来戸 廉

主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。好…

来戸 廉

主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。好きな作家は、星新一、阿刀田高、サキ、池波正太郎、柴田錬三郎、葉室麟 他。

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  • ショート・ショート

    今まで投稿したショート・ショートを纏めました。2,000文字以下の短い話ですが、「落ち(下げ)」に拘って書いてます。

  • 短編

    今まで投稿した短編を纏めました。

  • 短編 ちょびっとブラック編

    少しブラックめいたものを纏めました。

  • 【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記

    私の息子、ターちゃん(当時5歳)とアーちゃん(同じく3歳)の一年間を、絵本風に綴ってみました。 睦月《むつき》   (1月)   初詣、お正月 如月《きさらぎ》  (2月)   雪、お遊戯会 弥生《やよい》   (3月)   卒園式 卯月《うづき》   (4月)   入学式 皐月《さつき》   (5月)   目覚まし時計、アーちゃんの変化 水無月《みなづき》 (6月)   潮干狩り、プール 文月《ふみづき》  (7月)   カマキリ、ターちゃん警察 葉月《はづき》   (8月)   セミ取り、お願い 長月《ながつき》  (9月)   自転車、写真 神無月《かんなづき》(10月)  かけっこ、えのぐ 霜月《しもつき》  (11月)  ミカン狩り 七五三 師走《しわす》   (12月)  クリスマス、大掃除

  • ショート・ショート ちょびっとブラック編

    今まで投稿したショート・ショートを纏めました。少しブラックめいたもので、2,000文字以下の短い話です。「落ち(下げ)」に拘って書いてます。

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 改めまして、来戸 廉と申します。主に、短編、ショート・ショートを書いています。過去作、新作を交えて公開しております。  好きな作家は、星新一、阿刀田高、サキ、池波正太郎、柴田錬三郎、葉室麟、他です。  幼少の頃は漫画ばかり読んでいました。小学4年生ぐらいだったと思いますが、夏休みの宿題で読書感想文を書くというのがありました。その時選んだ本が、「813」でした。数字だけの書名に惹かれて手に取りました。ルパン物です。面白かったでのすが、読書感想文を書くにはそぐわない本でした。

    • 【ショート・ショート】ある朝の情景

      「もう、パパ。早く出てよね。急いでいるんだから」  ドアのノブが、ガチャガチャ鳴る。 「せかすな、今出る」 「早くしてよ、もう」  二階のトイレ。ドアの外では、まだ不満が足踏みしている。 「また本でも読んでるんでしょう。もう。持ち込まないでって、言ってるのに」  この騒ぎに、幸子を呼びに来た妻まで加わった。 「ここが一番落ちつくんだよな」 「朝は忙しいのよ。少しは、みんなの迷惑、考えてよ」  二対一では、私に分がない。しかも口数では十対一以上だろう。五月蠅さも相乗される。

      • 【短編】鉛筆

         私が小学五年のことだ。  コトン。授業中に舟を漕いでいたらしい。隣席の櫻井大介が僕の左肘を小突いた。その反動でぴくんと指が動いた拍子に鉛筆が転がって、机の上から床に落ちた。  ちっ。伸ばした僕の指先が、通路を挟んだ隣席の川島泰代の指に触れた。拾ってくれる所だったようだ。  あっ。慌ててお互いに手を引っ込めて、鉛筆だけが置き去りになる。僕は再び手を伸ばして鉛筆を拾った後、「ごめん」と小さな声で言った。泰代はうつむいたまま微かに首を振った。  鉛筆の芯は折れていた。予備は筆箱の

        • 【ショート・ショート】夏みかん

           バス停では既に三人が待っていた。風が冷たい。  私はコートの襟を立て、ポケットに手を突っ込み、少し背中を丸めながら列の最後尾に付いた。綾子は寒さに強いのか、私が驚くほどの薄着だ。  暫くして、老夫婦が我々の後に並んだ。 「ほら、ご覧。夏みかんの皮が剥けているよ」  声の方を向くと、老人が、家の庭先から道路に張り出した、枝もたわわに実る夏みかんの一つを指さしている。両の手で包んでも余りそうな大きさだ。  二人の会話は、聞くとはなしに私の耳に入ってくる。 「あら、そうですね」

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        • 【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記
          13本
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          12本
        • 【連載】ラジオと散歩と味噌汁と
          15本

        記事

          【ショート・ショート】衣替え

          「もう大分暖かくなってきたから、そろそろ衣替えしなくちゃね」  縁側の日差しに包まれるとリンネルのシャツでは、ややもすればうっすら汗ばむほどだ。妻は、箪笥から冬物を引っぱり出して、クリーニングに出す物を選り分けている。 「それ、好きだったな」  濃い萌葱色のセーター。二十年も前に買ったんだが、未だに古ぼけた感じがしない。 「あなたのお気に入りですものね」 「ああ。多少値が張っても、良い物はやっぱり良いな。こうして大事に手入れしていれば、愛着に応えてくれる。だから、長い目で見れ

          【ショート・ショート】衣替え

          【ショート・ショート】三叉路

           去年の正月に行われた中学の同窓会で、美鈴に会った。  カッちゃんと呼ばれたのは久しぶりだった。昔から明るい子だったが、二十年の月日がそれに輪を掛けていた。私が冗談を言ったり揶揄ったりする度に、美鈴はやだーっと笑いながら肩や腿を思い切り叩く。これには閉口した。  東京に戻って暫くすると、地元の友人がスナップ写真を送ってくれた。お礼の電話を入れると、友人は切り際に、美鈴の夫婦仲が悪いことを教えてくれた。私はそんな情報など知りたくもなかった。私は言い知れない嫌悪感を覚え、そそ

          【ショート・ショート】三叉路

          【短編】終の棲家(ついのすみか)

          「どうしたんだい、ぼんやりして」  憮然とした顔で縁側にしゃがみ庭を眺めている妻の背中に、私は声を掛けた。 「うん。先頃ちょっと気が滅入るようなことがあってね」  振り向くことなく妻が答える。 「珍しいね。そんなこと言うなんて」  私も、妻の横に腰をかがめる。庭の隅で灯台躑躅 が白い花を咲かせていた。いつもなら放っておいても止めどなく口が動くのに、今日はいつになく重い。 「それで?」  私は先を促した。妻はしばらく逡巡した後、おもむろに話し出した。 「この間ね、教師になって

          【短編】終の棲家(ついのすみか)

          【短編】二人 (後編)

          ■ 「ところで、今までどこに行っていたの」 「アメリカだ。上司が心配してくれてね。いい機会だからって、気分転換も兼ねて三年間の海外赴任さ。君は、あの店をずっと……」 「そう。一人になってから、父の店を継いだわ。父は口には出さなかったけど、きっとそうして欲しかったんだと思ったの」 「それも理由の一つだったのか」 「そうね。あの頃、あなたの顔を見るのは辛かったし、子供のこともね。あまりに多くのことがありすぎたのよ。何か気を紛らす物が欲しかったのかも知れないわね」 「まだ君は、再

          【短編】二人 (後編)

          【短編】二人 (前編)

           小料理屋に着いたのは午後九時を少し回った頃だった。  紺地に『田上』と白く染め抜かれただけの質素な暖簾が懐かしい。  何年ぶりだろう。  引き戸を開けて、暖簾をくぐる。三卓のテーブルと五人が座れるカウンターだけの小さな店。カウンターには常連らしい人々が数人陣取っている。テーブルも二卓が埋まり、客の入りはまずまずといったところ。 「いらっしゃいませ」  聞き覚えのある声の方を見やると、聡美は舞うように客の間を動き回り、愛想を振りまき、冗談に応え、てきぱきと店を切り盛りしてい

          【短編】二人 (前編)

          【短編】黄色い犬

           今年は空梅雨との長期予報だったが、その日は朝から雨だった。  山口加奈子が家路に就く頃には夜の10時を回っていた。  加奈子が住むS地区は、Y市のベッドタウンとして開発されつつある新興住宅地だ。既に人が生活している地区もあるが、まだ開発中の所も多い。  加奈子が今車を走らせているのはY市とS地区を結ぶ道路で、利用者のほとんどがS地区の住人のため午後9時を過ぎると極端に交通量が減る。  途中に未だ開発中で街灯さえもない区間が数キロに渡りある。そこは幽霊が出たとか、口裂け女を

          【短編】黄色い犬

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (8/8)

          8.追悼ライブ  開演三時間前。 「そろそろリハーサル、始めようか」  石井は二人に声をかけた。曲順を確認しながら音合わせをする。石井の心配は杞憂に終わった。リハーサルは一時間半ほどで終えた。 「たった二ヶ月でよくここまで仕上げたものだ。これならソロもがんがん回せるよ」  二人は石井の評価に安堵した。石井は開演が待ち遠しかった。 「プーさん。録音してもいいかな?」  リハーサルが終わったのを見計らって春川が近づいてきた。昔は録音係をやってくれた。額を左の小指で掻くのは頼み

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (8/8)

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (7/8)

          7.追悼ライブ 準備  追悼ライブの当日。  午前中は何とか小康を保っていた空だったが、昼過ぎからポツリポツリと滴を落としてきた。 「こりゃあ、サブの涙雨だな」  店の外で、立て看板に開演時間の案内を貼っていた石井が空を見上げた。 「案外、一緒にやれない悔し涙かもよ」  景子はドアから顔だけ出したが、風の冷たさに身震いすると中に引っ込んだ。  店内では常連の吉田と佐藤が機材のチェックに忙しい。景子は側に行って労いの言葉を掛けた。 「ヨシさん、いつも悪いわね」  吉田はミキ

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (7/8)

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (6/8)

          6.挫折と再起 「それはそうと、結婚はしたの?」  唐突に景子が尋ねてきた。 「いや。昔チャンスを逃してね。待っていてくれと言うには、彼女は若すぎた」 「年齢って関係ある?」  景子は口を尖らせた。 「いいや。だけど、その時はそう思って、言えなかったんだ」  グラスを急速に回すと置き去りにされた氷が内側に沿って滑っていく。 「その人が待っているかも知れないとは、考えなかったの?」  景子がグラスを揺する。煽られた氷がグラスにぶつかって湿った音を立てた。 「自負はあったさ。

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (6/8)

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (5/8)

          5.解散ライブ  『ジェイQ』の解散ライブはメンバーへの報告の二週間後に行われた。11月半ば、小春日和の日だった。  夜7時開演。  いつにもまして『ジョイ』はごった返した。演奏は終盤に近づくに連れて熱を帯びてきた。数曲に及ぶアンコールが終わって店内が明るくなっても、客はなかなか席を立とうとはしなかった。  11時過ぎから始まった打ち上げには常連さん達も多く顔を出した。  乾杯の後、常連達が石井を取り囲む。 「『ジェイQ』が解散するのは残念だけど、この店からプロが出るのは

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (5/8)

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (4/8)

          4.スカウト  石井が『ジョイ』に出演するようになって早二年が過ぎていた。石井は大学生活三年目の秋を迎えていた。相変わらず大学には行かずライブハウスと自宅とを往復する毎日だった。どう足掻いても単位が足りず留年は確実だったが、大して気にもしていなかった。  景子は大学生になった。『ジョイ』へも薄く化粧をして来るようになった。このバイトも四年目。店を持つのが夢だという景子は夜遅くまで店にいることも多くなった。アパートを借りて一人暮らしを始めたのもこの頃だった。  ある日。開演

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (4/8)

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (3/8)

          3.バンド結成  時は1975年。  大学の入学式の翌日のことだった。  石井はキャンパス内を歩いていて声を掛けられた。入部しないかと誘う。 「やるんだろ、音楽」  中背で小太りの男は石井が持っていたサックスのケースを指さした。少し肌寒い陽気だったが彼は薄ら額に汗をかいている。石井が頷くと、 「そんなに広くはないけど、練習場所もあるよ」  と言いながら石井の返事も待たずにすたすた先を歩いていく。石井は遅れないように付いていった。  軽音楽部の部室は学生会館の一角にあった。

          【創作大賞2024応募作恋愛小説部門】『クール・ストラッティン』、再び (3/8)