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レビュー「DAOKO×米津玄師/打上花火」


今回は、「打上花火」の感想&妄想を書いていこうと思う。

(※このレビューはあくまでも個人の感想(および妄想含む)です。)

岩井俊二監督の実写映像(テレビドラマ、映画)「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」をベースにアレンジして作られた同名のアニメ映画。
これの主題歌が「打上花火」。

どちらも観たことはないのだけれど、アニメ映画の方を調べてみると内容は酷評されている。ので、あまり内容に触れないほうがいいのかもしれない。

歌の方の感想はというと、初めて聞いても何度聞いても「切ない」。
ただただ切ない。

あの日見渡した渚を 今も思い出すんだ
砂の上に刻んだ言葉 君の後ろ姿
寄り返す波が 足元をよぎり何かを攫う
夕凪の中 日暮れだけが通り過ぎて行く

ここは女性が歌う部分なんだけど、MVを見ても後ろ姿は女性の後ろ姿。
歌詞を考えても、男性から見た女性を描いているんだと思う。

初めから、アンニュイな歌い方も音色からもハッピーエンドは予期させない。
そういう結末に向かって歩いている。
というか、そもそもタイトルが「打上花火」だから、もう消えてなくなることが前提なのだ。

「あの日見渡した渚」
「見渡す」というのは、ある程度距離があって広い視野で捉えている印象の言葉。
時間的な距離と、物理的な距離と。「君」との距離と。
遠い過去と、遠くなった君とのことを振り返っているのだろう。

「砂の上に刻んだ言葉」、「波」。
これらは形を変えて消えることが前提。
だからこれに挟まれた「君の後ろ姿」も消えることが分かっているのだろう。波がさらっていくのだ。

「夕凪」。
風力発電ができるくらい風が大きい街で、凪が訪れる。
二人の間の時が止まったように感じたのかもしれない。そこは異世界というか、異空間で特別な時空なのだろう。

パッと光って咲いた 花火を見ていた
きっとまだ 終わらない夏が
曖昧な心を 解かして繋いだ
この夜が 続いて欲しかった

冒頭の気だるい感じから一転、目覚めさせるような「パッと」「花火」「きっと」が続く。
暗闇にいきなり音と光の花火が打ち上がるのだ。
花火は普通に発音すると「はなび」なのだが、ここでは「はっなび」という感じの歌い方。
「パッ」、「ハッ」、「キッ」 ということで、
ここで少なくとも3回連続して花火が咲いている光景が見える。

「曖昧な心を解かして繋いだ」…曖昧な心を「溶かして」ではなく、「解かして」なので、曖昧な心が解かった=お互いに自分の気持ち(好きだということ)に気づいたという意味だろう。
けれど、皮肉にもこの歌の中で「愛」は「曖昧」な中にしか現れない。だから、愛じゃないんだなあ。
また、私だけかもしれないが「解ーかして」は耳だけで聞いていると、どうしても「透過して」に聞こえてしまう。
「透過して繋がる」だとしたら、どんなに繋がったと思っていても永遠に交われない気がして、だから余計に切ない。

「この夜が続いてほしかった」…花火が散ることも、夜はいつか明けることも、君との関係が終わることも全部わかっている。だけど(だからこそ)続いてほしかった。

「あと何度君と同じ花火を見られるかな」って
笑う顔に何ができるだろうか
傷つくこと 喜ぶこと 繰り返す波と情動
焦燥 最終列車の音

これも切ない。
「「あと何度君と同じ花火を見られるかな」って笑う顔」…曲の中で笑っている場面は唯一このセリフを言うとき。自虐的な作り笑顔だろう。悲しい。

「傷つくこと」〜大分長い間、韻が(O)の音で終わるので、思いの長さも表れている。

何度でも 言葉にして君を呼ぶよ
波間を選び もう一度
もう二度と悲しまずに済むように

「何度」、「もう一度」、「もう二度」、この言葉遊びのようなフレーズが何度も出てくるくらい、思いが凝縮されている。
もう一度、のあとに「どーどー」が続く。堂々巡りみたいだ。
また「波間を選び」というところに米津さんのセンスが光っている。
波と波の間。穏やかで波が立ってないときのほんの隙間。
彼の時間の見え方、風景の見え方や捉え方がここでも独特というか、詩的で異彩を放っている。

はっと息を飲めば 消えちゃいそうな光が
きっとまだ 胸に住んでいた
手を伸ばせば触れた あったかい未来は
ひそかに二人を見ていた

「消えちゃいそうな」というところが子供っぽい表現であるのに対し、
「あったかい未来はひそかに二人を見ていた」というのが、客観的で少し大人っぽい表現なので、心と体の成長と、その反面のギャップのしんどさも感じる。

パッと花火が
夜に咲いた
夜に咲いて
静かに消えた
離さないで
もう少しだけ
もう少しだけ
このままで

追いかけっこのように、掛け合って、かけ違っていたボタンがやっと「このままで」で一緒になれる。

でも最後は「続いてほしかった」
やっぱり、続かなかった。
だけど、それは一夏の思い出。
また、夏が来る。
君とのことを思い出す。
そして、波が攫っていく。



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