MAD LIFE 200
14.コインロッカーのひと騒動(4)
2(承前)
「はい、中西ですが」
『ああ、望』
電話は母――美和からだった。
「母さん。今、どこにいるの?」
『それがさ、まだ鳥羽なんだよ』
「どうして?」
『玄太さんが行方不明になっちゃってね』
玄太は中西の家の二軒隣でひとり暮らしをしている老人だ。
『あ、でも心配はいらないよ。ついさっき、見つかったから。道に迷って、近くの公園にいたんだって。あの人、ちょっとボケてきちゃったのかねえ。そういうわけで、明日の朝、帰るから』
「わかった」
『おまえ、食事は大大夫かい? インスタントのものなんか食べていないだろうね?』
「うん。ちゃんと食べてるよ」
味はイマイチだけどな。
中西は心の中でそう呟き苦笑した。
そのときだ。
玄関の扉をノックする音が聞こえた。
こんな時間に誰だろう?
中西は母との通話を終え、玄関に向かった。
「お母様が帰ってきたんじゃないの?」
真知がいう。
「いや。母さんはまだ鳥羽だ」
「ってことは、もしかしてまたあいつらかしら?」
真知につきまとう男たちのことをいっているのだろう。
「どちら様ですか?」
中西はドアの向こうの人物に尋ねた。
「こちらに、小崎真知っていう娘がいるでしょう?」
野太い男の声が耳に届く。
「ワタルさん!」
真知が叫んだ。
「早く彼を中に入れてあげて」
「あ、ああ」
中西はいわれるがままにロックを解除した。
(1986年2月28日執筆)
つづく
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