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mikan 第680話・12.3

「あ、久美子さん、最後の1個を、私、ごめんなさい」萌の目の前には半分程食べたみかんがある。夕食を終えた後に食べるみかんはこれが最後のひとつ。萌は同居しているパートナーの久美子に謝った。
「いいのよ萌ちゃん。その代わり萌ちゃんが優しい手で剥いてくれた残りのみかんをもらうわ」久美子は優しそうにつぶやくと、萌の目の前にあった残りのみかんを取り上げて食べる。
「うん、本当にこのみかん甘いわね。萌ちゃんみたい」「そんな、久美子さん!」萌は久美子の体を寄せる。ふたりはこたつの中で手をつなぐ。

「そうだ、萌ちゃん一度みかん狩りに行こうか?」しばらくして久美子が萌の耳元でつぶやく。「み、みかん狩りですか」
「そうよ、私たちみかんが好きじゃない。いつもスーパーで買っているけどあっという間に食べちゃうでしょ」「はい、」「だったらみかん狩りに行って、多くのみかんをもらった方がいいわ」優しそうにつぶやく久美子は、萌の髪をゆっくりとなでている。
「でも、私は......」「どうしたの」「そのフルーツ狩りとか苦手なんです」と戸惑った表情をした瞳を久美子にぶつけた。
「どうして、何かトラウマでもあるの?」「あ、はい」萌は小さくうなづく。

「小学生の遠足で、ブドウ狩りとかしたのですが、私うまく枝から実が取れなかったんです。それで強引に引っ張ったら、誤って指がブドウの実を持っていたらしく、指でブドウをつぶしたの」
「まあ!」「さすがにみんなに笑われたし、指はブドウの果実がついて、汚れたんです。あれからもう、フルーツ狩りとかは......」
 そういって、顔をうつぶせにする萌。「そうか、そういうことならいいわ。みかん狩りはやめましょうね」と久美子はうなづくいた。

「それだったら、もう刈られた後のみかんを大量に買おうかしら。例えばみかんの産地に行くとか」「え? 産地にですか!」
「そうよ、多分みかんの産地に行けば、安くみかんを売っているはず。車で出かければ、段ボール単位で買えるんじゃないかしら」
「ええ、それ久美子さん、素敵です。段ボールいっぱいのみかんがあれば、さっきみたいに、ひとつのみかんの取り合いにはならないわ。どんどん食べられます」
 萌は顔を上げて一瞬笑顔になるが、また表情が硬くなった。「でも」「うん、今度はどうしたの?」
「みかんの産地って愛媛とか和歌山ですよね。そこまで車で行くんですか?」

「え、そうね。まあ行ってもいいけど、東京から愛媛だと、ちょっと日帰りはきついわね。和歌山でぎりぎりどうか。もっと近く、関東とか周辺の近場でみかんの産地とかないのかしら?」
 久美子はスマホを取り出すと、調べだす。しばらくすると突然大声を出す。「ほら、萌ちゃん。見てこれ」萌は久美子のスマホを眺めた。

【2020年産】都道府県別・みかんの生産量ランキング
順位 都道府県 収穫量(t) 割合
1位 和歌山 167,100 21.8%
2位 静岡 119,800 15.6%
3位 愛媛 112,500 14.7%
4位 熊本 82,500 10.8%
5位 長崎 47,600 6.2%

「え、2位が静岡!」萌の声が裏返る。
「愛媛より多いなんてね。静岡なら近いわ。決まったわね。静岡までみかんを買いに行きましょう」久美子はそこまで言うと、不思議そうな表情に。「でも萌ちゃんて、静岡の生まれじゃなかったかしら、何で知らなかったの?」
「私は、富士山の近くだから、みかんの印象があまりなかったかしら。でも今見たら、みかんの名産地はどちらかといえば、浜松のあたりです。」
「は、浜松か、静岡でも一番西よりね。早朝に出発すれば日帰りできるかしら」「はい、大丈夫です。じゃあ、久美子さん早速明日行きましょう」
「え、明日?」突然、萌に言われて慌てる久美子。「え、明日の予定って」慌ててスケジュールを確認する。
「そうね、確かに明日は開いているわ。え、でも萌ちゃん急ね」「私は、早く行きたいです。久美子さん、みかん買いに行きましょうよ」
 萌はおねだりをするように体を久美子に寄せてくる。慌てながらも萌が目の前で息遣いが間近に聞こえると、思わずうれしさのあまり口元が緩む久美子。
「萌ちゃんわかったわ。明日浜松にみかん買いにに行きましょ。じゃあ明日は早起きだから今日はもう寝ましょうね」「はい、久美子さん」
 こうしてふたりは、同時にこたつから立ち上がると、手をつないでベッドに向かうのだった。

 

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シリーズ 日々掌編短編小説 680/1000

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