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あとひといき 第817話・4.20

「こ、これか!この謎解きが解ければ元に戻れるはずだ」ウサギは1年前に起こった悲劇を思い出しながら心の中でつぶやいた。
 ウサギは元人間である。ちょうど1年前まではごく普通の人間としてごく普通の生活を送っていた。金持ちでもなければ貧乏でもない。ものすごくついていることもないが、不幸ではなかったはずである。

 だが1年前に突然襲った大きな不幸。朝起きたときに、なぜか?ウサギになっていたからだ。「こ、これは...…」その日を境に今まで普通にできたこと、2本足で立ち上がろうにも立ち上がれない。仕方なく、4本足であるくしかない。いつの間にか服を着ていない裸の状態。代わりに白い毛が全身を覆っていた。声に出して言いたいことを叫んでも言語化せず、鳴き声のようなものしか出ない。しばらく混乱していたが、ようやく落ち着き冷静に周りを見ると、ベッドではない小屋のようなところで寝かされていた。

「な、な、なんで?こんな!ウサギになっているって夢なのか?」心の中では今まで通り人間同様。知能も退化していない。「夢」と信じたかったがそれは違った。まさしく現実に起きているリアルな世界。だからいきなり不自由なウサギとして生きざるを得なくなった時の不幸は半端なものではなかった。

 ウサギになって数日たってわかったこと。今の立場は誰かに飼われているようだ。巨人のように見える数倍もの大きな人が餌を持ってくる。手を使いたくても手が使えないから口を餌の方にもっていくしかない。それは今まで食べたことのないようなもの。最初は食べることを躊躇した。だがほかに食べるものがない。どんどん襲ってくる空腹感の前に、思わずチャレンジした。それを食べてたとき、非常においしく感じたのだ。やがて空腹を満たせてくれ一息つく。気が付けば睡魔が襲う。それの繰り返し。

「わからないけど、もう人間ではなくなったのか。ウサギとして残りの生涯を歩むしかない。ああ、人間の時にやり残していたことが、どんどん頭に浮かんでくる」ウサギは、巨人にしか見えない人間がいないときに、ひたすら涙を流した。


 ウサギとして生きるようになって半年ほどたったある日の事、ウサギはいつものように餌を食べた後、眠っていたが、突然夢の中からにエコーがかかったある声が聞こえた。
「お前は呪われてウサギになったものだな」「だ、だれ?」ウサギは夢の中でつぶやく。夢の中では人間として言語がしゃべられる。だが声の主は姿がわからないまま。
「名乗るものではない。お前は不幸にも呪われてしまい、ウサギになってしまった」
「何も悪いことしていないのに...…」ウサギは現状を嘆く。「ある意味不幸であったな。お前には何の罪もないのに偶発的に呪いを受けるとは、そこでお前を人間に戻すために知恵を貸してやるために来た」「人間に戻れる!それはぜひ!」ウサギは夢の中で心が躍る。「ああ、だがすぐには戻れない。明日からいくつかのミッションを出す。それがクリアできれば、少しずつ人間に戻れる」

「ミッション?」「そうだ、明日から夢にてミッションを用意しよう。では」
 声は聞こえなくなり。うさぎは目覚める。「いったい何だったんだ?」ウサギは不思議な夢を見たと思ったが、人間に戻りたいという願望が見せてくれたのだろうと、気に留めないでいた。

 だが、次の日眠るとまた夢に現れるエコーの声。「今からミッションを伝える。まず今いるところから脱出せよ。その地点から100メートルほど遠くまで逃げられたらお前は二足で歩けるだろう」
 ウサギは目覚めた。「逃げたら二足で歩ける?」ウサギはまた変な夢を見たものだと気にしない。だがその日以降毎日のように同じ夢を見るのだ。

「夢は本当なのかもしれない」初めて夢からのエコーの声が聞こえてから、1週間が経過。ここでウサギはついに意を決した。「脱出しよう」
 このままウサギとしての生涯を終える方が安全かもしれない。最近はこの生活にも慣れた。何もしなくても餌が与えられ、起きることと眠ることだけで過ごせる。だがもともと人間だった。「人間は頭を使いすぎて大変なのはわかっている。だけどやっぱり人間の社会に戻りたい」

 こうしてウサギは、深夜に脱出を試みた。これは普通のウサギであれば到底不可能にできているウサギの巣箱。だが人間時代と同じ脳を有しているこのウサギにとっては、さほど困難なものではなかった。こうしてうまく巣から脱出し、たまたま開いていた窓の隙間から外に逃げることに成功した。

 四足で駆けるウサギ。久しぶりに出た外の世界は新鮮で刺激的だ。だがそれがウサギへのストレスと疲労につながる。「ね、眠い。どこかで隠れていったん眠ろう」
 ウサギは茂みのようなところを見つけると、そこに隠れて眠った。

「ミッションを無事にクリアーしたな。お前は次目覚めれば、二足で歩けるぞ。そして次のミッションだが」
 エコーからの声をぼんやりと聞く夢の中のウサギ。目覚めたときに試してみる。「た、立てた!」ウサギはついに二足歩行ができるようになった。

ーーーーーー

 以降毎晩ミッションが与えられ、それをクリアしていくウサギ。あるときに言葉がしゃべられるようになり、またあるときには目が覚めると、服を着ている。このようにウサギは少しずつ人間に近づいて行った。

 そして昨夜、ちょうどウサギになって1年が経過したこの日。「今日が最後のミッションであるぞ。この先に廃屋があり、そのもっとも奥に羅針盤がついたドア。そのドアを開ければ、お前は人間に戻れる。それを開けるにはいくつかの謎を解く必要があるが、まあお前ならできるだろう。健闘を祈る」

「これだ!」ウサギは最後のミッションの謎が解けた。そしていよいよそのミッションを解くために、羅針盤の描かれたドアの前に立つ。「これで人間に戻れる。戻れたら、しっかりと人生を生きよう」
 ウサギの気持ちは希望に満ち溢れているのだった。


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