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ろんぐろんぐあごー

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デビュー以前に書いた素面では到底読めない作品をひっそりと公開。
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2023年11月の記事一覧

MAD LIFE 210

MAD LIFE 210

14.コインロッカーのひと騒動(14)4(承前)

「誰!? 手を離してよ!」
 そう叫んだ真知の手から、洋樹は強引にスポーツパッグを奪い取った。
「春日さん!」
 中西が洋樹の姿を見て声をあげる。
「よくやってくれました。春日さん」
 中部はにこにこと愛想をふりまきながら、洋樹に近づいた。
 乱暴に扱ったため、スポーツバッグの端はわずかに破けている。
 破れた布の向こう側には、ビニール袋に入った

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MAD LIFE 209

MAD LIFE 209

14.コインロッカーのひと騒動(13)4(承前)

 今だ!
 スポーツバッグを手にしようと屈み込んだ男の腹を思いきり蹴り上げる。
「ぐうっ」
 男は奇妙な声をあげ、壁に叩きつけられた。
「貴様、なにをする?」
 彼はこちらを睨みつけ、銃を構え直したが、中西は躊躇することなく男に体当たりをくらわせた。
「バッグを持って早く逃げろ!」
 真知に向かって叫ぶ。
「で、でも……」
 真知はためらっている

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MAD LIFE 208

MAD LIFE 208

14.コインロッカーのひと騒動(12)4(承前)

「フェザータッチオペレーション!?」
 真知が大声をあげた。
「どういうこと? 〈フェザータッチオベレーニョン〉っていうのはパパが私を見張るように依頼した探偵かなにかなんでしょ?」
 真知の父は政略結婚を嫌がる娘を〈フェザータッチオペレーション〉に監視させていた――真知は中西にそう話してくれたが、実際は少々違っていたたらしい。
「それは君の勝手な

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MAD LIFE 207

MAD LIFE 207

14.コインロッカーのひと騒動(11)4(承前)

「このコインロッカー……」
 暗闇の中、中西と真知はコインロッカーの前に立っていた。
「急がなくっちゃ」
 真知はポケットから〈23〉と刻まれた鍵を取り出すと、同じ番号のコインロッカーを探し始める。
 その間に、中西は真知から渡された服を着た。
「23……23……あったわ」
 真知がロッカーに鍵を差し込み、左に回す。
 静かな構内にロックの解除さ

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MAD LIFE 206

MAD LIFE 206

14.コインロッカーのひと騒動(10)4(承前)

 真知は線路沿いの柵を乗り越えると、そのまま線路を横切って駅のプラットホームへとよじ登った。
 すでに電車の走っていない時間帯であるとはいえ、危険極まりない行為だ。
「真知! なにやってるんだよ?」
 中西が裸のまま、真知のあとを追いかける。
「静かにして。警備員さんに気づかれたらどうするの?」
 ホームから真知の声が聞こえてきた。
 あいつらは

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MAD LIFE 205

MAD LIFE 205

14.コインロッカーのひと騒動(9)4(承前)

 洋樹はしばらくの間、呆然とその光景を眺めていたが、やがて我に返り、運転手に声をかけた。
「ここで降りるよ。いくらだい?」
「え? ここでですか?」
 運転手はきょとんとした顔つきでいった。
「目的地はまだずっと先ですけど……」
「かまわない」
「はあ……」
 運転手はけげんそうに洋樹を見つめながらドアを開けた。
 タクシーを降りた洋樹は、駅前でう

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MAD LIFE 204

MAD LIFE 204

14.コインロッカーのひと騒動(8)4(承前)

「え?」
 洋樹は驚いて瞳の顔を見た。
「どういうことだ?」
「ううん……」
 瞳は首を横に振る。
「なんでもない」
 愁いを帯びた彼女の目に、洋樹は心をかき乱された。
「今いったことは忘れて……」

 洋樹は瞳の部屋を離れると、公衆電話からタクシーを呼んだ。
 十分ほどでタクシーはやってきた。
 タクシーに乗り込みながら、ふと瞳の部屋を見上げる。

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MAD LIFE 203

MAD LIFE 203

14.コインロッカーのひと騒動(7)3(承前)

「え?」
「鍵だよ、鍵!」
 中部は富岡から鍵を奪い取ると、すぐに走り出した。
「警部、どこへ?」
「駅だ!」
 中部はそれだけいい残すと、猛スピードで駅へと急いだ。



 午前零時半。
「明日も学校があるんだろう? 早く寝ろよ」
 洋樹が瞳にいう。
「おじさんこそ早く帰った方がいいんじゃないの?」
「今夜は遅くなるっていってある」
「 そう…

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MAD LIFE 202

MAD LIFE 202

14.コインロッカーのひと騒動(6)2(承前)

「おい、真知! 待てよ!」
 中西は慌てて真知のあとを追いかけた。
「真知!」
 途中で、自分がタオル一枚を腰に巻きつけているだけだと気がついた。
 しかも裸足のままだ。
 しかし、そんなことにはかまっていられない。
 中西はそれくらい必死だった。



〈フェザータッチオペレーション〉を出て自宅へ帰る途中だった中部は、富岡とばったり出くわした

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MAD LIFE 201

MAD LIFE 201

14.コインロッカーのひと騒動(5)2(承前)

 季節外れの黒いコートを着た男が現れた。
 中西は彼を見上げる。
 大男だった。
 サングラスをかけているので年齢ははっきりしないが、おそらく俺より上だろうと中西は思った。
 男からは酒の臭いがしている。
「どうしたの? ワタルさん、こんな時間に」
 真知が大男に訊く。
「……なにかあったの?」
「すぐに大阪へ行くんだ」
 ワタルはポケットの中身を

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MAD LIFE 200

MAD LIFE 200

14.コインロッカーのひと騒動(4)2(承前)

「はい、中西ですが」
『ああ、望』
 電話は母――美和からだった。
「母さん。今、どこにいるの?」
『それがさ、まだ鳥羽なんだよ』
「どうして?」
『玄太さんが行方不明になっちゃってね』
 玄太は中西の家の二軒隣でひとり暮らしをしている老人だ。
『あ、でも心配はいらないよ。ついさっき、見つかったから。道に迷って、近くの公園にいたんだって。あの人、ち

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MAD LIFE 199

MAD LIFE 199

14.コインロッカーのひと騒動(3)2(承前)

「ああ、ちょうどいいよ」
 と中西は答えたが、実際のところ、お湯は少しぬるかった。
 だが、真知のことだ。
 うかつに「ぬるいぞ」などといったら、今度は熱湯に変えてしまうかもしれない。
「気持ちいい?」
 再び、真知の浮かれた声が聞こえてくる。
 もしかしたら、新婚気分でいるのかもしれない。
「ああ」
 中西は面倒くさそうに答えた。
「じゃあ、あた

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MAD LIFE 198

MAD LIFE 198

14.コインロッカーのひと騒動(2)1(承前)

 沈黙の中、腕時計のアラームが午前零時を告げる。
 ……おじさん、どうなったのかな?
 瞳は洋樹のことを考えた。
 彼が〈フェザータッチオペレーション〉の怪しい部屋へ侵入したのは午後五時半頃。
 あれから六時間以上が経過している。
 何事もなかったと思いたいが、不安な心はむくむくと膨れ上がっていく。
 別のことを考えて気を紛らわそうとしても、やはり

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MAD LIFE 197

MAD LIFE 197

14.コインロッカーのひと騒動(1)1

 瞳は昼間見たテレビのニュースを思い返していた。
 今朝早くに亡くなった立澤栄――彼の腕に刻まれた龍の刺青。
 その映像を目にした途端、十三年前の記憶が鮮やかに蘇った。
 ……三歳の私。
 両親も兄も病院に出かけていて、家には瞳ひとりが残っていた。
 そこに現れた男……あれが立澤だったなんて。
 ――瞳、大きくなったな。
 立澤の両腕が瞳の首に伸びる。
 

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