見出し画像

塩だけで作る 第718話・1.11

 目の前には封を切っていない塩がある。時刻はちょうど朝7時。目覚めたばかりなのに、なぜかおなかから何かが鳴くような音がした。そういえば、昨日は飲んだからあまり食事をせずに寝ていた。さて今から食事をしようと持ってきたときに手元にあるのが塩。実は先月手に入れた高い塩である。入手方法はここでは言わない。ただこの塩は特別な塩で、市販の塩と比べるとはるかに高いのだ。パッケージを見ると最高級の天然塩とのこと。さらに海洋深層水を浴びたミネラルたっぷりの塩だって書いてある。

 そんなことだから、手に入れてもその塩は使うのがもったいないと思ってしばらく使わなかった。ところが昨日、いつも使う塩がもうすぐ切れそうになってしまう。ここでいつも使っているごく普通の塩を買いに行こうと思ったが、昨夜ふと先月手に入れた高級塩の存在が頭に浮かんだ。
 だから今日はその塩を始めて使ってみることに決める。でも高級な塩だから、まずはその塩本来の風味を味わいたいと思った。まずは塩を舐めてみようかと考えてみる。でも小皿に塩を入れて、それを指につけて舐めるというのは、想像しただけでどうも下品な気がしてやろうという気にはなれない。だったら塩と何かの食べ物を合わせて、今から食べようとなった。

 最初に思いついたのはは茹で卵だ。茹で卵は塩をかけて食べるから、これがいいと、早速冷蔵庫から取り出した卵。こちらを茹でてみた。ちなみに卵はどこにでもある白いもの。殻が茶色く色付いた高そうな卵があれば、もっとよかったが、ないものは仕方がない。それから同時にご飯も炊く。そう、ご飯も塩の味を確かめるのに最高のアイテム。

 さて先にできたのは茹でたまご。出来立てはもちろん熱いから冷水にさらしてから殻を剥く。殻付きの卵に衝撃を与え、ひびを入れてからその裂け目を開けるようにしてに剥いていく。最初は問題ないけれど、でも徐々に熱さが指に伝わって一苦労だ。耳たぶで熱くなった指を冷ましながら、再び続ける皮むき作業。

 やけど覚悟のうえでどうにか最後まで剥けた茹で卵を見て、達成感が沸き起こる。今日は薄皮が邪魔をしたり、白身が取れたりせず、パーフェクトで剥けてくれた。それだけでうれしい気持ちがする。剥かれた卵から白い湯気が沸き上がった。それを満足そうに見て、早速小皿に入れておいた高級天然塩の上に持ってくる。

 その塩だが、気のせいか少し色がついているようにも見えた。ゆで卵の先を塩につけてみたら、塩の粒がいくつも卵にピタリとくっついている。早速口をひらけて食べてみた。食べた瞬間に温かみの残る卵の温感としょっぱい味わいが同時進行で口の中に広がっていく。一度に卵半分程食べてみて、卵の断面図を見てみたら、どうやら半熟ではないが、固ゆででもない。真ん中あたりが少し湿っているようで、そこだけ色が濃くなっているようなレベルのゆで卵。その上に指で塩を少しかけると、美味しいからすぐに残りをパクリと平らげる。

 しばらくしたら炊飯器が炊きあがりの合図を出した。炊き立てのご飯がと窯を開くと、白い湯気と光り輝く白米御飯。これをそのまま茶碗に入れて食べようと最初は思った。でもそれでは芸がない。あまり塩だけでご飯を食べることもなく、大抵はおかずやみそ汁、あるいは梅干しのような漬物、それから、ふりかけをかけてみるというのもある。
 このときふと考えたのは、生卵をご飯にかけて玉子かけご飯という食べ方があることだ。いやいや違う、今日は塩の味をためすとき。

 ここでまた頭がひらめいた。それはおむすびをつくること。塩だけの白結びはコンビニでも販売しているくらいだから、食べ物として成立する。手作りでやったらもっとおいしいに違いない。だから梅干しや鮭、おかかといった、余計なものを入れず、塩だけかけたおむすびを作ってみよう。

 ご飯はどう見ても熱い。だからゴム手袋を用意。さらにラップまで用意した。ご飯をしゃもじで適量を丼の中に入れて、塩をかけて混ぜた。それをラップの上にのせてみる。ラップの上からまだ白い湯気が立っていた。ラップも少し白くなっている。

 本当は素手で水をつけながらしたらいいのだけど、それは火傷しそうで自信がない。卵を剥くときに苦労したくらいだからやっぱりダメ。邪道と思いつつもラップのご飯をゴム手袋で握っていく。三角結びが理想だけど、そんなの作ったことがないから、俵型の御結びを作る。

 やがて三つの俵結びが完成した。手袋を取ってさっそく食べてみる。海苔すらついていない、見た目白いご飯の塊にしか見えない俵結び。それをひとくち口に入れたら、思わず「うまい」と声に出しかけた。塩味がちょうどよく効いていてあっという間にひとつを食べ、そのままふたつ、三つ目と食べ終わる。

 こうして無事に満腹となった。でも塩の味が良かったのか、普通に茹で卵と塩結びがおいしかったのかわからないままだ。たから次はもっと本格的な料理をこの塩で作ろうと思いながら、朝の食事を終えることにした。

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 718/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#塩の日
#塩結び
#ゆで卵
#私の朝ごはん

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#私の朝ごはん

9,416件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?