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コンタクトを作りに行って、専門家の仕事について考えたお話。

数年前、いつも使ってるコンタクト屋でコンタクトを作った。クーポン誌の裏表紙にデカデカと広告を載せている、中心街にある大きなところだ。余談だが私は今も使い捨てでなく常用コンタクトを使っている。2年に一度は必ずここに来るのだ。

スタッフたちは、レジの人も視力を測る係の人も、みんな若くてきれいで笑顔でとってもテキパキしていた。「こちらにどうぞー」「視力測りまーす」「眼圧測りまーす」。ただ言われるがままにしていたら、ベルトコンベアで運ばれる部品のように、流れるように手順が進んでいく。安心して身を任せていた。

一人の女性スタッフに「今のコンタクトの調子はどうですか?」と聞かれ、「ときどき右目に痛みがあります。髪の毛がときどき当たってるのかもしれません」と答えたら、「髪のせいですかね?まあテストレンズはめまーす」といった感じでそのまま進んだ。

そのテストレンズで検査をして、最後の医師の診察に進んだ。コンタクトを作るときは必ず医師の診察がいるのだ。

「こ、こちらにどうぞ」。診察室のドアを開けると、今回のその先生は髪の毛はボサボサで白衣はなんだか崩れてて、話し方も吃ってた。態度が何やらわたわたキョドキョドしてぎこちなかった。先程のテキパキとしたスタッフ達との落差が際立ち、やや心配になった。スタッフにも「じゃ先生、お願いしますねー」と言葉を投げかけられていて、言葉では「先生」と言ってるものの、なんだか子供に話すような口調で慇懃無礼で、「モタモタしないでください」という言外の意味を感じた。

先生に「目の調子はどうですか」と聞かれ、「髪の毛が入るのか、右目が時々痛い時があります」とスタッフに言ったことと同じことを答えた。先生は「えっ、それスタッフに言った?」とすごく驚いた。

「言いました」「でも、もうテストコンタクトつけてるよね?」「はい」。
なにやら不穏な空気になり、コンタクトの上からすばやく、でも入念に目を見た後、スタッフを呼び出してコンタクトを外させ、もう一回診てくれた。

まぶたを裏返してよくよく診た後、「表面には傷がないが、今までのコンタクトの使用が長いので、劣化して角膜にうんたらかんたらほにゃららかもしれません。ここでは適切な機械がなくて簡単な検査しか出来ないので、新しいレンズで様子を見てまだ痛むなら、他の眼科に病院にかかって下さい」と、やっぱり吃りながら、しかし論理的にキッパリと言われた。そして私は、ああ、これが知識で仕事してる人の姿だと、思ったのであった。

「堂々としている感じ」「愛想がいい様子」「テキパキした動き」は、接客業のスキルであって、専門的な知識や技術ではない。テキパキしているからと言って、専門的な判断が正しいとは限らない。知識や技術で勝負している専門家には仮にそれらがなくとも、判断は信頼性が高い。中身は表に現れるものでまったく無関係ではないのだが、印象と実力は異なるものなのだ。混同してはいけない。

ちなみにその後目の調子は良く、結果的に眼科にはお世話にならずに済んでいる。しかし、リスクを考慮に入れた先生の判断は正しい。

愛想や印象など表面だけではなく、その人の話す言葉と責任感をきちんと見て、その人を信頼できるか判断しようと、思ったのであった。

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