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眠れない夜に 第1078話・1.14

「ちょっと遠いかな。でもまだ時間があるし、行ってみよう」漠然とそう思って歩いていたら、いつのまにか森の中を歩いている。何でここを歩いているのかよくわからない。気がついたらいたというべきか、何かに導かれるように来てしまったようだ。
「この先に何があるのだろう。幸いにも登山道かハイキング道らしく、歩くのは困難ではない。とはいえ一体どこに向かって歩いているのだろう。わからないのに不安が無い。全然怖くないのだ。

 さてどのくらい歩いたのか、突然視界が開けた。そこは大きく広がっている。ただ山の中のようで、周りには空の他には山しか見えない。

「なんだろう、お寺かな」開けた場所を歩くとある寺院のようだ。和風建築のいかにもの寺院。さて中に誰かがいるのだろうか?「開いているぞ」と言って門の中に入った。
「誰かいるのかな?」覗いてみたが人気がしない。不思議である。別の方を見た。何かホースのようなものが張り巡らされている。「あ、手伝ってくれ」ここで声がした。
 声の方を振り向くとひとりの男性がいる。その人は初めて見るはずなのに、なぜだかすでに知っているような気がするのだ。「早く、そこ、そこ」男性に言われ、何かをしようとする。どうやらホースの接続をするらしく、なぜだかわからないが既に理解していた。だから何事もなく手に取ってホース同士をつなぐ。すると簡単にホース同士がつながった。何かねじ穴のようになっていて回しただけだが。

「よし、これで隣の建物から線が引けた。良しうまくいったぞ」男性はそう言って満足顔。「これは何のためにするもの?」ここで根本的な疑問が浮かんだのでその人に聞こうとすると、すでにその人はもういない。
「今の人はだれだったのだろう」ちょうど建物の縁側があったのでそこに腰掛ける。無意識に手伝ったホースは、しっかりとつながっているようだ。

「誰かいるのかな」後ろで物音がする。気になったので靴を脱いで奥に行ってみた。するとスキンヘッドに和服を着た和尚らしき人と今度は50歳代くらいの夫人がいる。突然ふたりと目が合うと、「あ、こっち、こっち」と夫人が言う。そのまま和尚たちが後ろに向いて歩いていた方向、建物の奥に向かって歩きだす。こっちというのだから案内してくれるのだろう。黙ってついていく。

 ある部屋に来た。寺院らしい和風建築の建物で畳がある。濃い茶色色をした家具があり、相当年季が入っているようだ。さらに床は畳になっていた。だが、その周りに置いているものを見ると違和感がある。なぜかそこにあるのは、大きなクリスマスツリーだ。それも10本ほど置いてあった。
「これを置いて帰りますから」突然聞こえたのは和尚の声である。和尚はそれだけ言うと立ち上がって帰って行った。
「いったい何?何のこと」わからない。けどこれには意味があるような気がした。寺とクリスマスツリー違和感あるこのふたつだが、これはここにあるべきもの。どうやらよそで使ったものだったもので、用事が終わって戻してきたもののようだ。誰にも聞いていないのに、頭の中がそう認識している。

 和尚は去り、夫人もいつの間にか立ち去っていた。まったく意味がわからない状況なのに不思議とそれがおかしく感じない。まるで記憶が部分で気に抜け落ちている。
「まさか」一瞬焦ったこれって高齢者にありがちなことだと思った。若年性の物もあると聞いたことがある。だが、次にまた記憶がよみがえった。
「今は旅の最中だったんだ」そう思い直すと、そのまま先ほどの縁側に出る。ちゃんと靴があるし、そこからの道のりも覚えていた。記憶があいまいなようで、しっかりとした足取りで歩くと、いつのまにかまた森の中を歩いているのだ。
「で、いったいあそこには?」と思って振り返ってももう森の中。いったい何を見たのだろう。夢?いや一睡もしていないはず。だったら幻でこの森には魔力的な何かがるのか?などと想像していたら、いつの間にか森がなくなっているではないか。

「あ、町中だ」いよいよ頭が混乱したが、気持ちを落ち着けようと時計を見る。森に入る前に見たのはちょうどお昼過ぎだから、大体2時間近く経過していた。
「いったい今までの出来事は、記憶がとぎれとぎれだが」頭をひねる。ひねっても意味がわからないのだ。だけども夢ではない。夢ではないが夢ではない証拠もなかった。ますます頭が混乱する。
「あれ、この近くに林も森もなかったのに」今歩いているのは馴染みの町中だ。いよいよ一体どういうことなのかよくわからない。
「しばらく様子を見ておかしかったら病院に行こう」そう思い直して家に帰った。


 あれから10日が経過している。しかしあの時以外に、あのような不思議な出来事、断片的にある記憶の良く分からないことなど起きなかった。別に夢にも出てこないから、結局何だったのかわからないままである。


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