秋のイラスト展 第1007話・10.28
「後悔するかなぁ。いやしないと思う」一枚の柿のイラストを見てふと考えた。「秋のイラスト展」が開催されると聞いてまもなく一か月。締め切りまであと3日の段階で、ようやく秋をイメージしたイラストが完成した。
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この日の前の日に秋のイラスト展開催という情報を知り、イラストにチャレンジすることに決めた。なぜならば応募資格が無い。
むしろ今までイラストを描いたことがないような初心者にも広く募集をしているほどだ。
だが普段からイラストを描いていないのに、いきなりチャレンジしてうまく描けるのだろうか?
決意してから、ものの5分もたたないうちに迷いが生じる。「写真の方が良かったかなあ」奇しくも同時開催で写真コンクールもあった。写真は撮るだけで形にはなる。それが芸術的云々は別としてだ。
だが、イラストは一から自分で描かなければならない。これがあらかじめ枠がある塗り絵であるならば、適当に色を見つけて、色鉛筆でもクレヨンでも何でも良いが、白いところを塗れば形ににある。だけど何もない白い紙から輪郭などを自分で決めて書かなければならない。そんなことを考えるといきなり挫折しかけてしまった。
「やっぱりやめようか」と思ったとき、心のどこからに潜んでいたのだろうか?頭の中から声がする。「せっかくのチャンスがもったいない。この機会を逃したら二度とイラスト書けないよ」
「ほう、これがいわゆる天使と悪魔のささやきというやつだな」物語などではよく聞かれる、究極の選択を迫る声。天使のような『良』は、さらなる苦難が待っていて戸惑うパターンで、悪魔の『悪』は、楽な方を選んで崩壊するというやつだ。
「この声はどっちだ、言い回しは悪魔っぽいが、天使っぽくもある。うん、せっかく頭からささやきが聞こえたんだ。イラストやってみよう」
心からの言葉の後押しで、初めてイラストにチャレンジすることに決めた。さっそく買いに走る。ここで形から入る場合は、画材売り場に行くだろう。だが挫折する可能性がある。だから100円ショップで販売しているものを選んだ。スケッチブックとクレヨンを手に戻ってきた。
「何描こうか?」ここで悩みが生じる。テーマは秋でなくてはならない。「やっぱりハロウィンかなあ」と腕を組んで考えていると、また声が聞こえる。「やめておきな。描いたら恥をかくぜ、せっかくの秋だからグルメでも楽しんだら」
このとき、ふと思った。「こいつ悪魔だな」と。「もし先にこいつの声が聞こえたら悪魔のささやきに負けていただろう。だがさっきのは天使。そして画材を買った。もう引きさがれない」と、むしろ悪魔のささやきを突っぱねた。
「といっても、何を書くかが問題だ。そうだ悪魔の奴、グルメっていってたな。腹が減っては戦が出来ぬってか」
と思い立ち上がり、何か食べるものがないか探す。「こんなことなら、ついでに何か買ってきたらよかったなあ」
そんなこと考えると急にお腹の虫が鳴った。「やっぱり何か買ってこよう」と近所のスーパーに向かう。偶然かどうかわからないが、住んでいるところは、最も近いコンビニよりも食品スーパーが近いのだ。
「何買おうか、お、そうかもう柿のシーズンだな」このとき三度声が「柿は秋のテーマにぴったりだ」「おいおい、こんなところで!」天使なのか悪魔なのかわからないが声が聞こえた。
だがそれは近くにいた小学生が偶然に口走っただけであるが、当の本人はわからない。
「柿が秋のテーマかそれがいい」ということで柿を買う。いつもより多い目に柿を買った。その中で最もきれいな柿は描画用に、残りは食べるためである。
「輪郭とか、鉛筆でうすく下書きをすればいいかな」本当の初心者だからどう描いていいかわからない。我流というかほぼ適当に作業を進める。柿をじっくりと眺めたことはこれまで無かったが、眺めてみるとなかなか面白い。上から眺めたり横から眺めたりしながら、悩みながら結局横から書き始める。鉛筆で見えない程度に下書きをしてから色を塗る。「単なるオレンジだけでなく、赤と黄色も混ぜようかな」とか考えながら本番の着色を始めた。
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「できた!」昨夜は深夜まで起きて作業をして、いったん寝て次の日のお昼についにイラストは完成する。ただ柿だけを描いてもつまらないと、背景も書いたので時間がかかった。「床は青く、横壁は赤っぽく使用。いや待てよ。後光ではないが、柿にオーラのような光を入れると際立つかなあ」
全くの初心者なのにあれこれ考えた力作。一応秋のテーマにはなっている。
「よし申し込もう」ともう一度募集要項を見た。ここで大きな間違いに気づく。「え、有料で出展料を払うの?」そうあくまでイラスト展の募集であり、コンテストではない。
「コンテストだとばかり思っていた......」有料で出展料を払えば参加はできるが、100円のスケッチブックに書いたクレヨンの絵1枚を出展するってどうなんだろう。そんなことを頭に思い浮かべ、完成した絵を眺めながら、モチーフとして利用していた柿を食べるのだった。
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シリーズ 日々掌編短編小説 1007/1000
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