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新しいお月見をしながら考える世界の美味しい月

※単独作品ですが こちら の続きとしても楽しめます。

「真理恵、見ろ!きれいな夜空だ」 
 私は彼・一郎と共に1泊2日で、山の中のキャンプに来ていた。電波が届かないネットの環境の無いこの場所。でも日々の農作業のの疲れがたまったのが、ご飯を食べたらすぐに眠くなって、予定していた天体観測せずにそのまま眠ったの。
 結局悪夢にうなされて夜中に起きたけど、目が冴えてどうしようかというときに、彼は今からバンガローの外に出てみようって。今は深夜3時。真夜中の天体観測なんて初めて。

 私は少し遅れてバンガローの外に出たわ、やっぱり夜中は暑く無くてときおり吹く風が顔に当たったら涼しいのよ。そしたら彼の言う通り。雲ひとつない夜空。普段住んでいるところも都会から離れた郊外の農園だからそれなりに見えるけど、やっぱり山の中は違う。
 普段見えないような小さな星って本当に煙が漂っているように見える。

「これが本当の銀河なのね」
 私は星空を眺めながら、あまりの美しさに吸い込まれそうな気になる。
「うん、昔の人が夜空に流れる光の川って思ったんだね。本当はそのまま科学的なことを知らない方が、楽しいような気がする」

「それ一郎らしくないね」私のさりげない反論に彼は動じない。
「そうかな、研究や科学のことと、こうやって自然の美しい姿を五感で味わうのとでは別だと思うけどな」

 私はこのとき、ふと空に不思議な違和感があることに気づいたの。
「あれ?」「どうした」
「なんか夜中なのに、空が少し明るくない。キャンプ場は全部消灯しているし、周りは山しかないから真っ暗。なのに空は星があるとはいえ明るいし。私たちも夜中なのにお互いはっきり見えている。これって光害?どこに照明があるのかしら。

 彼は軽く笑うと「ハハハ!あれか」とある方向を指差したの。私はその方向を見たわ。そして思わず声を挙げかけて手を口の前に置いた。
 
 だってそこには、大きな満月が神々しく夜空に浮いていたから。
「実は今年2020年の9月2日から3日にかけての夜は満月らしいんだ」
「え!満月の夜。でわざとこの日に」彼の方に顔を向けると静かに頷いていた。

「本当は昼の14時頃が本当の満月だけど、それは見れないから。満月にほぼ近い月の夜となれば、今晩だったんだ」そう言って彼は月の方を指さす。
 月は、静かにしかし確実に私たちを照らしている。だから懐中電灯なくてもバンガローから出られんだと納得。

「ねえ、ということは今日は十五夜なの」
「違う。それは次回だから、10月の最初。つまり次の満月だよ」彼はあっさり否定した。
「月見って言ったら、普通9月のイメージがあるのに不思議ね」私は満月を眺めながら腕を組む。
「でも、中秋の名月は旧暦だからだよ」彼も満月を眺めながらつぶやいた。

「そっか、旧暦って確か太陰暦だよね」
「そう、グレゴリオ暦に当てはめるから毎年日付が変わるけど、昔の暦ならいつも8月15日が中秋の名月だ」彼の言葉に私は軽く頷いた。

「だけど今見えている9月の満月は、ハーベストムーン。確かアメリカの先住民たちがそういって農作物の収穫の時期に見える満月だって言ってたらしいんだ。あっそうか、正確かどうか確認できないんだここでは」
 彼はスマホを見ながら、検索できない現実に、ひとり残念そうにつぶやいた。

「ふーんそうなったら世界の月見が気になるわね。日本や中国が中秋の名月で、アメリカがハーベストムーン。ヨーロッパはどうなのかしらね」
私のさりげない問い。だけど彼はあまり良い表情ではないように見えた。

「西洋の満月は、東洋の月と違って、良いイメージが少ないんだ」
「え、美しいのに」「西洋では月の光を浴びると狂ってしまうという印象があるんだ」
「ええ?何で!」意外な答えに少し声が高ぶる私とは対照的に彼は冷静に答えてくれる。
「例えば吸血鬼のドラキュラは夜の月が出ているときに特に活動するし、満月の夜にある男性は返信して狼に。 ん?。あれ、なんか変だ ああ、顔がああああ!」

突然冷静だった彼の声のトーンが変わり、そして苦しそうな声を出しながら両手で顔を抑えた。
「え、どうしたの、何?」
「うううう、ダ・ダメだ。ああああ!」
 目の前の彼はもだえ苦しんでいる。顔を両手で抑えたまま首が前後に何度も動かしていた。肩を左右に動かしながら足が前後左右によろけながら動いている。あたかも何かに憑りつかれたように暴れ回っているのだ。

「ちょっと、え、まじ、え、ちょっと一郎!」
 私は、本気で焦った。こんなの今までに経験がない。え、映画を見ているの?それとも夢?? でもこれは夢でも映画でもなかった。ついでにいえば今起きている現実も実際とは。

「嘘だよん。俺が狼男なわけないじゃん」
突然彼が手を開けて、笑顔で私の目の前に。彼はただおどけて私を驚かしたの。私は一瞬心臓が止まりかけたわ。そして直後からふつふつと怒りが湧きおこる。
「ちょっとこんな冗談はやめてよ。ヒドすぎる!」そういって彼を思わずグーで2.3回殴った。

「イ・痛い!それから大声だしらダメ。キャンプ場の人たちが起きてしまって」「あ、ごめん」私はあわてて口をふさいだ。
「ちょっと冗談が行き過ぎたね。ホントごめん」と彼は苦笑い。
「もう!」私は少し安心したのか目に涙が浮かんでくる。

「そうだ、あれを持ってきたんだ。ちょっとそこで待ってて」彼は何かを思い出したようだ。突然バンガローに戻り、2・3分で戻って来る。

「これ。今夜満月見ながら食べようと持ってきたんだ」

月餅

「あ、えっと、なんだっけ中国の御菓子」

「月餅だよ」
「あそうそう、ゲッペイね」
「ユエビンと現地ではいうそうだ。本当は十五夜に食べる物だけど。せっかくの休み。ちょうど9月1日から今年の月餅販売開始だったから、一昨日買って来たんだ」

「へえ、じゃあ正式じゃないけど、ハーベストムーンのふたりだけのお月見楽しみましょうか」
 彼は黙って頷くと私に月餅をひとつくれた。そして、深夜の月夜に照らされながら、月餅をふたりで静かに食べるのだった。

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こちら2つの企画に参加してみました。(久しぶりのツイン参加)


※こちらの企画、現在募集しています。
(エントリー不要!飛び入り大歓迎!! 10/10まで)

こちらは63日目です。

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シリーズ 日々掌編短編小説 229

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