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MAD LIFE 206

14.コインロッカーのひと騒動(10)

4(承前)

 真知は線路沿いの柵を乗り越えると、そのまま線路を横切って駅のプラットホームへとよじ登った。
 すでに電車の走っていない時間帯であるとはいえ、危険極まりない行為だ。
「真知! なにやってるんだよ?」
 中西が裸のまま、真知のあとを追いかける。
「静かにして。警備員さんに気づかれたらどうするの?」
 ホームから真知の声が聞こえてきた。
 あいつらは一体、なにをやってるんだ?
 洋樹は眉をひそめる。
 ……あ。
 すぐ近くに人の気配を感じ、息を呑んだ。
 中部警部が駅に向かって駆けていく姿が見える。
 しかし、駅の入口にはシャッターが下りていた。
「畜生!」
 中部は乱暴にシャッターを叩いた。
 どうやら、相当慌てているらしい。
「くそう! 先を越されてたまるか! あいつらにブツを渡すわけにはいかないんだ!」
 中部はそう呼ぶと、中西と真知が乗り越えた柵に手をかけ、線路を横切り、彼もまたプラットホームへよじ登った。
 中西と真知の姿はすでに見当たらない。
 どうやら階段を上って駅舎へと侵入したようだ。
 ホームにひとりぽつんと立った中部は、周囲の様子を確認すると、胸元から黒光りする拳銃を取り出した。
 洋樹は愕然とする。
 中部警部はなにをするつもりなのだろう?
 まさか……。
 これまでに得た情報を懸命に整理する。
 小崎真知……彼女には黒いコートに身を包んだ須藤仁という仲間がいる……彼らは〈フェザータッチオペレーション〉に敵対する組織の一員なのだろう。
 そして、おそらく――
 洋樹は階段を駆け上る中部を目で追いながら、恐怖に慄いた。
 おそらく――小崎真知の所属する組織も、〈フェザータッチオペレーション〉も麻薬密売組織なのだろう。
 このままだと中西の命が危ない!
 洋樹は電柱の陰から飛び出すと、柵を越えて中部のあとを追った。

 (1986年3月6日執筆)

つづく

この日の1行日記はナシ

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