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MAD LIFE 209

14.コインロッカーのひと騒動(13)

4(承前)

 今だ!
 スポーツバッグを手にしようと屈み込んだ男の腹を思いきり蹴り上げる。
「ぐうっ」
 男は奇妙な声をあげ、壁に叩きつけられた。
「貴様、なにをする?」
 彼はこちらを睨みつけ、銃を構え直したが、中西は躊躇することなく男に体当たりをくらわせた。
「バッグを持って早く逃げろ!」
 真知に向かって叫ぶ。
「で、でも……」
 真知はためらっている。
「俺のことはいい! 早く行け! こいつは俺がなんとかするから――」
 中西は男の襟首をつかんだところで、言葉を失った。
「え……」
 暗くて今までわからなかったが、そこにいたのは中部警部だったのだ。
「どうして警部さんが……?」
「早くあの女を捕まえるんだ!」
 中部が中西にいう。
「あのスポーツバッグの中身は麻薬なんだよ!」
「……麻薬?」
 階段を下りていく真知の後ろ姿を見る。
「早く補まえるんだ! あの娘は須藤仁に騙されて麻薬の輸送を手伝わされているらしい」
「そんな……」

 どうするべきか判断がつかないまま、物陰に隠れてじっと三人の様子を窺っていた洋樹は、プラットホームに下りていこうとする真知の腕をつかんだ。
「きゃっ!」
 真知が悲島をあげる。

 (1986年3月9日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

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