

「もう大分暖かくなってきたから、そろそろ衣替えしなくちゃね」  縁側の日差しに包まれるとリンネルのシャツでは、ややもすればうっすら汗ばむほどだ。妻は、箪笥から冬物を引っぱり出して、クリーニングに出す物を選り分けている。 「それ、好きだったな」  濃い萌葱色のセーター。二十年も前に買ったんだが、未だに古ぼけた感じがしない。 「あなたのお気に入りですものね」 「ああ。多少値が張っても、良い物はやっぱり良いな。こうして大事に手入れしていれば、愛着に応えてくれる。だから、長い目で見れ

【ショート・ショート】三叉路

 去年の正月に行われた中学の同窓会で、美鈴に会った。  カッちゃんと呼ばれたのは久しぶりだった。昔から明るい子だったが、二十年の月日がそれに輪を掛けていた。私が冗談を言ったり揶揄ったりする度に、美鈴はやだーっと笑いながら肩や腿を思い切り叩く。これには閉口した。  東京に戻って暫くすると、地元の友人がスナップ写真を送ってくれた。お礼の電話を入れると、友人は切り際に、美鈴の夫婦仲が悪いことを教えてくれた。私はそんな情報など知りたくもなかった。私は言い知れない嫌悪感を覚え、そそ

【短編】終の棲家(ついのすみか)

「どうしたんだい、ぼんやりして」  憮然とした顔で縁側にしゃがみ庭を眺めている妻の背中に、私は声を掛けた。 「うん。先頃ちょっと気が滅入るようなことがあってね」  振り向くことなく妻が答える。 「珍しいね。そんなこと言うなんて」  私も、妻の横に腰をかがめる。庭の隅で灯台躑躅 が白い花を咲かせていた。いつもなら放っておいても止めどなく口が動くのに、今日はいつになく重い。 「それで?」  私は先を促した。妻はしばらく逡巡した後、おもむろに話し出した。 「この間ね、教師になって

【短編】二人 (後編)

■ 「ところで、今までどこに行っていたの」 「アメリカだ。上司が心配してくれてね。いい機会だからって、気分転換も兼ねて三年間の海外赴任さ。君は、あの店をずっと……」 「そう。一人になってから、父の店を継いだわ。父は口には出さなかったけど、きっとそうして欲しかったんだと思ったの」 「それも理由の一つだったのか」 「そうね。あの頃、あなたの顔を見るのは辛かったし、子供のこともね。あまりに多くのことがありすぎたのよ。何か気を紛らす物が欲しかったのかも知れないわね」 「まだ君は、再

【短編】二人 (前編)

 小料理屋に着いたのは午後九時を少し回った頃だった。  紺地に『田上』と白く染め抜かれただけの質素な暖簾が懐かしい。  何年ぶりだろう。  引き戸を開けて、暖簾をくぐる。三卓のテーブルと五人が座れるカウンターだけの小さな店。カウンターには常連らしい人々が数人陣取っている。テーブルも二卓が埋まり、客の入りはまずまずといったところ。 「いらっしゃいませ」  聞き覚えのある声の方を見やると、聡美は舞うように客の間を動き回り、愛想を振りまき、冗談に応え、てきぱきと店を切り盛りしてい