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短編

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今まで投稿した短編を纏めました。
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記事一覧

【短編】五ノ鹿町観光協会案内係(後編)

3 リダイアル  リダイアルボタンを押すと携帯電話の番号が表示された。数回の呼び出し音の…

来戸 廉
2週間前
7

【短編】五ノ鹿町観光協会案内係(前編)

(4,068文字) 1 名無しの権兵衛さん 「はいっ?」  五ノ鹿町観光協会に勤務する菅野亜希子…

来戸 廉
2週間前
9

【短編】白い記憶(2/2)

(3,023文字)  眩しくて目を覚したら、燦々と降り注ぐ陽のもと、バス停のベンチで寝ていた…

来戸 廉
3週間前
3

【短編】白い記憶(1/2)

(2,753文字)  妻が庭の芝に散水している。その傍らを三歳になる娘が走り回る。白いワンピ…

来戸 廉
3週間前
4

【短編】なごり雪(2/2)

(3,714文字) 5  金沢街道を歩いて、鶴岡八幡宮に向かう。  明子は岡村の腕を取って歩く…

来戸 廉
3週間前
9

【短編】なごり雪(1/2)

(4,156文字) 1  岡村にとって、この年の忘年会はあまり気乗りがしないものだった。ここ…

来戸 廉
3週間前
10

【短編】その日

(4.698文字)  おーい。お銚子の首を摘まんで掲げたところで、妻と目が合った。まだ寒さが残るこの時期やはり熱燗がいい。 「糖尿病だって、医者に言われてるんでしょう」  妻の言葉が耳に刺さる。 「正確には予備軍だけどな。あと一本だけ」  大仰に拝むと、困ったわねと眉を顰める。夕餉の準備も終わったようだ。「お前も一献どうだ」と誘うと、妻は向かいに座った。妻はくいっと一気に飲み干すと、 「来週の日曜日は大丈夫よね?」  と聞いてきた。 「来週の日曜日? 何だっけ?」 「もう

【短編】他人のそら似

(2,747文字) 「ねぇ、あの萌葱色のスカートの人、誰かに似てない?」  土曜日の午後、妻に…

来戸 廉
1か月前
10

【短編】通りすがり

(3,188文字) 「あのぅ、もし」  昼下がり。通りすがりに声を掛けられた気がした。立ち止ま…

来戸 廉
1か月前
11

【短編】パンとビール(3/3)

(2,542文字) 【短編】パンとビール(2/3)から続く  ごとっ。私は今だとばかりに机の下部…

来戸 廉
2か月前
9

【短編】パンとビール(2/3)

あらすじ:看護師の綾子と何でも一緒に住むようになって二年。私は、珍しく定時で夜勤を終えた…

来戸 廉
2か月前
10

【短編】パンとビール(1/3)

(3,314文字)  綾子が何か言った時、私は考え事をしていた。いや正確に言うと何かを思い出…

来戸 廉
2か月前
7

【短編】ターミナル(2/2)

(3,121文字) 【短編】ターミナル(1/2)より続く  定年を迎えて、妻と二人で過ごす時間が…

来戸 廉
2か月前
9

【短編】ターミナル(1/2)

(2,823文字) 「近い駅だったら止まるの?」  その言葉は、私を眠りの淵から現に引き戻した。私は小春日を背に受け、電車の揺れに身を任せていた。相模鉄道本線、横浜発海老名行きの急行電車。向かいの席に座る、三十代前半と思われる父親に連れられた、四、五歳くらいの男の子が発したものだった。 『近い駅だったら止まるの?』という表現が面白くて、私はしょぼしょぼする目を揉みながら二人の会話に耳をそばだてた。  まもなく二俣川駅だ。 「そう。駅に近づいたら、運転士さんがブレーキをかけ