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私のコレクション 第1127話・3.10

「何かに生かせないかな」茶色い帽子をかぶった男は、物思いにふける。男はあるものをコレクションにしているコレクターだ。いったいつから始めたのだろう。コレクションは集める気もないのに気が付いたら家に集まってきていたもの。「だったらどんどん」ということになり、そのものが山のように溜まったのだ。

「集めたのはよかったが、さてと...…」男は目の前にある無数のコレクションを見ながら腕を組む。これらのコレクションはもともとは実用品として製造されたもの。といってももう年代物ばかりで実用品として使えなくはないだろうが、どちらかといえば骨とう品に近いものともいえる。

「これだけ集めたんだ。例えば展示してみんなに見せたい気もするな」男はそんなことを考えた。男はそこそこ金はある。とんでもないほどのお金を持っている富裕層とまでとは言い切れないが、人によっては富裕層と思われるほどの収入があった。そのうえ先祖代々からの土地もある。

「相談してみよう」男はそうと思ったら友達に相談した。「ほう、個人ミュージアムかいいじゃないか」相談した相手は大工である。つまりミュージアムの建物を建てる相談をしたのだ。こうしてとんとん拍子に話が進み、後日大工が家にどんなものか来ることになった。

ーーーーーーー
「すごい多くあるな、よく集めたもんだ」大工の友達は男の作品を見て目を丸くしている。「これは一部だ、まだ家の倉庫に眠っている」「どのくらいあるんだ!」大工の問いに男は視線を斜め上に向けて考えるそぶりを見せた。
「どうだろうなぁ、数えたことがないが、少なくともこの3倍はあるな」
「そうかあ、だったら」大工は目の前のコレクションと、この3倍があるという話で、どのくらいのスペースが必要なのか頭で計算する。
「で、どこに建築しようと思っているんだ」「おう、こっちだ」男は大工を外に連れ出した。隣に空き地のような庭がある。何も使っていないから雑草が思うがままに生えていて、膝くらいの高さまで伸びていた。

「雑草の刈り取りは、俺がするよ」男はそう言って雑草をひとつ引っこ抜く。その横で大工は考え事をしている。つまりスペースと男が所有するコレクションの量でどのような建物が最適なのか頭の中でイメージしていた。
 5分くらいそのような時間があったが、「よし、図面書くぞ」というと、その場を後にしてく。

 さらに数日が経過した。「よし、これでどうだ」大工は図面を男に見せる。「任せる、で、見積金額は」「これだ」大工は封筒を男に渡した。男は封筒に入っている見積額に目を通す。
「友達のよしみだ、安くしてやったぜ」と大工は口元を緩める。男は、「わかった」と少し間顔になっていた。だが、顔の表情に余裕がある。それは想定していた予算よりも低かったからだ。

 こうして庭に建物が作られ始めた。前日までに男は雑草を刈り取ったが、この大工の友達も手伝ってくれたのだ。大工は仲間とともに淡々と足場から作っていく。男はこの工程をただ眺めているだけ、それでも頭の中では図面で描かれていた完成した姿を想像して楽しむ。

 工事が始まって時間が経過した。すっかり現実のものとなっている建物も、最後の塗装作業が終わり、ほぼ完成している。
「ありがとう。これであとは俺のコレクションを展示したら終わりだ」
「でも、これ誰に管理させるんだ?」大工は意外な質問をしたが、男はそこまで考えていなかった。
「ずっとお前が管理するのも大変だろう。実は俺の友達に学芸員の資格を持っている者がいるんだ」というと、男の返事を待たずに大工は電話をした。

 こうして後日、大工の紹介と称して学芸員の資格を持つ人が現れる。男は挨拶もそこそこに、さっそくコレクションの展示を指示した。この学芸員を雇う必要があるので、有料で見学できる施設にする。男はこれで稼ごうとは思っていない。ただ赤字なら赤字で税金対策にはなるだろう。

「いよいよ明日からか」男は自らのコレクションを集めたミュージアムを見て喜ぶ。SNSを使って予告もしたし、チラシも作成した。あとは明日のオープン当日を待つばかり。男は心躍るような気持ちで家に戻った。

ーーーーー
「あ、もう、こんな時間だ」男はコレクションを前にしばらく想像の世界に入っていたようだ。男は別に資産家ではない。むしろ貧乏な部類のかもしれなかったがそこは微妙なところ。そう、ミュージアム建設の話は、男の頭の中の妄想に過ぎなかった。
「ここまで集めたんだ。博物館に委託しようか?管理してくれる人がいれば」

 男は目の前のコレクションを前にどうしたものかため息をついた。


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