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秋だからやってみた 第1008話・10.29

「せっかくの秋だし何かやってみよう」ここで目の前にある柿を食べながら、空を眺める。雲ひとつない秋空をぼんやりと眺めたが、途端に強力な刺激が口の中に広がり、目が開けられない。顔がしわくちゃになった。「う!」すぐに水を飲んで口の中の柿を飲み込む。
「うわあ、これ渋柿だ」まだ口の中に残っている嫌な渋み。もう一度水を飲んでどうにか渋みを洗い流した。

 あまり深く考えずに、衝動的に柿を買ったのが失敗だったようだ。
「もしかしたら渋柿って書いてあったのかもな」目の前の柿を見る。その姿を見ただけで口の中から渋みが沸き起こってきた。せっかくの秋の青空を見て何かをやってみようと思っていたのに途端に台無しだ。

「このままじゃ食えないし、さて渋柿の渋みを抜くにはどうしたらいいだっけ」さっそく調べてみるとすぐに出てきた。
「なになに、焼酎を使う方法があるのか、うむ」元々焼酎が好きなので、焼酎を常備している者にはありがたい。さらに渋みの抜き方を見ると、「焼酎を柿のヘタの部分を数秒漬けて、ポリ袋で空気を抜いて輪ゴムで封印しておくと2週間で抜けるのか」書いてあった説明をじっくりと見る。

「やってみよう」立ち上がると、さっそく焼酎を探しに行った。「焼酎は何でもいいのかな」と、思ったが、芋やら麦の焼酎では変な味が付きそうだから、あまり味や臭いを感じない甲類焼酎を探す。
 だが焼酎は芋とそばと米しかない。あとはホワイトリカーだ。「ホワイトリカーか、焼酎に近いと思うからやってみようかな」と思ったが、ここで別のことが思い浮かんだ。

「まてよ、どうせならこの柿をホワイトリカーに入れて熟成させて柿酒にしよう。うん、その方がいい。柿はまた甘柿を買ってくればいいんだから」
 ということで、予定変更。柿酒を作ることにした。「ちょうど梅酒を飲み終えたんだな」幸いにも空の保存容器がある。もちろん消毒済みだ。さっそくその中に、渋柿を入れる。もちろんヘタを取り皮が取られているもの。本当は今頃口の中に入っているはずの渋柿を容器に入れた。「これだけじゃ足りない」と、まだ皮をむいていない渋柿をすべてヘタを取り皮をむ入れ放り込んだ。

「渋いから甘味を入れよう」ということで砂糖が無いかと探すと、氷砂糖があった。これを適量入れる。そのあとホワイトリカーを容器になみなみと注ぐ。ちょうど容器一杯の量であった。「まるで測ったかのようだな」こうして柿酒を日光の当たらないところに保存する。
「来年の楽しみだ」どうせなら長期熟成した方が良いと思ったので、1年間放置することにした。

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 あれから1年が経過。でも1年前と変わらない雰囲気で天気まで同じだ。柿酒を作ってることをすっかり忘れていて、ぼんやりと外を眺めている。そして目の前にはやはり柿があった。
「せっかくの秋だし何かやってみよう」とつぶやき柿を口に含む。だがここからが昨年と違う。「甘くておいしい」そう今年は甘柿を買っていた。だからそのままぼんやりと過ごす。また柿を食べる。もちろん甘い。

「あれ、柿で去年?」柿を食べてしばらくしてから少しずつ昨年の記憶がよみがえってきた。「そうそう、渋い柿だったんだ。あ、そうだ酒、柿酒だ」ようやく思い出して、部屋の奥の薄暗いところに行く。手前には普段飲むための焼酎が置いてある。今置いているのは麦焼酎と芋焼酎、それから奄美地方で作られている黒糖焼酎が見えた。

「えっと、たしか、あ、あったよ」奥から取り出した柿酒。ここで去年の記憶を完全に思い出した。「そうそう、渋柿の渋みを抜こうと思っていたら焼酎を使う方法があって、でもホワイトリカーしかなかったから、結局酒にしたんだったな」

  昨年入れたときにはホワイトリカーの透明な液体の中にヘタが取られ、皮が向かれていた柿のオレンジ色した姿がはっきりと見えたが、すでに熟成しているのか色がウイスキーを思わせるような琥珀っぽい色になっている。また中には固形物としての柿はあるようだが、やはり長期間付けているためか柔らかくなっているようにも見えた。

 さっそくふたを開ける。するとほのかな柿の香りが鼻を通じて伝わってきた。「よし飲もうぜ」こうしてグラスに注いで飲んでみる。
「うまい!」さすがに渋みも抜けていて柿の甘味が凝縮されたお酒の味は、普段飲む焼酎とは違う。「黒糖焼酎も甘さを感じるがこっちのほうがいいなあ」

 柿酒を飲みながら昨年の秋にやってみたことが成功したことを喜ぶ。「では、今年の秋は何をやってみようかな」ここで考えたが、いまいち名案が思い浮かばない。目の前の柿酒を見る。「これ美味しいから今年も作っちゃえ」と思った。だが目の前にあるのは甘柿。「もったいないな。ということは」

 決断すると行動が早い。今からスーパーに行き渋柿を探すことにした。「ついでにホワイトリカー、えっと氷砂糖も買っておこう」とつぶやき、結局今年の秋も去年の秋と同じことをやってみることにした。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1008/1000

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