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MAD LIFE 210

14.コインロッカーのひと騒動(14)

4(承前)

「誰!? 手を離してよ!」
 そう叫んだ真知の手から、洋樹は強引にスポーツパッグを奪い取った。
「春日さん!」
 中西が洋樹の姿を見て声をあげる。
「よくやってくれました。春日さん」
 中部はにこにこと愛想をふりまきながら、洋樹に近づいた。
 乱暴に扱ったため、スポーツバッグの端はわずかに破けている。
 破れた布の向こう側には、ビニール袋に入った白い粉が見えた。
「やはり……」
 中部がため息をつく。
「御協力感謝しますよ、春日さん。これで須藤たちを捕まえることができます」
 中部はゆっくりと洋樹の持っているバッグに手を伸ばした。
「騙されませんよ」
 中部に冷たくそういい放ち、スポーツバッグを強く抱きかかえる。
「表向きは人のいい警家官を演じているんでしょうが、実は裏で非情なことをやっているんですよね?」
「……え?」
 中部がたじろぐのがわかった。
「どういうことです?」
 そう口にしたのは中西だ。
「さっき、中部警部が自分で白状しただろう? 彼は〈フェザータッチオペレーション〉の一員で、須藤仁と対立しているんだ」
「…………」
 中部は黙ったまま、じっと洋樹の顔を見続けている。
「警部。あなたもまた、麻薬密売人のひとりなんだ」
 洋樹は目の前の男にそう告げた。
 中部は〈フェザータッチオペレーション〉で西龍組の組長らと親し気に会話を交わしていた。
 長崎典和を殺したのも彼らだ。
 そんな男がまともであるはずがない。
「馬鹿げた妄想だ」
 中部は笑いながらいった。
「さあ、そのスポーツバッグをこちらへ」
「できません」
「早くよこせ!」
 中部の目つきが変わる。

 (1986年3月10日執筆)

つづく

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