見出し画像

雑記日記:挽かれる豆、君に朝が降る

誕生日プレゼントにコーヒーミルを買ってもらった。ステンレスの円筒型の本体にセラミックの刃。丸洗いできる、汚れが気にならずに使えるものにしてもらった。

朝、これまでより5分早く起きる。頭が半分寝ている状態で、電気ケトルでお湯をわかす。豆を時々こぼしながらミルに入れて、ハンドルをできるだけゆっくり丁寧に回す。本体をよく押さえていなければいけないので、回す手よりも押さえる手が疲れる。右手と左手を入れ替えつつ回す。鼻孔に香りを感じて、しだいに頭が冴えてくる。急にハンドルが軽くなって、一息つく。

カラフェとドリッパーを取り出して、ペーパーフィルターをセットし、挽いた豆をどばっとあける。香りが舞う。豆をどれくらいの粗さで挽くか調節ができるらしいけれど、まだ良くわからない。違いがわかるほどの舌も持ち合わせていないだろう。しばらくはこだわらずにいこう。

映画の「かもめ食堂」で見たように、真ん中にくぼみを作ってからお湯をたらす。もこもこと表面が浮き上がって、虹色の泡が溢れ出てくる。20秒以上蒸らすべし、というのを守るため、冷蔵庫の横の壁で肩のストレッチをする。

コーヒーを初めて飲んだのはいつだっただろう。母の飲むインスタントコーヒーをもらったのだろうか。中学生のときにはドーナツチェーンのお代わり無料のコーヒーを飲んでいた記憶があるから、20年以上のお付き合いになる。

自宅でハンドドリップするようになったのは2年前からだ。やはり誕生日プレゼントでドリッパーとカラフェのセットを買ってもらったのだった。食洗機で丸洗いできるもので、毎回清潔に使えるのがいい。電動のコーヒーメーカーは何かでもらったことがあったけれど、洗えない部分への不信感があってほとんど使わずに捨ててしまった。私には全部手動のこの方法が合っているらしい。

さて、慎重にハンドドリップしよう。電気ケトルにはハンドドリップ用にチョロチョロ出る機能がついているものの、傾きの加減次第なので油断するとバシャッと出てしまう。かき混ぜるイメージでゆっくり円を描きながら注ぐ。粒がお湯の中で舞っている。湯気に乗って香りがキッチンからリビングに漂っていく。寝室までは届くはずは無いのだけど、夫が起き出す音がする。

いにしえのプロポーズの言葉に「俺に毎朝みそ汁を作ってくれ」というのがあった。世界のどこか、コーヒーを毎朝飲む地域では「俺に毎朝コーヒーを入れてくれ」という文句があったのだろうか。現代の日本では朝にみそ汁を飲むひとと、コーヒーを飲むひと、どちらが多いのだろう。両方飲むひともいるかもしれない。そんな、取り留めのないことを考えつつお湯を注ぎ終える。食パンをトースターに突っ込み、ヨーグルトを皿に出し、マグカップを取り出す。

ドリッパーから最後のほうに落ちるものは雑味がある、という説があるのは知っているが、エスディージーズを意識しているから落ち終わるのをしっかり待つ。貧乏性とも言うし、面倒くさがりとも言う。そのくせカラフェからマグカップに移すときにこぼしたりする。不器用は悪化するばかりだ。

夫がちょうどリビングに現れて、おはようございますと言い合う。そういえば朝の挨拶はいつも丁寧語だ。夫は申し訳なさそうに「おはようございます〜」と言い、私は運動部風の「ぉはーざぃやーす」と言う。席につき、トーストにはたっぷりと苺ジャムをぬる。さぁ、素敵な朝食の出来上がり。

マグカップを口元に持ち上げ、ゆっくりと香りを吸い込む。フルーティな苦味で肺を満たす。まずはひとくち。美味しい。ミルで挽くようになってから、自然と目を閉じるような、旨味を感じやすくなった。コーヒーは「だし」だ。豆の旨味を取り出した飲み物。口内に長く留まる香りを楽しみながら、しみじみとそう感じる。

じっくりと味わいたいけれども、朝の時計の進みは早い。ニュースを見ながらアレコレ意見しつつ、トーストを頬張り、ヨーグルトを流し込む。あと30分で出かけなければいけない。コーヒーも最後の数口はイッキ飲みになる。

こだわりだしたらキリがないから、グッズはこれ以上増やさないようにしようと思う。ミル、ドリッパー、カラフェ。朝が弱い私には、このメンバーで十分だ。もし人生に時間的余裕ができて、そのときまでこのメンバーで入れ続けていたならば、コーヒーの「沼」にどっぷりと浸かるのもいいかもしれないけれど。大雑把な私には、これが限界な気もしている。


*タイトルはASIAN KUNG-FU GENERATIONの『転がる岩、君に朝が降る』から拝借しました


この記事が参加している募集

朝のルーティーン

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?