釣りを語ろう 第1104話・2.11

「ま、いいか、よかったと思わないとね」と、伊豆萌があることで前向きに考えていると、「すごいね、萌ちゃん」と同性パートナーの蒲生久美子が声を出してほめてくれた。「あ、久美子さん!」萌は嬉しそうに久美子の元に行く。久美子は萌の手をつなぎ。「その考えが素敵よ萌ちゃん」という。萌は思わず久美子に体を寄せる。

「でも、何があったの?」1分後に久美子は突然萌を問いただす。「いえ、大したことでは」萌ははっきりと言わない。だが久美子は不満な表情になり、「萌ちゃんなんで、私に言ってくれないの?」と萌を睨む。萌は下にうつむく。

「そ、それが...…」萌は何か言おうとしているが歯切れが悪い。「怒らないから萌ちゃん行って」なおもしつこい久美子。ようやく萌は口を挟んだ。
「なるほどね」久美子は萌からの理由を聞いて納得した。「確かに、それは大変かも。でも良かったと思えるように努力するしかないかな」

「う、うん、でも私、釣りなんて」萌は最近赴任してきた職場の上司から来月に釣りに誘われたのだという。この上司は釣りが趣味だそうだが、職場ではだれも付き合ってもらえない。こうして最終的に萌に話が来たのだという。上司が「誰も来ない」と寂しそうな萌はついつい「初心者ですけど私でよければ」と引き受けてしまったのだ。
 確かに職場の上司と仲良くなることは悪くはない。相手は同じ女性だから変なこともない気がした。だけどそもそもろくに釣りなどやったことがないから、ひとりで行くのが不安だったのだ。
「そっか、萌ちゃん解る。うん、せっかくのお誘いだもんね」久美子はそう言いながら萌の話を聞いていたが、しばらくすると何かひらめく。「そうだ。いい考えがあるわ」久美子は何かを萌に説明すると、「さすが久美子さん、それいいです!」とすぐに萌も同意する。

ーーーーーーー
「さ、竿も貸してくれるしいいわここ」次の休日にふたりは、海釣り公園に来ていた。「そしたら萌ちゃん特訓開始ね」萌は上司との釣りを楽しむための訓練ということで釣り公園に来ている。
「久美子さん釣りは」「少しならできるわ。少しだけどね」と言って萌に釣りのやり方を特訓しはじめた。こうしてふたりは釣りを始めるが、そもそも餌を針つけることからして萌はやったことがない。だから「久美子さん、気持ち悪いです」と海釣り用の餌を見ると萌は嫌そうな表情をする。最初から嫌がってしまう。

「そんな!萌ちゃん餌を付けないと魚が釣れないわ」久美子は必死になって萌に魚のえさの付け方を教える。それでも最初は嫌がっていた萌だが、そうも言ってられないと、どうにか餌を付けるが、餌から出る臭いが手について臭くてたまらない。萌は今さらながら余計なことを言ってしまったと後悔する。

 とはいえ餌はつけたが、そう簡単に魚は釣れない。萌もだが久美子も苦戦している。「難しいんですね。釣りって」という萌に、「そうよね。慣れている人なら、ガンガン釣れるようだけど」と言いながら久美子も渋い表情で自分の竿を見つめる。

 という状況がしばらく続いたが、「あ!」ようやく久美子の竿が反応したらしく久美子が思いっきり竿を引き上げてリールを回した。
「あ、久美子さん、魚が!」横で見てうれしそうな萌の表情。久美子は得意げになり、「ほら、こうやって釣ればいいわ。簡単よ」と萌に得意げな表情を見せる。ところが、魚を手でつかむのがうまくいかない。魚は片手に収まるような小さなものだが、いざ触るとなると久美子は激しく跳ねることもあり、魚を捕まえるのに躊躇した。
「久美子さん、釣りはやったことあるって」「あるんだけど、子供の時だったんで。ちょっと、あああああ!」

 こんな感じで悪戦苦闘するふたり。それでも朝から挑戦して夕方まで頑張ったかいがあったようで、しばらくすると萌にもアタリがあって魚を釣り上げた。結局ふたり合わせて5匹の魚がつれたのだ。いずれも小物だったが、どれも食べられるというので、持って帰ることにする。

「唐揚げがいいかしら」久美子は家に戻ると魚を捌いていた。三枚おろしをするような大きさではないから鱗と内臓だけを取る。こうして高熱の油に入れて魚を揚げていく。
「おいしいです。久美子さん!」「そう、揚げただけなんだけど」と言いながらさっそく今日釣り上げた魚を食べるふたり。釣る方は苦戦したが、食べる方はおいしくいただいた。

「どう、萌ちゃん釣り出来そう」食後に久美子が萌に質問する。「うーん。なるようにしか」としか萌は言わない。
「そう、だったら来週も行く」と久美子。萌はしばらく天井に顔を向けて考えたが。
「じゃあ久美子さん。来週も」といった。こうしてふたりの新しい趣味が増えたようだ。


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