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石の価値 第711話・1.04

「今川どうしたんだ。こんなところに呼び出して」西松は同級生の今川に呼び出されたのは河原である。「おう、西松悪いな。実はここにいっぱい石があるだろう」今川が言う通り、ここはとある川の中流域。大小さまざまな石が転がっていて、片手で持てる程度のいろんな石が落ちていた。
「ああ、それがどうしたんだ」「うん、この石を見て何か思わないか?」今がはそう言って両腕を大きく伸ばした。
 だが西松は首を何度もかしげながら「こんな河原の石ころに何を感じると言うんだ。何も思わないよ」
「だから西松はダメなんだよ」今川のセリフに一瞬、感情の起伏が激しくなった西松。でもすぐに抑えると「じゃあ、今川さ、この石に何の価値があると言うんだ」

「おれは、この石をうまく加工すれば価値が出る気がするんだ」しゃがみ込み、ひとつの石を手にする今川。色は赤っぽい。それを目と同じ高さにおいて、静かに眺めている。だが西松が見ても単なる石ころにしか見えない」
「知っているか、世界で約4,500種あると言われている鉱物のほぼ半分以上が日本で取れるんだ」「へえ、それは初耳だな」「だろう、それでさ、西松、河原の石は、山の中に眠っているいろんな鉱物が川に流れてきている。だって砂金だって川から取るだろう」
「あ、ああ」西松は以前、金が採掘されていた金山に行って、砂金を取る体験をしたことがあるのを思い出す。
「だから、まずこの河原の石の中に、金とまではいかなくても、価値のある好物が紛れている可能性があるわけだ」

 今川の導き出した理論に、感心した表情になる西松。「なるほど」西松もしゃがみ込み、適当な石を手に取った。こちらは黒っぽい石である。
「だけど、今川。お前の言っていることは、なんとなくわかるんだが、俺たち素人だぜ。この石の正体とかどうやって」

「まあ、すぐには無理だろう。これから学んでいければいいだけだ」
「気の長い話だな」西松は思わずため息をつく。「だがな、西松、実はそれ以外にもうひとつ面白いことを思いついたんだ」「何?」西松は別の白っぽい石を拾う。
「おう、それでもいいやちょっとこっちに」「これか?」西松は白い石を今川に手渡した。
「この丸い石、川の流れで削れたんだろうけど、これをもっとしっかり削ったらどうなるかだ」
「削る?」「そう、例えばダイヤモンドの輝きは原石では無理」「知ってるぞ、あれはカットすることで美しさが際立つ」
「そういうことだ」今川は立ち上がった。「例えばこの石をダイヤモンドのようにカットすればどうなるか。あるいは細かく研磨して輝きが出たらどうなるかだ」

「つまり、宝石の価値が出るかもしれないと」「そう、何の変哲もないこの石がきれいに磨かれたときに、どんな輝きが見られるか気にならないか」今川は嬉しそうに語る。西松はもう一度別の石を拾う、今度の石は灰色をしていた。
「なるほど、今川、お前の発想は面白いな」西松は笑った。そして立ち上がると「でもその磨くのどうするんだ。まさかプロに依頼するのか?」「うん、そこが問題なんだ。プロに依頼したらお金がかかる。と言って俺たちが磨いても限界があるだろう。そこで西松に来てもらったんだ。何か妙案はないかなって」

 それを聞いた西松。持っていた石を全部その場に捨てるように投げると「そのために読んだのか今川」「ああ、そうだが」
「悪いが俺にはわからん。もう帰るぞ」と言ってそのまま帰る。「ちょっと待てよ西松、ひとりじゃ無理だから仲間を集めてやったら」と、今川はしつこく食い下がる。

 西松は今川を無視してしばらく黙って歩いたが立ち止った。そして今川の方に振り向くと「あの、河原の石だけど、これ持って帰らない方がいいと思う」「なんで?」
「俺、思い出したんだ、河原の石って持ち帰ると、法律上や霊的な問題があるらしいぞ、河原の所有者の問題もあるし、あと石に霊的なものが取り憑いていて災いになるかもしれないらしい。だからやめておいたほうが良いぞ」
 そういうと再び顔を前に向けて歩いて帰って行った。

 あとに残された今川も手にしていた石を投げ捨てる。そしてため息をかるつく「ダメか、いい考えだと思ったんだが」そうつぶやくとあっさりとあきらめるのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 711/1000

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