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日本の物価は上昇していない。

2022年4月の消費者物価指数が発表され、各社で報道されている。
例えば、こんな記事である。

いずれも「賃金が追いつかない」「景気上昇を伴わない」と、悲観的な見出しである。しかし、今回の物価上昇は、違った見方が出来るのではないか。

ひとつは、2.1%という数字がそれほど大きな上昇なのか、という点である。

アベノミクスが始まった当初、日銀の黒田総裁は2%の物価上昇を掲げていた。それも2年で達成する見込みであった。ところが消費増税の影響もあってなかなか達成できず、ようやく今、10年弱の年月を経て到達したのだ。

つまり、2.1%という数字は、本来なら問題視するような上昇幅ではないのである。というより、常時このくらいは上昇していて欲しいという、むしろ下限の数字である。

リンクを貼った日経の記事にあるグラフなど、いかにも異常な物価上昇であるかのような印象であるが、それは目盛りの問題であって、最も低い値を-1.0%、最も高い値を2%としているからそのようになる。

同じ期間のアメリカの物価上昇率は2021年4月が4.0%、2022年4月が8.3%だから、その差は歴然である。しかも昨年4月と言えば、米FRBはまだまだ金融緩和を推し進めていたところである。日本がこの程度物価上昇したからと言って問題にする方がおかしいのだ。

ふたつ目は、この2.1%という数字を元に議論を進めていいのか、という問題である。

総務省統計局が発表した消費者物価指数は、正確には以下である。

総務省統計局 2020年基準 消費者物価指数 全国 
2022年(令和4年)4月分(2022年5月20日公表)

2.1%というのは、「生鮮食品を除く総合」である。生鮮食品は気候などで大きく変動し、必ずしも経済の状況を表していないことから、経済を考える上では一般的に除いて考える。

注目して欲しいのは、その下の「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」である。エネルギー価格は一部産油国の生産方針などによって左右され、生鮮食品と同じくこちらも必ずしも国内の経済状況を表していない。よってこれも除いて考える方が本来は理にかなっているが、これに触れた報道は見当たらない。

日銀の物価目標が「生鮮食品を除く」であることから、こちらを取り上げるのは一見もっともらしいが、ウクライナ戦争という明白な特殊事情があるのだから、日銀の目標はともかくとして「エネルギー除く」に着目するのが妥当ではないか。

そしてこちらの数字は0.8%である。経済政策を考える上では、日本の物価上昇率は「2.1%」ではなく「0.8%」と認識すべきなのである。

NHKの記事など「悪い物価上昇」などと煽っているが、一部に飛び抜けて上昇した品目があるだけで、そもそも「物価上昇」でも何でもないのである。

0.8%では、とてもインフレ局面などとは言えない。エネルギー価格という限定された品目でしか物価が上がらないから、当然給料も上がらない。

人によっては「エネルギー価格が上がれば他の品目も上がるんじゃないのか?」と思っているかもしれない。しかし、消費者物価指数はそういう影響も含めた上での、店頭などで実際に売られている価格を元にしている。だから、「エネルギー除く」が0.8%ということは、やはり全体として0.8%なのである。

どういうことかというと、電気代やガソリン代などの経費がかさんでも価格転嫁できていないのである。

確かに私とて、ガソリンが高いことには閉口している。何とか安くならないだろうかと願ってはいる。しかし、日本全体の客観的な状況は必ずしも情緒的な生活実感とは一致しない。

政策として必要なのはエネルギー価格という一部品目への対策であって、端的に言えばガソリン対するトリガー条項の発動である。0.8%の物価をさらに押し下げる金融引き締めなど、長く苦しんだデフレ経済に自ら再び飛び降りるようなもので、正気の沙汰ではないのである。

0.8%でも上昇しているのだからデフレとは言わないが、少なくとも「物価上昇」との認識では誤った経済政策しか施されない。是非とも正確に認識したいものである。

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