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MAD LIFE 201

14.コインロッカーのひと騒動(5)

2(承前)

 季節外れの黒いコートを着た男が現れた。
 中西は彼を見上げる。
 大男だった。
 サングラスをかけているので年齢ははっきりしないが、おそらく俺より上だろうと中西は思った。
 男からは酒の臭いがしている。
「どうしたの? ワタルさん、こんな時間に」
 真知が大男に訊く。
「……なにかあったの?」
「すぐに大阪へ行くんだ」
 ワタルはポケットの中身を探りながら真知にいった。
「今から大阪へ?」
「真知、この男は誰なんだ?」
 会話の内容がまるでわからず、真知に尋ねる。
「お友達よ。長谷川ワタルさん」
「……ロッカーのキーだ」
 中西には目をくれようともせず、ワタルはポケットから鍵を取り出した。
「あのスポーツパッグを持って今すぐ大阪へ向かえ」
「ずいぶんと慌ててるのね」
「俺がドジったんだ」
 吐き捨てるように彼は答えた。
「もうひとつのキーがあいつらの手に渡ってしまったら大変だ」
「え……」
「あいつらがスポーツバッグを見つける前に大阪へ届けないと」
「わかったわ」
 真知はワタルから鍵を受け取ると力強く頷いた。
「フェザータッチオペレーションなんかに負けるもんですか!」
 真知は靴を履くと、大男を見上げた。
「ワタルさんも来てくれるんでしょう?」
「いや、俺はまだ用事が残っている。悪いな」
 ワタルはそう答えるなり、夜の街へ駆け出していった。
「ワタルさん!」
 真知はしばらくの間、ワタルの後ろ姿を眺めていたが、やがて中西のほうに真顔を向けると、
「中西さん。しばらくの間、お別れよ」
 そういって、家を飛び出していった。

 (1986年3月1日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

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