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Stroke Impact Scale version 3.0の日本語版の作成および信頼性と妥当性の検討~論文紹介~



初めまして、くろと申します。
臨床4年目、回復期リハビリテーション勤務の作業療法士です。

今回は、論文紹介を行いたいと思います。

はじめに

我が国で年間約20万人が発症する脳卒中は、その約2/3に後遺症が残るといわれている。リハビリテーションは脳卒中発症直後の急性期からベッドサイドで治療に参加し,離床が進む亜急性期以降は治療の主体を占めており,発症後6ヶ月の時点では約70%の患者が歩行自立でき,自宅復帰支援も充実している.
しかし,発症後6ヶ月以降の慢性期における社会参加に課題が残っており,残存した障害を生かす復職支援などのquality of life(QOL)の向上にむけたアプローチが求められている. 
脳卒中のリハビリテーションは,国際生活機能分類(ICF)に基づき,心身機能・身体構造・活動・参加に分類し,総合的な健康状態を評価しながら行う.

Stroke Impact Scale(SIS)は新しい脳卒中に特異的な総合的な健康状態の評価法であり,QOLを中心とした評価に広く使用されている.Duncanらにより開発され,良好な信頼性(再検査信頼性のintraclass correlation coefficient(ICC): 感情 0.57, その他 0.7以上)と妥当性(SIS各項目のCronbachʼs α 0.83以上)が報告されている.現在使用されているSIS version 3.0は9つの大項目の質問(筋力,手の機能,日常生活動作/手段的日常生活動作,移動,コミュニケーション,感情,記憶と思考,参加,回復)からなり,原則,患者が自己報告するものである.回復以外の8項目は過去1~4週間に患者自身が経験した,各質問項目を完了する難しさを1-5点の5段階尺度で評価し,回復は1-100までのビジュアルアナログスケールで評価する.回復以外のそれぞれの項目の値(素点)を, 大項目スコア=(素点-最小値)(最大値-最小値)×100を原則とし,100点満点の大項目スコアに換算する.そのうち4項目(筋力,手の機能,日常生活動作/手段的日常生活動作,移動)の平均は身体スコア(Physical domain score)と定義される.SIS version 3.0の日本語版を作成し,その信頼性(各大項目および身体スコアとの内的整合性および再検査信頼性)と仮説検証(麻痺,歩行,日常生活動作,健康関連QOLとの収束的妥当性)について報告する.

評価用紙

考察

SISは現在version 3.0が世界で用いられており,多くの言語に翻訳され,信頼性,妥当性が示されている.特に慢性期の脳卒中患者においては,臨床研究のアウトカムの一つとして使用されており有用である.SIS version 3.0日本語版は自己報告式のため侵襲がなく場所を選ばず簡便に評価でき,評価時間はおおよそ15分程度である.無料で使用できることも利点のひとつである.
健康関連QOLの評価であるSF-8の身体的サマリースコアとSIS version 3.0の身体スコアの強い相関を認めた.SIS version 3.0はICFで定義される心身機能・活動・参加すべてにおける自己評価が可能であるが,健康関連QOLの評価にもっとも近いと考えるべきである.ブラジルの慢性期脳卒中患者における同様の報告では,short form-36の身体的サマリースコアとSIS version 3.0の身体スコアと強い相関があるとしており,今回の報告と矛盾しない. SIS version 3.0の身体スコアと上肢・手指・下肢のBr stageには中等度の相関を認めた.FIMとFACと相関は認められなかった.これはFIMやFACが比較的高い患者が多いことが1つの要因として考えられる.また,日常生活や歩行自立度が客観的に高くても,自己評価が必ずしも高くないと考えることもできる.脳卒中による心や体の影響を強く感じている可能性も考慮すべきである. 慢性期脳卒中の評価として,今回の対象は比較的軽度の患者が多く,重度障害をもつ患者への信頼性・妥当性に関してはさらなる検討が必要である.高次脳機能障害をもつ患者では質問を理解できない,5段階評価ができない,最後まで集中して回答できないなどの理由で正しい回答ができない可能性もあり,介護者や質問者が答えやすいように患者からの質問に答えるなどの配慮を要することが予想できる.また,内的整合性の検証として一次元性の確認や確証的因子分析が行われていないこと,測定誤差が検証されていないことなど,原版では証明されているものの日本語訳では検証としては不完全なところが残存している.今後は上記の課題をふまえ,さらに症例数を増やし,不完全な部分を検証し,効果判定尺度としての有用性を検討する予定である.

結論

SISは脳卒中の患者様に有用な評価となっている。
無料で使用できるため、購入に施設の許可をもらうなどの壁が少ない。
重度障害に対する妥当性はさらなる検討が必要である。
入院時に他の評価と合わせて評価しておきたい。
EQ-5Dなど他の使用可能なQOL評価より特異的でかつ、詳しく評価できるため、今後評価に使用していきたい。
この評価を実施することで、患者様が障害、症状についてなど項目別に深く話すこともでき、別場面でも、項目の箇所や気になっているところが良くなってきたか意識して話すことができると考えられる。
是非使っていきたいQOL評価の一つと考えています。


参考文献

越智 光宏, 大橋 浩, 蜂須賀 研二, 佐伯 覚, Stroke Impact Scale version 3.0の日本語版の作成および信頼性と妥当性の検討, Journal of UOEH, 2017, 39 巻, 3 号, p. 215-221, 公開日 2017/09/14, Online ISSN 2187-2864, Print ISSN 0387-821X, https://doi.org/10.7888/juoeh.39.215, https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/39/3/39_215/_article/-char/ja,

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