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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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2022年5月の記事一覧

百物語3「後部座席の影」

百物語3「後部座席の影」

父の会社が倒産すると、父はすぐに神奈川県Y市にある建設会社の面接を受けて、そこで働くことになった。当時、福島県K市に住んでいた僕たちは家族全員で父が就職した会社がある神奈川県Y市に引っ越すことになった。

そのとき僕は群馬県I市にある大学に在学中だったが、大学にはほとんど行かずに1年留年を2回繰り返しており、既に大学を卒業する気はなかった。これ幸いと大学を中退した僕は、父から借りていた車に乗って神

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百物語2「秋田の畦道」

百物語2「秋田の畦道」

秋田に住んでいた時の話です。僕は小学校の6年生でした。

その日は学校の帰りに時間を忘れるほど夢中になって遊んで、家に帰る時にはあたりが薄暗くなっていました。僕は、子どもの頃から怖い話が好きでしたが、反面、人一倍怖がりでした。

小学校から家までは歩いて15分ぐらいでした。自宅近くまでは、わりと賑やかなところを歩くので怖くはないのですが、当時、自宅の周りには、田んぼが広がっていて、田んぼですから街

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百物語1「山」

百物語1「山」

10年ほど前のことだ。

その日、僕は、奥秩父神流川まで釣りに出かけた。

秩父から長野の北相木村を結ぶ林道沿いにあるU村から少し上流に入ったUダムのさらに奥に入った神流川源流近くで半日釣りをしたが、小さな岩魚2匹しか釣れなかった。気がつくと周囲は薄暗くなっていたので、慌てて帰路につく準備を始めた。釣り竿をたたみ、渓流釣りのためのウェーダー(胴付き長靴)を脱いで、車の中に仕舞ってから周囲を見回すと

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