『金曜日の本』吉田篤弘の書き下ろしエッセイ集。宝探しのように、本を選ぶ愉しみをつづった1冊。小説も掲載
仕事が終わった。今日は金曜日。午後六時である。明日あさっては休みで、特にこれといって用事もない。つまり、今夜から日曜の夜まで、心おきなく本が読める。
なんてわくわくする状況でしょう。
あとがきの冒頭から持ってきました。
土日休みの読書好きは、共感できるのでは。
思えば、図書館に通っていたのも金曜日だった。放課後だった。「放課後」とはまた、なんと素晴らしい響きだろう。久しく放課後というものを忘れていた。いまがそのときだ。放課後である。自由である。さぁ何を読もう。
いえーい!金曜日は大人の放課後クラブの始まりね。
今回は、作家の吉田篤弘さん書き下ろしエッセイ『金曜日の本』をご紹介します。どんな方か知らないまま読んだけど、引き込まれたよ。
金曜日は大人の放課後の始まりだ!
エッセイでは、著者の吉田さんが中学生に上がるくらいまでの間にあった、本との出合いがつづられています。
子どもの頃って、大人になったいま振り返ると、とても狭い世界で生きていたじゃないですか。
エッセイの中で吉田さんも語られているんだけど、登場人物なんて、両親と学校の友達くらいなもん。行動範囲だって、ほとんど学区内。いまは、SNSがあるから、ちょっと違うかもしれませんが。
そんな小さな世界の中では、本は、自分の知らない世界に連れて行ってくれる特別な存在になり得た。当時の記憶とともに、印象深く残っている本を紹介してくれているのが、この『金曜日の本』です。
選書ってむずかしい、人におすすめするのも難しい
とはいえ、このエッセイは、取り上げた本の内容を紹介したり、感想をつづったりといったものではありません。それは、吉田さんなりの選書哲学があるから。
この本は読書案内ではない。その本を読んでどう思ったかという具体的な感想はあえて書かなかった。本は読むことももちろん大事だけれど、その前に、自分ひとりで選ぶことが重要だった。
そうそう、それなのよね。
「映画化決定!」とか、「SNSで話題!」とか、たぶん、心にずきゅんとくるものは、そういう作品の中からは見つけにくくて。
なんとなく立ち寄った本屋で、タイトルになぜが目が奪われたとか、表紙に見とれてしまったとか。そこに運命の出会いがあったりする。
それって、自分の悩みとか、そのときの心にリンクするものが目に留まりがちだからだと思うのよね。だから、人が絶賛してたとしても、その人は自分じゃないし、読んでみても、「ん?」ってなることも多い。とくに純文学とかは顕著。
そういえば、テレビ番組の『アメトーーク!読書芸人回』でも、「おすすめの本を聞かれると困る」的なことを、「読書好きあるある」として紹介してたな。わかりすぎる。
なんて言って、毎日おすすめ本を紹介しているの、矛盾してません?と言われそうですが、匿名同士なら、その本を手に取ったときの悩みや、闇をオープンに見せられるので、ぜったい届く人がいるはず!と思ってやってます。
昭和生まれの作家さんの子ども時代ということで、エッセイには、昭和生まれには懐かしいワードがたくさん。緑のおばさん、脚気(かっけ)の検査、ビートルズ、土曜日の学校、ザリガニ釣り……。
ビビッと来た方、何それ?な方、どちらも楽しめる、おすすめの1冊です。同時収録の『窮鼠、夜を往く』という小説も、ファンタジーで引き込まれます。
■次はコレ!この本が好きなら、これも好きなはずシリーズ
・『ひとり暮らし』谷川俊太郎――穏やかな日常をとらえ、淡々と語られるエッセイ集。詩のような言葉の数々がつまった1冊
・『わたしの容れもの』角田光代――アラフィフ作家が、歳とともに身体に起きた異変を受け入れて、面白おかしく見つめるエッセイ集
・『旅のつばくろ』沢木耕太郎――JR東日本の車内誌で連載されていた紀行エッセイ。家にいながら旅情を感じられる1冊
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