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有機的なスチュワードシップ活動には金融リテラシーを持つ受益者の存在が不可欠

ESG投資に関する国際的に著名なメディアであるResponsible Investorに以下のコメントを取り上げられました。

「明確な目的なく対話が行われているケースも存在し、投資家と企業が単に顔を合わせて話すだけで対話の証拠としてカウントしている。しかし、これでは企業の戦略および業務にほとんど影響を及ぼさない」

金融庁の主催する「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」による意見書(4)がゴールデンウィーク前に公表されました。上記の記事はその内容について私を含む市場関係者の声を取り上げたものです。

同意見書では投資家によるスチュワードシップ活動について「企業との対話の中身が依然として形式的なものに留まり、中長期的な企業価値向上に十分つながっていない」との指摘がなされています。

ただこのコメントを額面通りに受け取るのは必ずしも適切ではなく、その背景についても考える必要があります。スチュワードシップ・コードの署名機関である機関投資家は受益者たる個人から運用を託されており、そのすべてが「中長期的な企業価値向上」のみを望んでいるとは限りません。実際には月次、もしくは四半期ごとに運用成果を報告する慣行が一般的で、そこでの運用成績次第では託される運用資金が減らされる可能性があるのです。そうなれば当然短期的な運用成績も重視せざるを得ず、「中長期的な企業価値向上」を目指すのが理想的であっても、実務ではそれを重視するインセンティブは失われかねないのです。

企業に長期性の資金を供給する機関投資家の役割はもちろん重要です。それだけでなく、企業のイノベーションを促進し、企業による本業を通じた社会貢献を促進するという長期性資金の意義を受益者たる個人の理解もまた重要なのです。それぞれの個人が長期性資金の一翼を担っているという自覚を持つとともに、自らが運用を委託している機関投資家がどのようなスチュワードシップ活動を展開しているかに興味を持つことが第一歩となると言えるでしょう。

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