葬送のフリーレンと「原罪」

葬送のフリーレンは、もはや紹介するまでもない。
それほどにヒットし、多くの人が触れるコンテンツである。

私は魔法試験的なところで読むのを一度止めたが、
その設定や導入において、時世をくむセンスに関心した。

私は本作(冒頭)での読解において、
ボードリヤールを補助線として考えた。

特にに、「象徴交換と死」を意識しながら読むと、
エルフ・人間(老人・若者)・魔族の対比は興味深い。

これらの人種とその基本的な概念や設定は、
現在の人の内にある、属性や価値感のキャラ化である。

とはいえ、ここは個人的に旬が過ぎたこともあるし、
すでに誰かが言っているだろうということでパスする。

イメージだけ共有するとしたら以下のようなものだ。
(言葉選びは厳密ではなくイメージを先行している)

エルフ≒都市人間(個人・死から遠い・共同体を失った)
老人 ≒旧い人間(社会的・死と生を知る・共同体を持つ)
若者 ≒可能性(非親からの継承・新たな共同体の担い手)
魔族 ≒システム(完全な個人・合理的・共同体を持たない)

葬送のフリーレンは、言うなればシステムに管理された
都市に生きる人間が、象徴交換を知る旧い人間と交わり、
死と生を取り戻す(+次世代を育てる)旅に出る話だ。
(そして、共同体を破壊したシステムに復讐を臨む。)


以上を踏まえて今回は久々に続きを読んでみて、
考えたことを書きちらしておきたい。
以下は文章の纏りを保証しない。

…なんやかんやあって(正直に言うと読み飛ばした)、
フリーレンがまた強い魔族と戦うというところから、
その魔族の要素として「罪悪感を知らない」が出た。

ここが今回の関心ポイントで書きたいこと。
魔族という人外のものの定義を「罪の有無」とした。
これが非常に興味深いし、やっぱりセンスがいいと思った。

これは、魔族が非人間的な言動ができる(する)ワケを
一言で表すもので、人間と動物の認知的境界を意味する。
この価値感は、どうしても西洋の原罪を思い起こさせる。

「原罪」とは、キリスト教的価値観の中での人の性であり、
人は生まれながらにしてその業を背負っているとする。

その罪の内実をなんとするかは宗派によって異なるが、
物語の上の事実は、禁断の果実を食べたことである。
そしてその実は「善悪を知る知恵」の木の実だ。

これを踏まえると、本作の設定は実にキリスト教的だ。
あるいはそもそも元ネタとして下に敷いているか。
どちらにせよ、聖書の意味深さを再認識した。

さて、今後の葬送のフリーレンがどう展開して、
魔族(システム的人間≒ビジネスマン)を処理するか。

それは今後のお楽しみにとっておくことにして、
人間の原罪とその処理について少し考えを広げる。

そもそも、なぜ原罪などという思想が生まれたのか。
…というところに踏み込むと書き切る自信がないので、
原罪と言う思想と、子孫を産むことの違和感を考える。

人が生まれながらに罪をもち、
その結果として苦しむとするのなら、
なぜ子孫を残すことを否定する戒律がないのか。

プラグマティックに考えれば、
それは生き物としてあたりまえだし、
キリスト教的には教祖の死の扱いも関係する。

が結論として、それは原罪と性愛の関係性にあると思う。
それは、原因と結果の関係性。つまり因果である。

アダムとイヴは、善悪の知識のきのみを食し、
神のみぞ知る善悪の判断と、「その対象の知識」を得た。
そして、罪と知りながらも「性愛」を犯したのである。
(今回はなぜ性愛が罪と解釈されるかは言及しない)

その結果として、アダムとイヴは恥じらいを覚え、
また罪を侵したところであるお互いの恥部を隠した。

人間は、この要素のため不完全な(死ぬ)存在であり、
またその報いとして労働と出産(支配)の苦しみを受け、
なおかつその罪(性愛)の結果として子孫を産むのである。

要するに、以下が聖書の物語で表される人間観である。

善悪の知識(罪悪感)を持ちながらにしてそれを侵すもの。
その罪(性愛)によって生まれ、この営みを繰り返すもの。

この解釈は、結構妥当で本質的に思える。
自惚れを承知で、久々に思考と言語化に満足した。


私がなぜこのあたりの価値観に興味をそそられるか。
それは、ここ数年で特にこの辺が揺らいでいるからだ。
そして、葬送のフリーレンはそこを突くから売れている。

私は、次の技術革新で大きく変動し、注視すべき所は、
それに伴う倫理観のパラダイムシフトであると考えている。

それはつまり、善悪の判断の基準の変化であり、
人間の非人間化、あるいは不能化の可能性と共に、
過度な人間性の称揚の危険性もあるのではと予想する。

だからどうという話ではないが、
単に興味として面白いと思う。

フリーレンの射程距離に驚いて、
今回はこんなことを考えることができた。
次は読み飛ばさずにちゃんと読んでみようと思う。










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