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MAD LIFE 197

14.コインロッカーのひと騒動(1)

 瞳は昼間見たテレビのニュースを思い返していた。
 今朝早くに亡くなった立澤栄――彼の腕に刻まれた龍の刺青。
 その映像を目にした途端、十三年前の記憶が鮮やかに蘇った。
 ……三歳の私。
 両親も兄も病院に出かけていて、家には瞳ひとりが残っていた。
 そこに現れた男……あれが立澤だったなんて。
 ――瞳、大きくなったな。
 立澤の両腕が瞳の首に伸びる。
 彼の視線は憎悪に満ちていた。
 なぜ、立澤は私を殺そうとしたのだろう?
 彼はまともではなかった。
 床に転がった注射器と白い粉。
 あれはたぶん、麻薬だったのだろう。
 ――死んりまえ!
 立澤は呂律の回らない口調でそう叫んだ。
 地獄の時間だった。
 今思い出しても、恐怖で全身がすくみあがる。
 苦しい……痛い……
 助けて……パパ……ママ……
 ――瞳!
 父の叫び声。
 ――なにをするんだ!
 ――あんた、なにしに帰ってきたんだよ?
 父も母も立澤のことを知っているような口ぶりだった。
 ――なにしに帰ってきたんだよ?
 ……帰ってきた?
 瞳は息を呑んだ。
 つまり……立澤は昔、私の家に住んでいたってこと?

 (1986年2月25日執筆)

つづく

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